第22章「邪魅編」
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「ーーじゃあ、彩乃ちゃんは邪魅を探しに行くんだね?」
リクオくんたちに私がしようとしている事を簡単に説明すると、リクオくんは意外にも反対せずに簡単に了承してくれた。
私に1人で無茶をされるくらいなら、多少危険でも一緒に居て見守る方がマシだと思ったらしい。本当に申し訳ない。
あれから氷麗ちゃんにも泣かれてお説教をされたので、今回の件は本当に反省している。
それからなんとか氷麗ちゃんを宥めて、私たちは今、紙人形に導かれるままに邪魅を探して夜の街を歩いていた。
どうしても邪魅に会って確認しなければならないことがあるのだ。
もしも私の勘が当たっていれば、今回の事件の犯人は邪魅ではない。
おそらく真相には人間が関わっている。
だとしたら、これまでの邪魅の行動はきっと……
そんな事を考えていたら、紙人形がぐんっと強く引っ張られ、今までにないくらい強く反応した。
それを見て自然とリクオくんを見る。
リクオくんと目を合わせて、こくりと頷く。
「……氷麗。」
「はい、リクオ様。」
氷麗ちゃんとニャンコ先生の目が鋭く細められる。
間違いなくこの近くに邪魅がいる。
緊張から手に汗がにじみ、無意識にぎゅっとリクオくんの手を強く握りしめた。
(大丈夫。きっと邪魅は……)
自分の感じた違和感と、邪魅という妖を信じようと思った。
紙人形に引っ張られるままに歩き出せば、月明かりだけが照らす狭い路地裏の片隅に、彼はいた。
私たちが近づくと、うっすらとしたシルエットが色濃く浮かび上がり、静かに佇んでいる。
彼の傍まで来ると、私はリクオくんから手を離して彼を静かに見据えた。
「……邪魅。」
「……何故、私を探す。」
彼はゆっくりと振り返ると、怒っているとも悲しいとも取れる震える声で私にそう尋ねてきた。
どうやら今すぐ攻撃してくるつもりはないらしい。
ひとまず話し合いができそうでほっと胸を撫で下ろす。
「貴方に聞きたいことがあります。」
「それは何だ。」
「思えば……貴方は最初は品子さんを見ているだけだった。それがいつからか手を掴んだことで、彼女に危害を加えたのだと私たちは勘違いしてしまった。」
「でも、それは違った。」
リクオくんが私より一歩前に出て、邪魅に語りかけるように言う。
「ーー君は、品子さんのことを守っていたんだ。」
「何故……そう思う。」
「詳しい事は僕たちも分かっている訳じゃない。でも品子さんの家には、妖怪以外の異形の気配があったんだ。それで僕たちなりに調べてみた。」
「品子さんの部屋に入ると、妙な悪寒がするの。屋敷に入った時には感じなかったのに、品子さんの部屋だけ。どうしてかなって思った。」
「そして昼間のあのヤクザたちの言動。」
「品子さんの部屋には、無数の札が沢山貼られていたの。それは全部、あの秀島神社のものだった。」
リクオくんはズボンのポケットからクシャクシャになった一枚の札を取り出す。
それは破れた一枚の札だった。
「これは昨日の夜、僕が切りつけた奴が消えた場所に落ちていた。そしてこれもあの神社の札だった。」
「こんな偶然、そんなある訳ないよね?だから私たちはある推測を立てたの。もしかしたら、あの神主さんとヤクザたちはグルなんじゃないかって。……そして邪魅。貴方はそんな人間に狙われてる品子さんを守ってるんじゃないの?」
「それは……」
「私たちは品子さんの力になりたいの。品子さんが苦しまなくていいように、問題を解決してあげたい。そして邪魅、貴方が品子さんの味方なら、どうか力を貸してほしいの。」
真っ直ぐに邪魅を見つめてそう口にする。
邪魅に私たちの想いが伝わるように、少しでも信頼して貰えるように。
無数の札に覆われた顔から除く目は不安げに揺れ、けれど最初の時のような敵視する視線は感じられなかった。
「ねぇ、邪魅。私は思うの。もしも貴方が本当に品子さんを……ううん、彼女の血筋に恨みがあるなら、もっと早く襲うことだってできた筈だよね?だけど貴方は今日まで一族の誰も殺してない。それは末裔である品子さんが生きてることが証明にならないかな?」
「……」
邪魅は目を大きく見開くと、ふるふるとその大きな体を小さく震わせた。
「私、は……」
邪魅は言葉を飲み込むように沈黙すると、顔を両手で覆い、耳をすませないと聞こえないような、とても小さく、震える声で、それでもはっきりと口にした。
「私は、ただ……あの方を……主君の大切な子等を……守りたい。ただ……それだけなのだ……」
それが答えだった。
邪魅はやはり品子さんの一族を恨んでなどいなかったのだ。
例え自分の命を奪った奥方の血を引いていようとも、邪魅にとっては誰よりも敬愛し、生涯をかけて仕えると忠誠を誓った主の子孫でもあるのだから。
それがわかって、私もリクオくんもほっと胸を撫で下ろした。
邪魅が敵ではないと信じていたが、万が一にも一族を恨んでいなあ可能性も0ではなかったから。
でも、もう大丈夫だ。だって、主のことを想い、死んでも尚ずっと主の一族を守ろうと影ながら守り続けた邪魅の気持ちに、嘘や偽りなどないとわかったから。
主を想うあまり妖怪に成り果て、そして今も主を想って涙を流すことのできる優しい邪魅を、私は信じたいって思ったんだ。
「邪魅、一緒に品子さんを守ろう。その為に、貴方にも協力してほしいの。」
私がそう言うと、邪魅は小さく首を縦に頷き、けれどはっきりと「ああ」と答えてくれた。
唯一気がかりだった邪魅の本心は確認できた。後は……
「リクオ様ー!」
その時、草むらから小さな妖怪が飛び出してきた。
リクオくんの名を呼びながら、彼は小さな体を必死に動かしてこちらに駆け寄ってくる。
「リクオ様!例の人間たちが神社に入っていくのを確認しました!」
「そうか!報告ありがとう!」
「いえ!これくらいリクオ様の為ならお安い御用ですよ!」
小妖怪は自分の胸をどんっと叩いて、誇らしげに笑った。
リクオくんが私の方に目配せで合図を送る。
それに私は小さく頷いて答えた。
ーー実はリクオくんは小妖怪たちにあのヤクザと神主を見張らせていたのだ。
ヤクザと神主がグルになって、この邪魅騒動を引き起こしているのではないかと考えていた私たちは、彼等が接触するのを確認して、彼等が仲間だという確信が欲しかった。
妖怪である彼等なら、普通の人間に見えることは無い。
神主に関しては、彼に霊力があった場合は見つかる可能性と万が一祓われてしまう危険もあった為、小妖怪たちには神社の内部ではなくその付近を見張ってもらっていたのだ。
そして今、小妖怪からヤクザたちが神社に入っていった情報を得る事ができた。
これでほぼ彼等が無関係では無いとはっきりした。
私たちは小妖怪にお礼を言うと、一度品子さんの屋敷に戻ることにした。
リクオくんたちに私がしようとしている事を簡単に説明すると、リクオくんは意外にも反対せずに簡単に了承してくれた。
私に1人で無茶をされるくらいなら、多少危険でも一緒に居て見守る方がマシだと思ったらしい。本当に申し訳ない。
あれから氷麗ちゃんにも泣かれてお説教をされたので、今回の件は本当に反省している。
それからなんとか氷麗ちゃんを宥めて、私たちは今、紙人形に導かれるままに邪魅を探して夜の街を歩いていた。
どうしても邪魅に会って確認しなければならないことがあるのだ。
もしも私の勘が当たっていれば、今回の事件の犯人は邪魅ではない。
おそらく真相には人間が関わっている。
だとしたら、これまでの邪魅の行動はきっと……
そんな事を考えていたら、紙人形がぐんっと強く引っ張られ、今までにないくらい強く反応した。
それを見て自然とリクオくんを見る。
リクオくんと目を合わせて、こくりと頷く。
「……氷麗。」
「はい、リクオ様。」
氷麗ちゃんとニャンコ先生の目が鋭く細められる。
間違いなくこの近くに邪魅がいる。
緊張から手に汗がにじみ、無意識にぎゅっとリクオくんの手を強く握りしめた。
(大丈夫。きっと邪魅は……)
自分の感じた違和感と、邪魅という妖を信じようと思った。
紙人形に引っ張られるままに歩き出せば、月明かりだけが照らす狭い路地裏の片隅に、彼はいた。
私たちが近づくと、うっすらとしたシルエットが色濃く浮かび上がり、静かに佇んでいる。
彼の傍まで来ると、私はリクオくんから手を離して彼を静かに見据えた。
「……邪魅。」
「……何故、私を探す。」
彼はゆっくりと振り返ると、怒っているとも悲しいとも取れる震える声で私にそう尋ねてきた。
どうやら今すぐ攻撃してくるつもりはないらしい。
ひとまず話し合いができそうでほっと胸を撫で下ろす。
「貴方に聞きたいことがあります。」
「それは何だ。」
「思えば……貴方は最初は品子さんを見ているだけだった。それがいつからか手を掴んだことで、彼女に危害を加えたのだと私たちは勘違いしてしまった。」
「でも、それは違った。」
リクオくんが私より一歩前に出て、邪魅に語りかけるように言う。
「ーー君は、品子さんのことを守っていたんだ。」
「何故……そう思う。」
「詳しい事は僕たちも分かっている訳じゃない。でも品子さんの家には、妖怪以外の異形の気配があったんだ。それで僕たちなりに調べてみた。」
「品子さんの部屋に入ると、妙な悪寒がするの。屋敷に入った時には感じなかったのに、品子さんの部屋だけ。どうしてかなって思った。」
「そして昼間のあのヤクザたちの言動。」
「品子さんの部屋には、無数の札が沢山貼られていたの。それは全部、あの秀島神社のものだった。」
リクオくんはズボンのポケットからクシャクシャになった一枚の札を取り出す。
それは破れた一枚の札だった。
「これは昨日の夜、僕が切りつけた奴が消えた場所に落ちていた。そしてこれもあの神社の札だった。」
「こんな偶然、そんなある訳ないよね?だから私たちはある推測を立てたの。もしかしたら、あの神主さんとヤクザたちはグルなんじゃないかって。……そして邪魅。貴方はそんな人間に狙われてる品子さんを守ってるんじゃないの?」
「それは……」
「私たちは品子さんの力になりたいの。品子さんが苦しまなくていいように、問題を解決してあげたい。そして邪魅、貴方が品子さんの味方なら、どうか力を貸してほしいの。」
真っ直ぐに邪魅を見つめてそう口にする。
邪魅に私たちの想いが伝わるように、少しでも信頼して貰えるように。
無数の札に覆われた顔から除く目は不安げに揺れ、けれど最初の時のような敵視する視線は感じられなかった。
「ねぇ、邪魅。私は思うの。もしも貴方が本当に品子さんを……ううん、彼女の血筋に恨みがあるなら、もっと早く襲うことだってできた筈だよね?だけど貴方は今日まで一族の誰も殺してない。それは末裔である品子さんが生きてることが証明にならないかな?」
「……」
邪魅は目を大きく見開くと、ふるふるとその大きな体を小さく震わせた。
「私、は……」
邪魅は言葉を飲み込むように沈黙すると、顔を両手で覆い、耳をすませないと聞こえないような、とても小さく、震える声で、それでもはっきりと口にした。
「私は、ただ……あの方を……主君の大切な子等を……守りたい。ただ……それだけなのだ……」
それが答えだった。
邪魅はやはり品子さんの一族を恨んでなどいなかったのだ。
例え自分の命を奪った奥方の血を引いていようとも、邪魅にとっては誰よりも敬愛し、生涯をかけて仕えると忠誠を誓った主の子孫でもあるのだから。
それがわかって、私もリクオくんもほっと胸を撫で下ろした。
邪魅が敵ではないと信じていたが、万が一にも一族を恨んでいなあ可能性も0ではなかったから。
でも、もう大丈夫だ。だって、主のことを想い、死んでも尚ずっと主の一族を守ろうと影ながら守り続けた邪魅の気持ちに、嘘や偽りなどないとわかったから。
主を想うあまり妖怪に成り果て、そして今も主を想って涙を流すことのできる優しい邪魅を、私は信じたいって思ったんだ。
「邪魅、一緒に品子さんを守ろう。その為に、貴方にも協力してほしいの。」
私がそう言うと、邪魅は小さく首を縦に頷き、けれどはっきりと「ああ」と答えてくれた。
唯一気がかりだった邪魅の本心は確認できた。後は……
「リクオ様ー!」
その時、草むらから小さな妖怪が飛び出してきた。
リクオくんの名を呼びながら、彼は小さな体を必死に動かしてこちらに駆け寄ってくる。
「リクオ様!例の人間たちが神社に入っていくのを確認しました!」
「そうか!報告ありがとう!」
「いえ!これくらいリクオ様の為ならお安い御用ですよ!」
小妖怪は自分の胸をどんっと叩いて、誇らしげに笑った。
リクオくんが私の方に目配せで合図を送る。
それに私は小さく頷いて答えた。
ーー実はリクオくんは小妖怪たちにあのヤクザと神主を見張らせていたのだ。
ヤクザと神主がグルになって、この邪魅騒動を引き起こしているのではないかと考えていた私たちは、彼等が接触するのを確認して、彼等が仲間だという確信が欲しかった。
妖怪である彼等なら、普通の人間に見えることは無い。
神主に関しては、彼に霊力があった場合は見つかる可能性と万が一祓われてしまう危険もあった為、小妖怪たちには神社の内部ではなくその付近を見張ってもらっていたのだ。
そして今、小妖怪からヤクザたちが神社に入っていった情報を得る事ができた。
これでほぼ彼等が無関係では無いとはっきりした。
私たちは小妖怪にお礼を言うと、一度品子さんの屋敷に戻ることにした。