第23章「いつかくる日編」
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赤とオレンジの混ざった美しい色鮮やかな朱色が美しく空を彩る夕暮れ時。
友人帳の名を返しにリクオくんの家に行くのが最早当たり前になってきた私は、今日もその帰りだった。
駅へ向かって慣れた道を歩いていると、足元に何か落ちているのに気が付いた。
「……手紙?」
落ちていたのは白い封筒で、誰かの落し物だろうか。
私は近くに誰かそれらしき人がいないかとそれを拾ってキョロキョロと辺りを見回した。
すると近くの公園のベンチに1人、10代後半くらいの青年が座っているのを見つけた。
他に人らしき人はいないので、恐らくあの人が落とした物だろうと思って、念の為に声をかけてみることにした。
「ーーあの、これ落としましたか?」
「ん?」
その青年は私が声をかけるとちらりと私が持っている封筒を見て、慌てたように自分のズボンのポケットを探った。
その様子から見て、やはりこの手紙の落とし主はこの人だったのだと安心した。
青年は慌てて立ち上がると、私の元へとやって来た。
「悪い。それ俺のだ。」
「持ち主が見つかって良かったです。」
青年に手紙を渡すと、余程大事なものだったのか、青年はほっと心底安堵したように表情を和らげた。
「ーー助かった……あんたが拾ってくれなかったら気付かず無くすところだったぜ……」
「じゃあ、私はこれで……」
「待った。あんたその制服……浮世絵中だろ?」
「そうですけど……それが何か?」
「人を探してるんだ。あんたと同じ浮世絵中の卒業生なんだが……」
「えっと……申し訳ないんですが卒業生だとちょっと分からないです。」
「妖が見える奴でもか?」
「ーーえ?」
そう言った青年の言葉に、サッと青ざめる。
そうか、この人は妖か……見た目が人間とあまりにも変わらないからわからなかった。
私の顔色が変わったのに気付いたのか、青年は呆れたような顔をする。
「あんた鈍いな。」
「……人だと勘違いしてる時は指摘して。後で気付くと……少し悲しくなるの。」
「ーーそうか。それは悪かった。」
青年は何を思ったのか、少し悲しそうな顔をすると、申し訳なさそうに謝ってくれた。
「妖がどうしてそんな格好を?スーツ?」
「俺がどんな格好しようと勝手だろ。」
「そうだけど……」
でも、経験から言って、こうしてまるで人のような格好をしている妖にはたいてい、傍にいたいと想う相手が……
「探している人の名前は?さっき私と同じで見えるって言ってたけど……」
「 園川香 。確か高二だ。聞いたことはないか?」
「ーーえっ、探してるのは女の子?」
「……そうだ。悪いか。」
そう言って照れたようにほんのり顔を赤してそっぽを向く青年に、もしかしてこれは想い人とかそういう人なのかと察する。
それになんだか可愛いなと思いながら微笑む。
「見えると言っても、お前ほどじゃない。香は波長の合う妖がたまに目に映るってレベルだ。……まあ、相性がいいのか、俺のことだけはがっつり見えていた……が、故あって縁を切ったのさ。」
「故って、どんな?」
「えっ?…………それはどうだっていいだろうくだらん事だ。」
「……」
私が訝しげに見つめると、青年はコホンっと一つ咳払いして話し始める。
「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺は葵。」
「……なんか誤魔化した?私は夏目。」
「してない。……まあいいさ。知らないなら後は自力で探す。悪かったな夏目。」
そう言うと、葵と名乗った妖はスっと目を細めて遠くを見つめた。
「ーー本当に、声をかけてくれて助かったぜ夏目。こうして久しぶりに人と話をしていたら思い出してきた。色々と……そうだった。縁を切ったんだった。なのに俺は……あんな手紙ごときで動揺して……危うく会いに行っちまうところだった。」
「……葵、さん?」
「…………帰るか。」
「えっ!?」
何かぶつぶつと呟き出したかと思えば、突然大きなため息と共に真顔で帰ると言い出した葵さんに、私は慌てた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!それじゃ私が会うのを邪魔したみたいじゃない!」
「別にあんたのせいって事じゃないぜ。のこのこ来た俺がマヌケだって話だ。」
「うっ……て、手紙……手紙にはなんて書いてあったの?何か手がかりになるかも!」
「……それは……これは……本当は手紙じゃないんだ。これは……「おい彩乃。七辻屋新作の中身は白あんらしいぞ!」」
葵さんが何かを言いかけた時、草むらから突然ニャンコ先生がひょっこりと飛び出してきた。
あまりにも予想外の登場に、私と葵さんはびくりと肩を跳ね上げる。
「わあ!大だぬき!」
「ニャンコ先生!」
「……先生!?」
「む?なんだその鴉っぽいガキは。」
「……夏目の知り合いか?」
「えっ、まあ……」
「しかもあのタヌキ、白いぞ……」
そう言うと葵さんはまじまじと信じられないものを見るような目で、ニャンコ先生を見つめ始めた。
「ーー白いタヌキってのは、高徳なお方や神域に近いお方だと兄者たちに聞いたことがある。」
「えっ」
「そんなお方と知り合いとはあんた一体何者だ!」
「!!?、葵さん落ち着いて!!そしてよく見てこの生物を!!」
なんて事だ。葵さんはとんでもない勘違いをしている。
先生はただの白くて丸く太っただけのニャンコだというのに……
「む……この気配、お前結構大物だな。」
「は、俺……私は籠目岳で杜守りの修行中の身。」
「籠目岳といえば、超美味な酒の泉があると聞くが……」
「泉守も我が師、銅鷹様と門下の役目。」
「ほう……よし気に入った!家で茶でも飲んでいくがいい。」
「先生!」
「は、しかし恐れ多くもまだ若輩。お招き頂く身分では……」
勝手に話を進める先生に呆れつつ、断ろうとしている葵を今度は自分から家に招こうと彩乃が口を開きかけた時であった。
バサバサと遠くから羽音が近づいて来る音に、彩乃たちはふっと顔を上げた。
「おお、『銅鷹』の小僧め。見かけて後をつけてみれば……これは好機!群れていないお前なぞ怖くはないぞ!」
何やら鳥のような、そうじゃないような……
羽の生えた変な妖がこちらを見下ろしながらケタケタと笑っている。
どうやら葵さんが狙いのようだが、ここで見捨てるという選択肢は私にはなかった。
「鳥のお化け!葵さん下がって!」
「いや、お前が下がれ!」
葵さんが全力でツッコミながら私を背に庇う。
「日頃の恨み、ここで晴らさせてもらおう!」
「下級が……」
鳥のような妖がこちらに突進してくるも、ニャンコ先生が本来の姿に戻って軽く鳥の妖を前足で叩き落とした。
「ぐひゃ!」というまるで蛙が潰れたような声を出し、地面に叩きつけられた鳥の妖は、力では先生に勝てないと理解したようで「ひぃぃ!」と小さな悲鳴を上げて慌てて飛び去って行ったのだった。
「ふん!葵とやら、騒がしいことだな。まあ杜守りなど恨みも買いやすいだろうよ。」
「……今のが白狸様の真のお姿…!?白狸様、お名前は……」
「ニャンコ先生だ!」
「ははー!」
「ね、葵さん。ニャンコだって。猫なの。ただの猫なの。」
キリッと凛々しいキメ顔で「ニャンコ先生」と名乗る先生と、膝まづいて平伏する葵さん。
なんとも普段の先生の扱いとはまるで違うシュールな光景に、彩乃は必死で葵の目を覚まさせようと思ったのだった。
だって本当に普段から食べてばかりのおデフニャンコなのだ。
とても神聖な妖には彩乃には見えなかった。
「彩乃、帰るぞ。小僧、お前も来い!」
「はっ、しかし……」
「先生が気に入るのって珍しいんだよ。だから遠慮せず寄っていって、葵さん。」
「むっ、そこまで言うなら……」
こうして、奇妙な縁があって葵さんが我が家に来ることになったのだった。
友人帳の名を返しにリクオくんの家に行くのが最早当たり前になってきた私は、今日もその帰りだった。
駅へ向かって慣れた道を歩いていると、足元に何か落ちているのに気が付いた。
「……手紙?」
落ちていたのは白い封筒で、誰かの落し物だろうか。
私は近くに誰かそれらしき人がいないかとそれを拾ってキョロキョロと辺りを見回した。
すると近くの公園のベンチに1人、10代後半くらいの青年が座っているのを見つけた。
他に人らしき人はいないので、恐らくあの人が落とした物だろうと思って、念の為に声をかけてみることにした。
「ーーあの、これ落としましたか?」
「ん?」
その青年は私が声をかけるとちらりと私が持っている封筒を見て、慌てたように自分のズボンのポケットを探った。
その様子から見て、やはりこの手紙の落とし主はこの人だったのだと安心した。
青年は慌てて立ち上がると、私の元へとやって来た。
「悪い。それ俺のだ。」
「持ち主が見つかって良かったです。」
青年に手紙を渡すと、余程大事なものだったのか、青年はほっと心底安堵したように表情を和らげた。
「ーー助かった……あんたが拾ってくれなかったら気付かず無くすところだったぜ……」
「じゃあ、私はこれで……」
「待った。あんたその制服……浮世絵中だろ?」
「そうですけど……それが何か?」
「人を探してるんだ。あんたと同じ浮世絵中の卒業生なんだが……」
「えっと……申し訳ないんですが卒業生だとちょっと分からないです。」
「妖が見える奴でもか?」
「ーーえ?」
そう言った青年の言葉に、サッと青ざめる。
そうか、この人は妖か……見た目が人間とあまりにも変わらないからわからなかった。
私の顔色が変わったのに気付いたのか、青年は呆れたような顔をする。
「あんた鈍いな。」
「……人だと勘違いしてる時は指摘して。後で気付くと……少し悲しくなるの。」
「ーーそうか。それは悪かった。」
青年は何を思ったのか、少し悲しそうな顔をすると、申し訳なさそうに謝ってくれた。
「妖がどうしてそんな格好を?スーツ?」
「俺がどんな格好しようと勝手だろ。」
「そうだけど……」
でも、経験から言って、こうしてまるで人のような格好をしている妖にはたいてい、傍にいたいと想う相手が……
「探している人の名前は?さっき私と同じで見えるって言ってたけど……」
「
「ーーえっ、探してるのは女の子?」
「……そうだ。悪いか。」
そう言って照れたようにほんのり顔を赤してそっぽを向く青年に、もしかしてこれは想い人とかそういう人なのかと察する。
それになんだか可愛いなと思いながら微笑む。
「見えると言っても、お前ほどじゃない。香は波長の合う妖がたまに目に映るってレベルだ。……まあ、相性がいいのか、俺のことだけはがっつり見えていた……が、故あって縁を切ったのさ。」
「故って、どんな?」
「えっ?…………それはどうだっていいだろうくだらん事だ。」
「……」
私が訝しげに見つめると、青年はコホンっと一つ咳払いして話し始める。
「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺は葵。」
「……なんか誤魔化した?私は夏目。」
「してない。……まあいいさ。知らないなら後は自力で探す。悪かったな夏目。」
そう言うと、葵と名乗った妖はスっと目を細めて遠くを見つめた。
「ーー本当に、声をかけてくれて助かったぜ夏目。こうして久しぶりに人と話をしていたら思い出してきた。色々と……そうだった。縁を切ったんだった。なのに俺は……あんな手紙ごときで動揺して……危うく会いに行っちまうところだった。」
「……葵、さん?」
「…………帰るか。」
「えっ!?」
何かぶつぶつと呟き出したかと思えば、突然大きなため息と共に真顔で帰ると言い出した葵さんに、私は慌てた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!それじゃ私が会うのを邪魔したみたいじゃない!」
「別にあんたのせいって事じゃないぜ。のこのこ来た俺がマヌケだって話だ。」
「うっ……て、手紙……手紙にはなんて書いてあったの?何か手がかりになるかも!」
「……それは……これは……本当は手紙じゃないんだ。これは……「おい彩乃。七辻屋新作の中身は白あんらしいぞ!」」
葵さんが何かを言いかけた時、草むらから突然ニャンコ先生がひょっこりと飛び出してきた。
あまりにも予想外の登場に、私と葵さんはびくりと肩を跳ね上げる。
「わあ!大だぬき!」
「ニャンコ先生!」
「……先生!?」
「む?なんだその鴉っぽいガキは。」
「……夏目の知り合いか?」
「えっ、まあ……」
「しかもあのタヌキ、白いぞ……」
そう言うと葵さんはまじまじと信じられないものを見るような目で、ニャンコ先生を見つめ始めた。
「ーー白いタヌキってのは、高徳なお方や神域に近いお方だと兄者たちに聞いたことがある。」
「えっ」
「そんなお方と知り合いとはあんた一体何者だ!」
「!!?、葵さん落ち着いて!!そしてよく見てこの生物を!!」
なんて事だ。葵さんはとんでもない勘違いをしている。
先生はただの白くて丸く太っただけのニャンコだというのに……
「む……この気配、お前結構大物だな。」
「は、俺……私は籠目岳で杜守りの修行中の身。」
「籠目岳といえば、超美味な酒の泉があると聞くが……」
「泉守も我が師、銅鷹様と門下の役目。」
「ほう……よし気に入った!家で茶でも飲んでいくがいい。」
「先生!」
「は、しかし恐れ多くもまだ若輩。お招き頂く身分では……」
勝手に話を進める先生に呆れつつ、断ろうとしている葵を今度は自分から家に招こうと彩乃が口を開きかけた時であった。
バサバサと遠くから羽音が近づいて来る音に、彩乃たちはふっと顔を上げた。
「おお、『銅鷹』の小僧め。見かけて後をつけてみれば……これは好機!群れていないお前なぞ怖くはないぞ!」
何やら鳥のような、そうじゃないような……
羽の生えた変な妖がこちらを見下ろしながらケタケタと笑っている。
どうやら葵さんが狙いのようだが、ここで見捨てるという選択肢は私にはなかった。
「鳥のお化け!葵さん下がって!」
「いや、お前が下がれ!」
葵さんが全力でツッコミながら私を背に庇う。
「日頃の恨み、ここで晴らさせてもらおう!」
「下級が……」
鳥のような妖がこちらに突進してくるも、ニャンコ先生が本来の姿に戻って軽く鳥の妖を前足で叩き落とした。
「ぐひゃ!」というまるで蛙が潰れたような声を出し、地面に叩きつけられた鳥の妖は、力では先生に勝てないと理解したようで「ひぃぃ!」と小さな悲鳴を上げて慌てて飛び去って行ったのだった。
「ふん!葵とやら、騒がしいことだな。まあ杜守りなど恨みも買いやすいだろうよ。」
「……今のが白狸様の真のお姿…!?白狸様、お名前は……」
「ニャンコ先生だ!」
「ははー!」
「ね、葵さん。ニャンコだって。猫なの。ただの猫なの。」
キリッと凛々しいキメ顔で「ニャンコ先生」と名乗る先生と、膝まづいて平伏する葵さん。
なんとも普段の先生の扱いとはまるで違うシュールな光景に、彩乃は必死で葵の目を覚まさせようと思ったのだった。
だって本当に普段から食べてばかりのおデフニャンコなのだ。
とても神聖な妖には彩乃には見えなかった。
「彩乃、帰るぞ。小僧、お前も来い!」
「はっ、しかし……」
「先生が気に入るのって珍しいんだよ。だから遠慮せず寄っていって、葵さん。」
「むっ、そこまで言うなら……」
こうして、奇妙な縁があって葵さんが我が家に来ることになったのだった。