第21章「東方の森編」
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座敷牢に再び閉じ込められてから、かれこれ二時間くらい経とうとしていた。
辺りはすっかり暗くなってしまい、小さな窓から差す月明かりだけが彩乃のいる場所を照らしていた。
(――塔子さんたち、心配してるよね。どうしよう……)
逃げ出したくても逃げ出せないこの状況に、彩乃は膝を抱えてしょんぼりと項垂れた。
こんな薄暗い場所にずっと閉じ込められていると、嫌でもネガティブな方へと気持ちが落ち込んでしまう。
思わずため息をついた、その時だった。
「……はあ。」
「……おい。」
なんと壺に封印された妖の方から彩乃に話し掛けてきたのである。
「どうしたの?そういえば、さっき的場さんに変なことされてたけど、もう大丈夫?」
「……」
「?」
「……お前はバカなのか?」
「はあ?」
話し掛けてきたから心配して気に掛けただけなのに、いきなり馬鹿扱いされ、彩乃は思わず眉をしかめた。
「私を気遣うよりも、自分の心配をしたらどうなんだ!」
「そう言われても……」
「だいたい、何でさっきは私を助けようとした!お前から友人帳を奪おうとしたんだぞ!?」
「いや、だって目の前で苦しめられてたら助けるでしょ?放っておけないし。」
「~っ、もういい!」
「ええ~?」
自分から聞いておいて、急に話を終わらせないで欲しい。
よく分からないが怒らせてしまったらしい壺の妖は、それからは黙り込んでしまって、何も話してくれなくなった。
******
的場さんが私たちの前に現れたのは、それから少ししてからであった。
「――少しは頭を冷やせましたか?」
「何度言われたって、私は的場一門には入りませんし、妖への考えを変えるつもりはありません。」
「君は存外頑固なんですね。」
「よく言われます。」
彩乃が強気な態度でまっすぐに的場から目を逸らすことなく会話していると、彼は呆れたように小さくため息をついた。
「……ふむ。では、そこにいる壺の妖を従わせて、君を襲わせましょう。そうすれば妖が大切などという馬鹿げた考えも変わるかもしれない。」
「――なっ!」
「ふざけるな!私は貴様なんぞに従わないぞ!」
的場のあまりにも非道な言動に、彩乃は言葉を失い、妖は表情こそ分からないが、声音が怒りに満ちていた。
そんな二人の様子を的場は涼しげな顔で見下ろしていた。
人の良さそうな、けれど胡散臭い笑みを浮かべ、目だけは決して笑っていない。
とても冷ややかな瞳だった。
的場は右手の人差し指と中指を二本立て、その指を口元に持ってくると、何やら呪文のような言葉を唱え始めた。
すると突然壺の中の妖が苦しげに唸り始める。
「……、…………、……」
「ぅ……うう……」
「やめてください的場さん!」
バシィ!
「うっ!」
彩乃が的場を止めようと檻越しから手を伸ばせば、側に控えていた的場の式に突き飛ばされてしまう。
あまりにも強い力で突き飛ばされた為、その勢いのまま壁に激突しそうになった。
彩乃が衝撃に備えてぎゅっと目を閉じるが、次の瞬間に自分を襲ったのは、痛みや固い壁の感触ではなかった。
ふわりと何かに包まれるような感覚と、どこかで嗅いだことのある匂い。
「?」
不思議に思って目を開けると、そこにいたのは……
「――よお。」
「りっ、リクオくん!?」
何故か目の前には夜の姿のリクオがおり、彩乃は彼の腕の中にすっぽりと収まり、抱き締められる形で抱き止められていたのである。
「な、なな、何でここに!?」
「何でって、助けに来たからだろ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「斑が俺を呼びに来たんだよ。」
「え?先生が?」
「――ふん!」
「ニャンコ先生!」
リクオの肩からひょっこりと現れたニャンコ先生に、彩乃は珍しく感動してしまった。
あの飲兵衛で、ぐうたらで、食いしん坊で、あまり用心棒として役に立ったことのない先生が助けを呼んできてくれた。
「……お前、今失礼なこと考えただろ。」
「思ってない!思ってないよ!ありがとう先生!」
「ぐえ!やめろ!抱き締めるな!」
嬉しさのあまり力いっぱいに抱き締めてやれば、先生は青い顔で苦しげに呻き声を上げた。
「……驚きました。いつの間に侵入したんですか?此処には一応結界が張ってあるんですが。」
リクオたちの突然の登場は的場も予期せぬことだったのか、少しだけ驚いたように目を丸くしていた。
リクオは彩乃を庇うように抱き締める腕に力を込めると、恥ずかしさで彩乃の頬がほんのりと赤く染まる。
リクオはリクオで的場をじっと睨み付けるように見据え、的場はすぐに冷静さを取り戻して笑顔を浮かべた。
二人が睨み合っていたのは、ほんの数秒くらいだったと思う。
「……彩乃が世話になったみてぇだな。」
「とても楽しい時間でしたよ。」
「……帰るぞ。」
「うええ!?えっ?でもリクオくん!」
「いいから。」
「う、うん?」
彩乃は訳も分からぬまま、リクオに肩を抱かれてそのまま連れ出されてしまう。
リクオは座敷牢の壁を蹴破ると、壁を破壊して外に出た。
そして一瞬だけ後ろにいる的場へ睨み付けるような鋭い視線を向けると、彩乃を横抱きして夜の闇へと姿を消したのである。
「――もう少しお話ししてみたかったのですが、残念です。」
的場がそんなことをふと呟いていた。
辺りはすっかり暗くなってしまい、小さな窓から差す月明かりだけが彩乃のいる場所を照らしていた。
(――塔子さんたち、心配してるよね。どうしよう……)
逃げ出したくても逃げ出せないこの状況に、彩乃は膝を抱えてしょんぼりと項垂れた。
こんな薄暗い場所にずっと閉じ込められていると、嫌でもネガティブな方へと気持ちが落ち込んでしまう。
思わずため息をついた、その時だった。
「……はあ。」
「……おい。」
なんと壺に封印された妖の方から彩乃に話し掛けてきたのである。
「どうしたの?そういえば、さっき的場さんに変なことされてたけど、もう大丈夫?」
「……」
「?」
「……お前はバカなのか?」
「はあ?」
話し掛けてきたから心配して気に掛けただけなのに、いきなり馬鹿扱いされ、彩乃は思わず眉をしかめた。
「私を気遣うよりも、自分の心配をしたらどうなんだ!」
「そう言われても……」
「だいたい、何でさっきは私を助けようとした!お前から友人帳を奪おうとしたんだぞ!?」
「いや、だって目の前で苦しめられてたら助けるでしょ?放っておけないし。」
「~っ、もういい!」
「ええ~?」
自分から聞いておいて、急に話を終わらせないで欲しい。
よく分からないが怒らせてしまったらしい壺の妖は、それからは黙り込んでしまって、何も話してくれなくなった。
******
的場さんが私たちの前に現れたのは、それから少ししてからであった。
「――少しは頭を冷やせましたか?」
「何度言われたって、私は的場一門には入りませんし、妖への考えを変えるつもりはありません。」
「君は存外頑固なんですね。」
「よく言われます。」
彩乃が強気な態度でまっすぐに的場から目を逸らすことなく会話していると、彼は呆れたように小さくため息をついた。
「……ふむ。では、そこにいる壺の妖を従わせて、君を襲わせましょう。そうすれば妖が大切などという馬鹿げた考えも変わるかもしれない。」
「――なっ!」
「ふざけるな!私は貴様なんぞに従わないぞ!」
的場のあまりにも非道な言動に、彩乃は言葉を失い、妖は表情こそ分からないが、声音が怒りに満ちていた。
そんな二人の様子を的場は涼しげな顔で見下ろしていた。
人の良さそうな、けれど胡散臭い笑みを浮かべ、目だけは決して笑っていない。
とても冷ややかな瞳だった。
的場は右手の人差し指と中指を二本立て、その指を口元に持ってくると、何やら呪文のような言葉を唱え始めた。
すると突然壺の中の妖が苦しげに唸り始める。
「……、…………、……」
「ぅ……うう……」
「やめてください的場さん!」
バシィ!
「うっ!」
彩乃が的場を止めようと檻越しから手を伸ばせば、側に控えていた的場の式に突き飛ばされてしまう。
あまりにも強い力で突き飛ばされた為、その勢いのまま壁に激突しそうになった。
彩乃が衝撃に備えてぎゅっと目を閉じるが、次の瞬間に自分を襲ったのは、痛みや固い壁の感触ではなかった。
ふわりと何かに包まれるような感覚と、どこかで嗅いだことのある匂い。
「?」
不思議に思って目を開けると、そこにいたのは……
「――よお。」
「りっ、リクオくん!?」
何故か目の前には夜の姿のリクオがおり、彩乃は彼の腕の中にすっぽりと収まり、抱き締められる形で抱き止められていたのである。
「な、なな、何でここに!?」
「何でって、助けに来たからだろ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「斑が俺を呼びに来たんだよ。」
「え?先生が?」
「――ふん!」
「ニャンコ先生!」
リクオの肩からひょっこりと現れたニャンコ先生に、彩乃は珍しく感動してしまった。
あの飲兵衛で、ぐうたらで、食いしん坊で、あまり用心棒として役に立ったことのない先生が助けを呼んできてくれた。
「……お前、今失礼なこと考えただろ。」
「思ってない!思ってないよ!ありがとう先生!」
「ぐえ!やめろ!抱き締めるな!」
嬉しさのあまり力いっぱいに抱き締めてやれば、先生は青い顔で苦しげに呻き声を上げた。
「……驚きました。いつの間に侵入したんですか?此処には一応結界が張ってあるんですが。」
リクオたちの突然の登場は的場も予期せぬことだったのか、少しだけ驚いたように目を丸くしていた。
リクオは彩乃を庇うように抱き締める腕に力を込めると、恥ずかしさで彩乃の頬がほんのりと赤く染まる。
リクオはリクオで的場をじっと睨み付けるように見据え、的場はすぐに冷静さを取り戻して笑顔を浮かべた。
二人が睨み合っていたのは、ほんの数秒くらいだったと思う。
「……彩乃が世話になったみてぇだな。」
「とても楽しい時間でしたよ。」
「……帰るぞ。」
「うええ!?えっ?でもリクオくん!」
「いいから。」
「う、うん?」
彩乃は訳も分からぬまま、リクオに肩を抱かれてそのまま連れ出されてしまう。
リクオは座敷牢の壁を蹴破ると、壁を破壊して外に出た。
そして一瞬だけ後ろにいる的場へ睨み付けるような鋭い視線を向けると、彩乃を横抱きして夜の闇へと姿を消したのである。
「――もう少しお話ししてみたかったのですが、残念です。」
的場がそんなことをふと呟いていた。