第24章「羽衣狐編」
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「式神の気配を辿ってきたぞ。本家には定期的に連絡を寄越せと言ってあったろう?」
(あの人は……)
現れた二人組の男を、彩乃は呆然と見つめた。
一人はゆらの兄である花開院竜二であったが、もう一人の男は初めて見る顔だ。
かなりの長身で、全身を黒の服装で覆われている。
竜二と共にいることから、きっと陰陽師の関係者なのだろう。
竜二たちはゆっくりとゆらに歩み寄る。
そして周りの状況から、何か納得したように薄ら笑いを浮かべた。
「ああ……"修業"か……だが何故こんな所でしている?外を歩けばこの街は至る所で妖怪に出会うぜ?」
ゆらに近づきながら、竜二はちらりと彩乃の方を見る。
それにスっと目を細めると、今度はその隣にいるリクオに視線を向けた。
すると、竜二の視線が何故か鋭いものに変わった気がした。
それは殺気を纏ったような鋭いものであったが、ゆらも彩乃たちも気付かない。
「……何しに来たんお兄ちゃん……」
「竜二……」
「……何してるって……ゆらぁ……そりゃあお前……」
竜二の隣にいる長身の男が竜二の名を呼ぶ。
しかし、それに答えることなく彼は何故か竹筒を懐から取り出した。
そして殺気の籠った鋭い目をこちらに向けたまま、小さく呟く。
「陰陽師は……基本、妖怪退治だろーが。」
「餓狼!!」
「え……!?」
竜二は何故か突然、己の式神をゆらたちに向けて放ったのである。
いきなり攻撃されたゆらたちは茫然としていたが、すぐに真っ青になった。
「お兄ちゃん!?」
「彩乃ちゃん!!こっちへ!!」
「ひゃっ!!?」
ゆらは突然兄に攻撃されて、訳が分からずに叫びながらも、なんとか横に飛んで攻撃をかわした。
リクオは彩乃の手を引いて壁際へと飛ぶ。
そして次の瞬間、ものすごい速さで餓狼が彩乃の横をスレスレに通り過ぎていった。
あまりの迫力と威力に、あれがもし当たっていたらと想像して、さぁっと血の気が引いた。
「なっ、なっ……」
「何するんや!!いきなり!!」
彩乃があまりの事に震えて言葉にできずにいると、先に立ち直ったらしいゆらが怒り奮闘に叫んだ。
すると竜二は音もなくゆらに近づき、彼女の頭にそっと手を置いた。
それは頭を撫でるとか、そういう優しい感じではなかった。
少し離れている彩乃にも伝わる程の、殺気と緊張感をまとったまま、彼はゆらの耳元にささやくように言う。
「ゆら……そいつは……何だ?」
「な……何や?」
兄の様子がおかしい事に、ゆらもやっと気付いたらしい。
彼から感じられる殺気と緊張感に、ゆらはぞっとして、顔を青ざめた。
何故だろう。心臓の音がやけに大きく響く。
「別に……友達や?学校の……」
「本気で言ってる訳じゃないよな?」
「……え?」
「まさか……"気付いてない"訳じゃないだろーな?」
ドクンっと、またゆらの心臓の音が大きく跳ねた。
ドクンドクンと、鼓動の音が速くなっていく。
これは……警告だ。
この先を聞いてはいけないと。聞いてはダメだと。
やめろ、やめろ言うな。その先を聞いてしまったら、もう戻れなくなる。
何も知らなかったと、言い訳ができなくなる。
しかし、ゆらの気持ちを無視して、竜二はその言葉を口にする。
そしてゆらの耳は、嫌でもそれを拾ってしまった。
「そいつ……妖怪だぜ。」
その瞬間、ゆらの顔が絶望に染まる。
それを竜二はどう解釈したのか、呆れたようにため息をつく。
そんな二人のやり取りを、リクオと彩乃はただ眺めることしかできない。
「呆れたぜゆら。まったくお前は本当に鈍い妹だな……」
「………」
「ホラ、いくぞ!!妖怪に会ったらどうする?」
「……っ」
「妖怪は絶対"悪"!!やることは……わかってるな?」
まだ現状を理解できていないのか、ゆらはその言葉に答えない。
ただ、茫然と俯いてたたずんでいた。
ゆらは今、決断しなければならない。何を守り、何を誇りとするかを――
*
「餓狼、喰らえ。」
竜二の命令で竹筒から餓狼が飛び出してくる。
狼の姿を象った大量の水が彩乃とリクオに襲いかかる。
それにゆらが慌てて止めに入る。
「お兄ちゃん!」
「お前もやるんだ、ゆら。ずぅ〜〜っと教えてきた筈だぜ。妖怪は絶対“悪“会えば即滅しろと。」
リクオのお陰で竜二の一撃をぎりぎり交わしたものの、砂埃が舞い上がって、思わずむせてしまう。
「ケホケホ!いきなり何!?」
「……彩乃ちゃん、僕から離れて。」
「でも!」
「あの人の狙いは僕だけだ。」
「それなら私が側にいた方が攻撃してこないんじゃ!」
「……いや、さっきあの人は彩乃ちゃんがいるのに攻撃してきた。あくまでも威嚇だったみたいだけど、それでも絶対なんて保証はない。だから……!」
リクオくんが竜二さんから目を逸らさずに言う。
竜二さんはきっとリクオくんが妖と人間の混血であることに気づいている。
だから陰陽師としてリクオくんを祓おうとしているのだろう。
それは陰陽師としては間違っていないのかもしれないけれど、いきなり攻撃してくるのはあまりにも酷いと思う。
だけど私が傍にいたところで、私はゆらちゃんみたいに結界をはったり戦うことなんてできないし、完全にリクオくんにとって足でまといでしかないだろう。
それでも……何かできることはないのかな。
こうして悩んでいる間にも竜二さんが攻撃してくるかもしれない。
私を庇っているせいでリクオくんも思うように動けないかもしれない。私は、足でまといにだけはなりたくない。
「……わかった。気をつけてね。」
「うん!」
私が側にいても竜二さんは攻撃してきた。だかきっと私はリクオくんの盾にはならないだろう。
それならせめて、足でまといにならないでいようと思った。
私が素直に従ってリクオくんから離れると、リクオくんはホッとしたような顔をした。
(……これでリクオくんは少しは集中できるかな?でも……)
赤々と燃えるような夕焼け空を見上げる。
今の時間帯なら、リクオくんは妖の姿になれる。でも、ゆらちゃんの前で変化なんてできるんだろうか。
きっとリクオくんはゆらちゃんに正体をこんな形で知られたくはなかった筈だ。
それがなんとなくわかるから、胸が痛かった。
私がリクオくんから離れたのを見ると、竜二さんはにっと口角を釣り上げて笑う。
「……妖怪のくせに人間を盾にしないのか?夏目が側にいれば攻撃しなかったかもしれないぞ?」
「二度も不意打ちで攻撃しておいてよく言うよ。例え彩乃ちゃんが側にいても、あんたは僕だけ攻撃できる手段はあるんだろ?」
質問には答えず、フッと口元だけを釣り上げて竜二が笑う。
それは肯定を意味しているのだとリクオは受け取った。
「まだ正体を明かす気はないか?人に化け……たぶらかす妖怪よ。」
「竜二さん!やめてください!」
「お前は邪魔するな夏目。……お前には後で話がある……が、今はこいつを倒す方が先だ。」
竜二はリクオを睨みつけると、あくどい笑みを浮かべて構えた。
「人の姿のままでは心が痛むが……絶対“悪“は滅するのみだ!」
「リクオくん!」
ドゴォォっと激しい水の攻撃に廃屋の壁が崩れ落ちる。
砂埃が舞い上がってリクオの姿が見えなくなる。
思わず彩乃は彼の名を叫ぶが、返事はない。
「これでいい……ゆら。本題に入ろうか。」
「あっ!」
「!?」
竜二は完全に勝利を確信したのか、肩の力を抜いたようだった。
けれど砂埃が徐々に晴れ、彩乃がその先に見た光景に思わず声を漏らすと、竜二は振り返って目を見開いた。
そこにはリクオを守るように背に庇い、札で結界をはったゆらがいた。
それにはリクオも驚いたようで、戸惑った様子でゆらを見る。
「……え?」
「おいおい何のつもりだゆら……」
「け……花開院さん?」
(ゆらちゃんが……リクオくんを守った。)
どういうことだろう。
ゆらちゃんはまだリクオくんの正体に気付いていない?
それとも兄である竜二さんの言葉をまだ信じていないだけなのだろうか。
そんなことをぐるぐると考えていると、ゆらちゃんは真っ直ぐな目でリクオくんを見つめた。
「……奴良くん……奴良くんは……」
「え……」
「奴良くんはーー人間やんな?」
(ゆらちゃん……)
ゆらちゃんは疑ってるんだ。
リクオくんが本当は妖なんじゃないかって。
それでも……疑ってても、守ってくれた。今も、リクオくんを信じようとしてくれてる。
リクオくんもそれが伝わったのか、力強くゆらちゃんの問いかけに頷いてみせた。
「僕は……人間だよ!」
「うん!」
その言葉で迷いが吹っ切れたのか、ゆらは嬉しそうに笑う。
今度こそ迷いのないまっすぐな目で竜二を見据えると、凛としたたたずまいで叫んだ。
「お兄ちゃん聞いたやろ!リクオくんは敵と違う!」
「…………自分のやったことがわかっているのかお前は……妖怪を庇うのは花開院家の掟に背くことだ。この兄を信じられんのか。」
「私は奴良くんの言葉を信じる!奴良くんは私の仲間やもん。……私は……奴良くんを信じる私を信じる!」
「ちっ!」
迷いのない強い意志の宿ったゆらの言葉に、竜二は思わず舌打ちする。
「奴良くんは倒さなあかん敵やない!わからんのやったら……お兄ちゃんと言えども私が倒す!」
ゆらがそう口にした瞬間、竜二の纏う空気が変わった。
まだ妹に情があったのだろう。ほんの少しだけ隙のあった様子から一変して、冷たい殺意の籠った空気に変わる。
怒っている……竜二は今、とても怒っているのだ。
「倒す?……ゆら……自分の言葉に責任を持てよ……」
その言葉が合図だった。
竜二が殺気立った目でゆらを睨みつけると、ゆらはすかさず式神の札を構えたのだった。
(あの人は……)
現れた二人組の男を、彩乃は呆然と見つめた。
一人はゆらの兄である花開院竜二であったが、もう一人の男は初めて見る顔だ。
かなりの長身で、全身を黒の服装で覆われている。
竜二と共にいることから、きっと陰陽師の関係者なのだろう。
竜二たちはゆっくりとゆらに歩み寄る。
そして周りの状況から、何か納得したように薄ら笑いを浮かべた。
「ああ……"修業"か……だが何故こんな所でしている?外を歩けばこの街は至る所で妖怪に出会うぜ?」
ゆらに近づきながら、竜二はちらりと彩乃の方を見る。
それにスっと目を細めると、今度はその隣にいるリクオに視線を向けた。
すると、竜二の視線が何故か鋭いものに変わった気がした。
それは殺気を纏ったような鋭いものであったが、ゆらも彩乃たちも気付かない。
「……何しに来たんお兄ちゃん……」
「竜二……」
「……何してるって……ゆらぁ……そりゃあお前……」
竜二の隣にいる長身の男が竜二の名を呼ぶ。
しかし、それに答えることなく彼は何故か竹筒を懐から取り出した。
そして殺気の籠った鋭い目をこちらに向けたまま、小さく呟く。
「陰陽師は……基本、妖怪退治だろーが。」
「餓狼!!」
「え……!?」
竜二は何故か突然、己の式神をゆらたちに向けて放ったのである。
いきなり攻撃されたゆらたちは茫然としていたが、すぐに真っ青になった。
「お兄ちゃん!?」
「彩乃ちゃん!!こっちへ!!」
「ひゃっ!!?」
ゆらは突然兄に攻撃されて、訳が分からずに叫びながらも、なんとか横に飛んで攻撃をかわした。
リクオは彩乃の手を引いて壁際へと飛ぶ。
そして次の瞬間、ものすごい速さで餓狼が彩乃の横をスレスレに通り過ぎていった。
あまりの迫力と威力に、あれがもし当たっていたらと想像して、さぁっと血の気が引いた。
「なっ、なっ……」
「何するんや!!いきなり!!」
彩乃があまりの事に震えて言葉にできずにいると、先に立ち直ったらしいゆらが怒り奮闘に叫んだ。
すると竜二は音もなくゆらに近づき、彼女の頭にそっと手を置いた。
それは頭を撫でるとか、そういう優しい感じではなかった。
少し離れている彩乃にも伝わる程の、殺気と緊張感をまとったまま、彼はゆらの耳元にささやくように言う。
「ゆら……そいつは……何だ?」
「な……何や?」
兄の様子がおかしい事に、ゆらもやっと気付いたらしい。
彼から感じられる殺気と緊張感に、ゆらはぞっとして、顔を青ざめた。
何故だろう。心臓の音がやけに大きく響く。
「別に……友達や?学校の……」
「本気で言ってる訳じゃないよな?」
「……え?」
「まさか……"気付いてない"訳じゃないだろーな?」
ドクンっと、またゆらの心臓の音が大きく跳ねた。
ドクンドクンと、鼓動の音が速くなっていく。
これは……警告だ。
この先を聞いてはいけないと。聞いてはダメだと。
やめろ、やめろ言うな。その先を聞いてしまったら、もう戻れなくなる。
何も知らなかったと、言い訳ができなくなる。
しかし、ゆらの気持ちを無視して、竜二はその言葉を口にする。
そしてゆらの耳は、嫌でもそれを拾ってしまった。
「そいつ……妖怪だぜ。」
その瞬間、ゆらの顔が絶望に染まる。
それを竜二はどう解釈したのか、呆れたようにため息をつく。
そんな二人のやり取りを、リクオと彩乃はただ眺めることしかできない。
「呆れたぜゆら。まったくお前は本当に鈍い妹だな……」
「………」
「ホラ、いくぞ!!妖怪に会ったらどうする?」
「……っ」
「妖怪は絶対"悪"!!やることは……わかってるな?」
まだ現状を理解できていないのか、ゆらはその言葉に答えない。
ただ、茫然と俯いてたたずんでいた。
ゆらは今、決断しなければならない。何を守り、何を誇りとするかを――
*
「餓狼、喰らえ。」
竜二の命令で竹筒から餓狼が飛び出してくる。
狼の姿を象った大量の水が彩乃とリクオに襲いかかる。
それにゆらが慌てて止めに入る。
「お兄ちゃん!」
「お前もやるんだ、ゆら。ずぅ〜〜っと教えてきた筈だぜ。妖怪は絶対“悪“会えば即滅しろと。」
リクオのお陰で竜二の一撃をぎりぎり交わしたものの、砂埃が舞い上がって、思わずむせてしまう。
「ケホケホ!いきなり何!?」
「……彩乃ちゃん、僕から離れて。」
「でも!」
「あの人の狙いは僕だけだ。」
「それなら私が側にいた方が攻撃してこないんじゃ!」
「……いや、さっきあの人は彩乃ちゃんがいるのに攻撃してきた。あくまでも威嚇だったみたいだけど、それでも絶対なんて保証はない。だから……!」
リクオくんが竜二さんから目を逸らさずに言う。
竜二さんはきっとリクオくんが妖と人間の混血であることに気づいている。
だから陰陽師としてリクオくんを祓おうとしているのだろう。
それは陰陽師としては間違っていないのかもしれないけれど、いきなり攻撃してくるのはあまりにも酷いと思う。
だけど私が傍にいたところで、私はゆらちゃんみたいに結界をはったり戦うことなんてできないし、完全にリクオくんにとって足でまといでしかないだろう。
それでも……何かできることはないのかな。
こうして悩んでいる間にも竜二さんが攻撃してくるかもしれない。
私を庇っているせいでリクオくんも思うように動けないかもしれない。私は、足でまといにだけはなりたくない。
「……わかった。気をつけてね。」
「うん!」
私が側にいても竜二さんは攻撃してきた。だかきっと私はリクオくんの盾にはならないだろう。
それならせめて、足でまといにならないでいようと思った。
私が素直に従ってリクオくんから離れると、リクオくんはホッとしたような顔をした。
(……これでリクオくんは少しは集中できるかな?でも……)
赤々と燃えるような夕焼け空を見上げる。
今の時間帯なら、リクオくんは妖の姿になれる。でも、ゆらちゃんの前で変化なんてできるんだろうか。
きっとリクオくんはゆらちゃんに正体をこんな形で知られたくはなかった筈だ。
それがなんとなくわかるから、胸が痛かった。
私がリクオくんから離れたのを見ると、竜二さんはにっと口角を釣り上げて笑う。
「……妖怪のくせに人間を盾にしないのか?夏目が側にいれば攻撃しなかったかもしれないぞ?」
「二度も不意打ちで攻撃しておいてよく言うよ。例え彩乃ちゃんが側にいても、あんたは僕だけ攻撃できる手段はあるんだろ?」
質問には答えず、フッと口元だけを釣り上げて竜二が笑う。
それは肯定を意味しているのだとリクオは受け取った。
「まだ正体を明かす気はないか?人に化け……たぶらかす妖怪よ。」
「竜二さん!やめてください!」
「お前は邪魔するな夏目。……お前には後で話がある……が、今はこいつを倒す方が先だ。」
竜二はリクオを睨みつけると、あくどい笑みを浮かべて構えた。
「人の姿のままでは心が痛むが……絶対“悪“は滅するのみだ!」
「リクオくん!」
ドゴォォっと激しい水の攻撃に廃屋の壁が崩れ落ちる。
砂埃が舞い上がってリクオの姿が見えなくなる。
思わず彩乃は彼の名を叫ぶが、返事はない。
「これでいい……ゆら。本題に入ろうか。」
「あっ!」
「!?」
竜二は完全に勝利を確信したのか、肩の力を抜いたようだった。
けれど砂埃が徐々に晴れ、彩乃がその先に見た光景に思わず声を漏らすと、竜二は振り返って目を見開いた。
そこにはリクオを守るように背に庇い、札で結界をはったゆらがいた。
それにはリクオも驚いたようで、戸惑った様子でゆらを見る。
「……え?」
「おいおい何のつもりだゆら……」
「け……花開院さん?」
(ゆらちゃんが……リクオくんを守った。)
どういうことだろう。
ゆらちゃんはまだリクオくんの正体に気付いていない?
それとも兄である竜二さんの言葉をまだ信じていないだけなのだろうか。
そんなことをぐるぐると考えていると、ゆらちゃんは真っ直ぐな目でリクオくんを見つめた。
「……奴良くん……奴良くんは……」
「え……」
「奴良くんはーー人間やんな?」
(ゆらちゃん……)
ゆらちゃんは疑ってるんだ。
リクオくんが本当は妖なんじゃないかって。
それでも……疑ってても、守ってくれた。今も、リクオくんを信じようとしてくれてる。
リクオくんもそれが伝わったのか、力強くゆらちゃんの問いかけに頷いてみせた。
「僕は……人間だよ!」
「うん!」
その言葉で迷いが吹っ切れたのか、ゆらは嬉しそうに笑う。
今度こそ迷いのないまっすぐな目で竜二を見据えると、凛としたたたずまいで叫んだ。
「お兄ちゃん聞いたやろ!リクオくんは敵と違う!」
「…………自分のやったことがわかっているのかお前は……妖怪を庇うのは花開院家の掟に背くことだ。この兄を信じられんのか。」
「私は奴良くんの言葉を信じる!奴良くんは私の仲間やもん。……私は……奴良くんを信じる私を信じる!」
「ちっ!」
迷いのない強い意志の宿ったゆらの言葉に、竜二は思わず舌打ちする。
「奴良くんは倒さなあかん敵やない!わからんのやったら……お兄ちゃんと言えども私が倒す!」
ゆらがそう口にした瞬間、竜二の纏う空気が変わった。
まだ妹に情があったのだろう。ほんの少しだけ隙のあった様子から一変して、冷たい殺意の籠った空気に変わる。
怒っている……竜二は今、とても怒っているのだ。
「倒す?……ゆら……自分の言葉に責任を持てよ……」
その言葉が合図だった。
竜二が殺気立った目でゆらを睨みつけると、ゆらはすかさず式神の札を構えたのだった。