第3章「旧鼠編」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ふぁあ」
彩乃は眠たげにあくびをすると、ごしごしと目を擦った。
「饅頭一つ丸々入りそうな大きなあくびだな」
「……だって、寝不足なんだもん……ふぁ……」
夜明けに妖怪同士の争いに首を突っ込んで、その後家に帰っても眠ることのできなかった。彩乃はすっかり寝不足だった。
帰りに奴良組本家に寄る約束もしてしまった為、ニャンコ先生も連れてきていた。
「あー……放課後は気が重いなぁ……」
「自業自得だ、阿呆。」
「うう、本当のことだから言い返せない……あれ?」
そんな会話をしながら通学路を歩いていると、校門前で佇んでいるゆらを見つけた。
「あれ?ゆらちゃん?」
「あっ!彩乃先輩!」
彩乃を見つけると、ゆらは脇目もふらずに駆け寄ってきた。
制服は昨日破けてしまったからか、ジャージにスカートといった纏まりのない格好をしていた。
「あんな事があった後だから、今日は休むのかと思ってたよ……体調とかは大丈夫なの?」
「私のことなんてどうでもええんです!それよりも、先輩の方こそ大丈夫やったんですか!?」
「え?私?」
血相を変えて駆け寄ってきたゆらに、彩乃はきょとりと目を丸くした。
「……もしかして、心配してくれてたの?」
「当たり前やないですか!先輩の事が心配で朝早くからずっと待ってたんやで!?」
どうやらゆらは彩乃を心配して、朝早くから学校に彼女が登校してくるのを待っていたようだ。
その証拠に彩乃の元気そうな姿を見たゆらは、安堵したように顔を綻ばせた。
「妖怪に連れていかれた時はどうしようかと……せやけど、無事やったみたいでほんまに良かったわぁ!」
「ゆらちゃん……ありがとう。心配させてごめんね。」
心から自分を心配してくれたゆらに、嬉しさで心が温かくなる。
「……そういえば、もう一人女の子が側に居たけど、あの子も大丈夫だったかな?」
「その子やったらもう学校に来てはりますよ。怪我もしてへんみたいやったし、大丈夫やと思うんやけど……」
そう答えるゆらはどこか元気がない。
彩乃は何かあったのだろうかと思い、思いきって尋ねることにした。
「……ゆらちゃん、何かあったの?私の勘違いでなければ、元気がないように思うの。言いたくないなら無理に訊かないけど……」
「……先輩はよう人のこと見てはるんですね。」
彩乃の言葉にゆらは一瞬驚いて目を見開くが、すぐにしゅんと落ち込んだように瞳を曇らせた。
「昨日、妙な妖気を感じて街に行ったんやけど、私が油断したばっかりに、家長さん……あっ、あの時に一緒にいたクラスメイトやねんけど、その子と一緒に旧鼠に捕まってしもうたんです。式神も奪われてしもうて、私……なんもできひんかった……挙げ句、妖怪なんぞに助けられて!」
ぎりりと、ゆらは悔しさからか歯を噛み締めて、拳を肌が白くなるまで強く握り締めた。
「私、自分が不甲斐ない!陰陽師のくせに、妖怪に命助けられるなんて……情けないわっ!」
「……ゆらちゃんは強いね」
彩乃の言葉にゆらは弾かれたように俯いていた顔を上げた。
「何ゆうてんねん!私、弱いんやで!?」
「……本当に弱い人はたぶん、ゆらちゃんみたいに自分の弱さを認めないと思うよ?虚勢を張って、自分の不甲斐なさを認めないんじゃないかな?」
「?、強いって、実力のことやないんですか?」
戸惑うゆらに、彩乃はどう言えばゆらを元気付けられるか、自分の気持ちを伝えられるか、言葉を選びながら話す。
「うーんとね、確かに実力のある人も強いと言えるけど、ゆらちゃんはまず、心が強いと思うの。」
「……心?」
「うん。ゆらちゃんは自分の弱さを認めれる強さがあるから、きっとこれからもっと強くなれると思うの。自分の弱さを認めるのって、すごく怖くて、勇気がいることだと思うから……私なんて、たいした力もないくせに身の丈以上のことをしようとむきになって、いつも周りの人に心配させちゃったり、迷惑ばかりかけちゃってるから……私も、ゆらちゃんみたいに心を強く持てるようになりたい。」
「……先輩……」
ゆらを羨ましそうに見つめながら自分の気持ちを話す彩乃に、少しだけゆらは勇気付けられた。
「先輩……私、もっともっと強くなります!こんなところでくすぶってる暇なんてない!もっと頑張らんとっ!!」
「うん、ゆらちゃんならきっと大丈夫だよ!」
「先輩、ありがとう!」
どうやらゆらは少し元気になってくれたようで、彩乃は安心して微笑んだ。
「あっ、そろそろ教室戻らんと!先輩っ、ほんまにありがとう!また!」
「うん、またね!」
手を振りながら元気よく去っていくゆらを、彩乃も振り返しながら見送った。
*****
ーーそして放課後ーー
「……はぁ……」
「いい加減に腹を括れ。」
「そう言われても……」
あっという間に約束の時間になり、彩乃は現在奴良家の大きな門の前で佇んでいた。
「あー……緊張する……入りたくない……」
「早くいんたぁほんとやらを押せ!」
「インターホンね。だってさぁ~……もしかすると、食べられたりしないよね?」
「さあな?案外話し合いなどする気はなく、お前を喰う気かもしれんぞ?」
「冗談でもそういうのやめてよね!」
「……冗談だといいな?」
「……先生、用心棒だよね?」
ただでさえ不安な彩乃を余計に煽る先生を恨めしげに睨み付けながら、彩乃は無事に帰れることを祈るのだった。
彩乃は眠たげにあくびをすると、ごしごしと目を擦った。
「饅頭一つ丸々入りそうな大きなあくびだな」
「……だって、寝不足なんだもん……ふぁ……」
夜明けに妖怪同士の争いに首を突っ込んで、その後家に帰っても眠ることのできなかった。彩乃はすっかり寝不足だった。
帰りに奴良組本家に寄る約束もしてしまった為、ニャンコ先生も連れてきていた。
「あー……放課後は気が重いなぁ……」
「自業自得だ、阿呆。」
「うう、本当のことだから言い返せない……あれ?」
そんな会話をしながら通学路を歩いていると、校門前で佇んでいるゆらを見つけた。
「あれ?ゆらちゃん?」
「あっ!彩乃先輩!」
彩乃を見つけると、ゆらは脇目もふらずに駆け寄ってきた。
制服は昨日破けてしまったからか、ジャージにスカートといった纏まりのない格好をしていた。
「あんな事があった後だから、今日は休むのかと思ってたよ……体調とかは大丈夫なの?」
「私のことなんてどうでもええんです!それよりも、先輩の方こそ大丈夫やったんですか!?」
「え?私?」
血相を変えて駆け寄ってきたゆらに、彩乃はきょとりと目を丸くした。
「……もしかして、心配してくれてたの?」
「当たり前やないですか!先輩の事が心配で朝早くからずっと待ってたんやで!?」
どうやらゆらは彩乃を心配して、朝早くから学校に彼女が登校してくるのを待っていたようだ。
その証拠に彩乃の元気そうな姿を見たゆらは、安堵したように顔を綻ばせた。
「妖怪に連れていかれた時はどうしようかと……せやけど、無事やったみたいでほんまに良かったわぁ!」
「ゆらちゃん……ありがとう。心配させてごめんね。」
心から自分を心配してくれたゆらに、嬉しさで心が温かくなる。
「……そういえば、もう一人女の子が側に居たけど、あの子も大丈夫だったかな?」
「その子やったらもう学校に来てはりますよ。怪我もしてへんみたいやったし、大丈夫やと思うんやけど……」
そう答えるゆらはどこか元気がない。
彩乃は何かあったのだろうかと思い、思いきって尋ねることにした。
「……ゆらちゃん、何かあったの?私の勘違いでなければ、元気がないように思うの。言いたくないなら無理に訊かないけど……」
「……先輩はよう人のこと見てはるんですね。」
彩乃の言葉にゆらは一瞬驚いて目を見開くが、すぐにしゅんと落ち込んだように瞳を曇らせた。
「昨日、妙な妖気を感じて街に行ったんやけど、私が油断したばっかりに、家長さん……あっ、あの時に一緒にいたクラスメイトやねんけど、その子と一緒に旧鼠に捕まってしもうたんです。式神も奪われてしもうて、私……なんもできひんかった……挙げ句、妖怪なんぞに助けられて!」
ぎりりと、ゆらは悔しさからか歯を噛み締めて、拳を肌が白くなるまで強く握り締めた。
「私、自分が不甲斐ない!陰陽師のくせに、妖怪に命助けられるなんて……情けないわっ!」
「……ゆらちゃんは強いね」
彩乃の言葉にゆらは弾かれたように俯いていた顔を上げた。
「何ゆうてんねん!私、弱いんやで!?」
「……本当に弱い人はたぶん、ゆらちゃんみたいに自分の弱さを認めないと思うよ?虚勢を張って、自分の不甲斐なさを認めないんじゃないかな?」
「?、強いって、実力のことやないんですか?」
戸惑うゆらに、彩乃はどう言えばゆらを元気付けられるか、自分の気持ちを伝えられるか、言葉を選びながら話す。
「うーんとね、確かに実力のある人も強いと言えるけど、ゆらちゃんはまず、心が強いと思うの。」
「……心?」
「うん。ゆらちゃんは自分の弱さを認めれる強さがあるから、きっとこれからもっと強くなれると思うの。自分の弱さを認めるのって、すごく怖くて、勇気がいることだと思うから……私なんて、たいした力もないくせに身の丈以上のことをしようとむきになって、いつも周りの人に心配させちゃったり、迷惑ばかりかけちゃってるから……私も、ゆらちゃんみたいに心を強く持てるようになりたい。」
「……先輩……」
ゆらを羨ましそうに見つめながら自分の気持ちを話す彩乃に、少しだけゆらは勇気付けられた。
「先輩……私、もっともっと強くなります!こんなところでくすぶってる暇なんてない!もっと頑張らんとっ!!」
「うん、ゆらちゃんならきっと大丈夫だよ!」
「先輩、ありがとう!」
どうやらゆらは少し元気になってくれたようで、彩乃は安心して微笑んだ。
「あっ、そろそろ教室戻らんと!先輩っ、ほんまにありがとう!また!」
「うん、またね!」
手を振りながら元気よく去っていくゆらを、彩乃も振り返しながら見送った。
*****
ーーそして放課後ーー
「……はぁ……」
「いい加減に腹を括れ。」
「そう言われても……」
あっという間に約束の時間になり、彩乃は現在奴良家の大きな門の前で佇んでいた。
「あー……緊張する……入りたくない……」
「早くいんたぁほんとやらを押せ!」
「インターホンね。だってさぁ~……もしかすると、食べられたりしないよね?」
「さあな?案外話し合いなどする気はなく、お前を喰う気かもしれんぞ?」
「冗談でもそういうのやめてよね!」
「……冗談だといいな?」
「……先生、用心棒だよね?」
ただでさえ不安な彩乃を余計に煽る先生を恨めしげに睨み付けながら、彩乃は無事に帰れることを祈るのだった。