第21章「東方の森編」
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「――夏目様。」
一人で帰宅していると、一人の"妖怪"に声を掛けられた。
真っ黒な着物に身を包んだその妖怪は、パッと見は人間のおじいさんのように見える。
――だが、自分を「夏目様」などと呼ぶ人間がいる訳がない。
即ち、彼は妖怪で確定なのだ。
彩乃は周囲に人がいないのを確認すると、小さくため息をついてから、足を止めてゆっくりと振り返った。
「――何?」
「夏目様でございますか?」
「――君は?」
がしっ!!
「!!?」
彩乃が妖怪を警戒して肯定せずにいると、突然男は彩乃の右腕にしがみついてきた。
「夏目様!どうか助けてください!友人が岩に足を挟まれて動けないのです!」
「え?」
「どうか一緒に来てください!」
「なっ……悪いけどそれは……」
「どうかどうか、私の友人を助けてやってください!急がねば足が……」
「……わかったよ……」
あまりにも必死に頼んでくるものだから、彩乃は何だか放っておけなくなってしまい、諦めたように吐息をつくと、そう答えたのであった。
――妖怪が視えることが以前ほど嫌ではなくなったが、相変わらず厄介事が多い日々。
******
タッタッタッ
「――ねぇ、何処まで行くの?」
「……」
「ねぇってば!」
「……」
「…………あの茂みの向こうです。」
妖怪の男は少し先の茂みの中を指差すと、また無言で足を進めていく。
ここに来るまでずっと無言で走り続けてきた。
何だか少しだけ怪しげなこの妖怪の様子に、彩乃は全く違和感を感じることなく大人しくあとをついていく。
「……ここかな?」
ガサガサガサ
「――あっ。いた。」
彩乃が茂みの草を掻き分けて進んでいくと、少し先に開けた場所があり、そこには大きな岩に足が下敷きになっている犬と牛が混ざったような獣の妖怪がいた。
彩乃は状況を冷静に見ると、近くに落ちていた少し太い丸太を持ってきて、それを岩の下に挟んで岩を退けようとした。
「う……」
ぐぐぐ……ごろ……
ズポッ!
「!、抜けた!」
彩乃が少し力を込めてみると、岩はほんの少しだけ浮いて、その隙に獣の妖怪は慌てて足を引っ込めた。
無事に足が抜けたことにほっと安堵の息をつく彩乃。
獣の妖怪は余程痛かったのか、頻りに足を舐めていた。
「――良かった。そんなに腫れてないね。歩けそう?」
「わん!」
「ふふ。」
元気よく返事をする獣の妖怪。それに彩乃はホッとして優しく微笑む。
しかし、この穏やかな空気を読めない者がここにひとり……
「あの~……処で夏目様……もう一つお願いが……」
「ええ~」
「名を……名をお返しください!」
ガバリ!!
「……ああ。」
勢いよく土下座をしながら名を返してくれと頼んでくる男の妖怪。
その言葉に、本当の目的はそっちかと……彩乃は妙に納得してしまったのだった。
パラパラパラパラ
「――名を返そう。受け取って……」
ふ〜
しゅるしゅる……
「あ、ありがとうございます。夏目様……あ、あの……早く……」
「……ふう。」
「早くお逃げください!」
「……え?」
「ではこれにて!!」
「わん!」
「!?、ちょっ!どうしたの!?」
ものすごく気になる言葉を残して、二人の妖怪たちは風の如く素早く走り去ってしまった。
まるで何かから逃げるように……
「……?」
一人取り残された彩乃は訳がわからずに茫然としていたが、背後に突然「カラン」と下駄の音が聞こえて、振り返った。
「どうやら本物の友人帳のナツメのようだな。」
「――!?」
いきなり彩乃の前に現れたのは、ふさふさの毛のついた大きな面をつけた、奇妙な格好の妖怪だった。
(し……しまったーー!!?)
――誘い出された!?
これが罠だったのだと漸く気づいた彩乃だったが、時既に遅し。
彩乃は青ざめた顔でその妖怪を見つめるのであった。
一人で帰宅していると、一人の"妖怪"に声を掛けられた。
真っ黒な着物に身を包んだその妖怪は、パッと見は人間のおじいさんのように見える。
――だが、自分を「夏目様」などと呼ぶ人間がいる訳がない。
即ち、彼は妖怪で確定なのだ。
彩乃は周囲に人がいないのを確認すると、小さくため息をついてから、足を止めてゆっくりと振り返った。
「――何?」
「夏目様でございますか?」
「――君は?」
がしっ!!
「!!?」
彩乃が妖怪を警戒して肯定せずにいると、突然男は彩乃の右腕にしがみついてきた。
「夏目様!どうか助けてください!友人が岩に足を挟まれて動けないのです!」
「え?」
「どうか一緒に来てください!」
「なっ……悪いけどそれは……」
「どうかどうか、私の友人を助けてやってください!急がねば足が……」
「……わかったよ……」
あまりにも必死に頼んでくるものだから、彩乃は何だか放っておけなくなってしまい、諦めたように吐息をつくと、そう答えたのであった。
――妖怪が視えることが以前ほど嫌ではなくなったが、相変わらず厄介事が多い日々。
******
タッタッタッ
「――ねぇ、何処まで行くの?」
「……」
「ねぇってば!」
「……」
「…………あの茂みの向こうです。」
妖怪の男は少し先の茂みの中を指差すと、また無言で足を進めていく。
ここに来るまでずっと無言で走り続けてきた。
何だか少しだけ怪しげなこの妖怪の様子に、彩乃は全く違和感を感じることなく大人しくあとをついていく。
「……ここかな?」
ガサガサガサ
「――あっ。いた。」
彩乃が茂みの草を掻き分けて進んでいくと、少し先に開けた場所があり、そこには大きな岩に足が下敷きになっている犬と牛が混ざったような獣の妖怪がいた。
彩乃は状況を冷静に見ると、近くに落ちていた少し太い丸太を持ってきて、それを岩の下に挟んで岩を退けようとした。
「う……」
ぐぐぐ……ごろ……
ズポッ!
「!、抜けた!」
彩乃が少し力を込めてみると、岩はほんの少しだけ浮いて、その隙に獣の妖怪は慌てて足を引っ込めた。
無事に足が抜けたことにほっと安堵の息をつく彩乃。
獣の妖怪は余程痛かったのか、頻りに足を舐めていた。
「――良かった。そんなに腫れてないね。歩けそう?」
「わん!」
「ふふ。」
元気よく返事をする獣の妖怪。それに彩乃はホッとして優しく微笑む。
しかし、この穏やかな空気を読めない者がここにひとり……
「あの~……処で夏目様……もう一つお願いが……」
「ええ~」
「名を……名をお返しください!」
ガバリ!!
「……ああ。」
勢いよく土下座をしながら名を返してくれと頼んでくる男の妖怪。
その言葉に、本当の目的はそっちかと……彩乃は妙に納得してしまったのだった。
パラパラパラパラ
「――名を返そう。受け取って……」
ふ〜
しゅるしゅる……
「あ、ありがとうございます。夏目様……あ、あの……早く……」
「……ふう。」
「早くお逃げください!」
「……え?」
「ではこれにて!!」
「わん!」
「!?、ちょっ!どうしたの!?」
ものすごく気になる言葉を残して、二人の妖怪たちは風の如く素早く走り去ってしまった。
まるで何かから逃げるように……
「……?」
一人取り残された彩乃は訳がわからずに茫然としていたが、背後に突然「カラン」と下駄の音が聞こえて、振り返った。
「どうやら本物の友人帳のナツメのようだな。」
「――!?」
いきなり彩乃の前に現れたのは、ふさふさの毛のついた大きな面をつけた、奇妙な格好の妖怪だった。
(し……しまったーー!!?)
――誘い出された!?
これが罠だったのだと漸く気づいた彩乃だったが、時既に遅し。
彩乃は青ざめた顔でその妖怪を見つめるのであった。