第3章「旧鼠編」
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「レイコの、孫?」
唖然とした表情で彩乃を指差しながら呟く首無。
彩乃はざわつく妖怪たちを警戒して目を配りながら、静かに頷いた。
「ああ、思い出した。夏目って、前に首無が話してた『友人帳』のレイコか?」
「ええ、そうです。」
「……友人帳?何の話なん?先輩……」
「それは……」
ゆらの問いかけに彩乃は言葉を詰まらせてしまう。
ゆらは妖怪を退治する陰陽師だ。
妖怪は全て始末する対象だと見ているゆらは、妖怪たちからすれば敵以外の何者でもない。
そんな彼女に友人帳の存在を話す訳にはいかず、彩乃はどう誤魔化すか悩んだ。
「えっと……それは……」
「……先輩?」
ゆらは黙り込んでしまった彩乃を怪訝そうに見つめるが、彩乃が自分から話すのを待ってくれているようで、じっと見つめたまま目を逸らさない。
「その……あの……わぁっ!!」
「よっと!」
「何するんや!」
どう言えばいいのかわからずに彩乃はゆらからが気まずげに目を逸らすと、何かを察したリクオが突然彩乃を横抱きした。
「わわ、ちょっと!」
「……じっとしてろ。」
「まっ、待てぇ!その人をどうするつもりや!!」
彩乃を横抱きしたまま何処かへ去ろうとするリクオに、ゆらは慌てて叫ぶ。
「安心しろ。ちゃんと家に帰すさ。」
「妖怪の言うことなんか信用できる訳ないやろ!」
鋭い眼差しでリクオを睨み付けるゆらに、彩乃はどうするべきかとオロオロと視線が二人の間を行き来する。
「……あ、あの……」
「「……」」
彩乃は睨み合ったまま動かない二人に思わず声をかけてしまった。
するとゆらとリクオの視線が一斉に彩乃に向けられる。
「……あのね、ゆらちゃん。私は大丈夫だから。」
「大丈夫な訳ないやろ!相手は妖怪やで!!」
「家に送るだけだって。」
「妖怪は黙っとき!」
「話くらい聞けよ。」
リクオに対して頑なに態度を変えないゆらに、リクオは呆れてため息をつく。
「……はあ、まあいいさ。気をつけて帰りな。」
「まっ、待てやぁ!!」
リクオはこれ以上は話しても無駄だと思ったのか、踵を返して歩き出す。
その後をニャンコ先生は黙ってついていく。
ゆらは式神さえ奪われていなければと、悔しげに歯を噛み締めた。
「……いいか、その人に少しでも妙な真似したら絶対に許さへんからなぁ!それと、私は花開院ゆらや!お前が妖怪の主やろ!?お前を倒すためにこの町に来たんや!次に会ったら、絶対、絶対に倒すからなぁ!」
ゆらの虚勢を張った叫びは果たしてリクオの耳に届いたのか……
その時のゆらは、悔しげに己の無力差をただ嘆くしかなかった。
*****
「……あのう。そろそろ降ろしてもらえませんか?」
だいぶ歩いた頃、彩乃はゆらが完全に見えなくなってからおずおずと声をかけた。
「もうすぐ着くぜ。」
「……何処に向かってるの?」
「奴良組本家だ。」
「奴良組って……(やっぱりこの妖たち、奴良組の……)」
彩乃は自分がこれから妖怪の巣窟に連れていかれるのかと思うと、かなり不安になった。
リクオは彩乃を抱えたまま、電信柱や塀、住宅地の屋根を身軽な妖怪の身体能力を活かして軽やかに歩く。
彩乃は下手に暴れて落とされでもしたら大変なので、じっと大人しくしていた。
やがて、大きな屋敷の庭へとリクオが降り立つ。
彼の後ろに続くようにしてついてきていた妖怪たちもわらわらと中へ入ってくる。
そして、少し遅れてニャンコ先生が空から舞い降りてきた。
大きな獣が降り立ったことで、一陣の風が巻き起こる。
「いい加減その薄汚い手を離せ、小僧!」
「先生っ!」
地上に降りても彩乃を抱えたままのリクオに、ニャンコ先生が牙を剥き出しにして威嚇する。
そんなニャンコ先生の態度に周りの妖怪たちも警戒して構えを取った。
「やめてニャンコ先生!」
「お前は黙っていろ!」
「そんなに怒るなよ。すぐに離してやる。俺はこいつと話がしたいだけなんだぜ?」
「先生!」
「……ちっ!」
どろんっ!
彩乃が先生を牽制するように名を呼ぶと、ニャンコ先生は長い沈黙の後に舌打ちした。
そして依代である招き猫の姿に戻ったのだった。
「「……」」
先生の依代の姿を見て、彩乃とニャンコ先生以外の妖怪たちが、先生を凝視したまま固まった。
「……ぷっ!」
「ぎゃははっ!何だあのちんちくりんな猫は!?」
「ぶ……ブサ猫っ!」
リクオが吹き出したのをきっかけに、周りの妖怪たちはゲラゲラと腹を抱えて爆笑し出した。
「……あー……」
「下級共が!このプリティな私の姿が理解できんとは…」
腹を立てる先生だったが、彩乃は妖怪たちの反応に納得してしまって、何も言えなかった。
「……あー……腹いてぇ……」
「……大丈夫?」
リクオはお腹を押さえたままそう呟くと、彩乃は心配して声をかけた。
するとリクオを庇うように彩乃とリクオの間に氷麗が立ちはだかった。
「リクオ様に近づかないで!」
「やめろ、氷麗。」
「ですがリクオ様!あのレイコの孫ですよ!?きっとリクオ様の名を奪うつもりです!」
「そんな!」
氷麗の一言で周りの妖怪たちもそうだそうだと騒ぎ出す。
彩乃は何とか誤解を解こうと慌てて口を開いた。
「私は名を奪うつもりはないよ!寧ろその逆で、名を返したいの!」
「嘘だ!『あの』レイコの孫の言葉なんて信用できるか!」
「そうだそうだ!どうせまた我らを騙して名を奪うつもりだろう!」
「……まるで聞く耳持たんな。」
「そんなぁ~……(レイコさん、いったい何やらかしたの~!?)」
妖怪たちは頑なに彩乃を拒絶し、話を聞こうとしない。
レイコは過去にこの妖たちに余程酷いことをしたのだろうか?
だとしたら迷惑極まりないことである。
「お願い、話だけでも聞いて!」
「いくらレイコが鯉伴様や総大将のお気に入りだったからって、リクオ様には近づけさせないぞ!」
「リクオ様まで毒牙にかけるわけにはいかない!」
「あの~……話を……」
「おめぇらうるせぇぞ!!」
まるで彩乃の話を聞こうとせずに騒ぐ妖怪たちを、リクオが一喝して黙らせる。
「すっ、すみません、若。」
「たくっ、人間の女一人にがたがた騒ぐな!……わりぃな。」
「……ううん、ありがとう。」
傘下の妖怪たちが静まり返ると、リクオは申し訳なさそうに彩乃に謝罪する。
その様子を見た彩乃は呆然としてお礼を言った。
「とりあえずこんな時間だ。一度家に帰りな。」
「え?」
「リクオ様!?このままこの娘を帰すのですか!?」
「当然だろ?家族が心配するじゃねぇか。」
特に何かをされた訳でもなく、あっさりと帰っていいと言うリクオに、彩乃も妖怪たちも驚く。
「……本当に帰っていいの?」
「ああ。だが、学校が終わったらまたここに来てくれ。その時に詳しくおめぇの事を聞きたい。それが条件だ。」
「……わかった。約束する。」
リクオの出してきた条件に彩乃は少し考える素振りをすると、リクオの目をまっすぐに見つめて頷いた。
そのあまりにも澄みきったまっすぐな眼差しに、リクオは口元を緩める。
「……いい目をするな。」
「え?」
「何でもねぇ。早く帰んな。」
「……ありがとう。行こう、先生。」
「たくっ、面倒な!」
彩乃はリクオにぺこりと頭を下げてお礼を言うと、先生の元へ駆けていく。
ニャンコ先生は再び本来の姿に戻ると、彩乃はその背に股がった。
彩乃が背に乗ったことを確認すると、先生は空へと飛び上がる。
美しい白い毛並みの獣が、まるで龍のように空を昇っていく。
リクオは彩乃たちが見えなくなるまで空を見上げていたのだった。
唖然とした表情で彩乃を指差しながら呟く首無。
彩乃はざわつく妖怪たちを警戒して目を配りながら、静かに頷いた。
「ああ、思い出した。夏目って、前に首無が話してた『友人帳』のレイコか?」
「ええ、そうです。」
「……友人帳?何の話なん?先輩……」
「それは……」
ゆらの問いかけに彩乃は言葉を詰まらせてしまう。
ゆらは妖怪を退治する陰陽師だ。
妖怪は全て始末する対象だと見ているゆらは、妖怪たちからすれば敵以外の何者でもない。
そんな彼女に友人帳の存在を話す訳にはいかず、彩乃はどう誤魔化すか悩んだ。
「えっと……それは……」
「……先輩?」
ゆらは黙り込んでしまった彩乃を怪訝そうに見つめるが、彩乃が自分から話すのを待ってくれているようで、じっと見つめたまま目を逸らさない。
「その……あの……わぁっ!!」
「よっと!」
「何するんや!」
どう言えばいいのかわからずに彩乃はゆらからが気まずげに目を逸らすと、何かを察したリクオが突然彩乃を横抱きした。
「わわ、ちょっと!」
「……じっとしてろ。」
「まっ、待てぇ!その人をどうするつもりや!!」
彩乃を横抱きしたまま何処かへ去ろうとするリクオに、ゆらは慌てて叫ぶ。
「安心しろ。ちゃんと家に帰すさ。」
「妖怪の言うことなんか信用できる訳ないやろ!」
鋭い眼差しでリクオを睨み付けるゆらに、彩乃はどうするべきかとオロオロと視線が二人の間を行き来する。
「……あ、あの……」
「「……」」
彩乃は睨み合ったまま動かない二人に思わず声をかけてしまった。
するとゆらとリクオの視線が一斉に彩乃に向けられる。
「……あのね、ゆらちゃん。私は大丈夫だから。」
「大丈夫な訳ないやろ!相手は妖怪やで!!」
「家に送るだけだって。」
「妖怪は黙っとき!」
「話くらい聞けよ。」
リクオに対して頑なに態度を変えないゆらに、リクオは呆れてため息をつく。
「……はあ、まあいいさ。気をつけて帰りな。」
「まっ、待てやぁ!!」
リクオはこれ以上は話しても無駄だと思ったのか、踵を返して歩き出す。
その後をニャンコ先生は黙ってついていく。
ゆらは式神さえ奪われていなければと、悔しげに歯を噛み締めた。
「……いいか、その人に少しでも妙な真似したら絶対に許さへんからなぁ!それと、私は花開院ゆらや!お前が妖怪の主やろ!?お前を倒すためにこの町に来たんや!次に会ったら、絶対、絶対に倒すからなぁ!」
ゆらの虚勢を張った叫びは果たしてリクオの耳に届いたのか……
その時のゆらは、悔しげに己の無力差をただ嘆くしかなかった。
*****
「……あのう。そろそろ降ろしてもらえませんか?」
だいぶ歩いた頃、彩乃はゆらが完全に見えなくなってからおずおずと声をかけた。
「もうすぐ着くぜ。」
「……何処に向かってるの?」
「奴良組本家だ。」
「奴良組って……(やっぱりこの妖たち、奴良組の……)」
彩乃は自分がこれから妖怪の巣窟に連れていかれるのかと思うと、かなり不安になった。
リクオは彩乃を抱えたまま、電信柱や塀、住宅地の屋根を身軽な妖怪の身体能力を活かして軽やかに歩く。
彩乃は下手に暴れて落とされでもしたら大変なので、じっと大人しくしていた。
やがて、大きな屋敷の庭へとリクオが降り立つ。
彼の後ろに続くようにしてついてきていた妖怪たちもわらわらと中へ入ってくる。
そして、少し遅れてニャンコ先生が空から舞い降りてきた。
大きな獣が降り立ったことで、一陣の風が巻き起こる。
「いい加減その薄汚い手を離せ、小僧!」
「先生っ!」
地上に降りても彩乃を抱えたままのリクオに、ニャンコ先生が牙を剥き出しにして威嚇する。
そんなニャンコ先生の態度に周りの妖怪たちも警戒して構えを取った。
「やめてニャンコ先生!」
「お前は黙っていろ!」
「そんなに怒るなよ。すぐに離してやる。俺はこいつと話がしたいだけなんだぜ?」
「先生!」
「……ちっ!」
どろんっ!
彩乃が先生を牽制するように名を呼ぶと、ニャンコ先生は長い沈黙の後に舌打ちした。
そして依代である招き猫の姿に戻ったのだった。
「「……」」
先生の依代の姿を見て、彩乃とニャンコ先生以外の妖怪たちが、先生を凝視したまま固まった。
「……ぷっ!」
「ぎゃははっ!何だあのちんちくりんな猫は!?」
「ぶ……ブサ猫っ!」
リクオが吹き出したのをきっかけに、周りの妖怪たちはゲラゲラと腹を抱えて爆笑し出した。
「……あー……」
「下級共が!このプリティな私の姿が理解できんとは…」
腹を立てる先生だったが、彩乃は妖怪たちの反応に納得してしまって、何も言えなかった。
「……あー……腹いてぇ……」
「……大丈夫?」
リクオはお腹を押さえたままそう呟くと、彩乃は心配して声をかけた。
するとリクオを庇うように彩乃とリクオの間に氷麗が立ちはだかった。
「リクオ様に近づかないで!」
「やめろ、氷麗。」
「ですがリクオ様!あのレイコの孫ですよ!?きっとリクオ様の名を奪うつもりです!」
「そんな!」
氷麗の一言で周りの妖怪たちもそうだそうだと騒ぎ出す。
彩乃は何とか誤解を解こうと慌てて口を開いた。
「私は名を奪うつもりはないよ!寧ろその逆で、名を返したいの!」
「嘘だ!『あの』レイコの孫の言葉なんて信用できるか!」
「そうだそうだ!どうせまた我らを騙して名を奪うつもりだろう!」
「……まるで聞く耳持たんな。」
「そんなぁ~……(レイコさん、いったい何やらかしたの~!?)」
妖怪たちは頑なに彩乃を拒絶し、話を聞こうとしない。
レイコは過去にこの妖たちに余程酷いことをしたのだろうか?
だとしたら迷惑極まりないことである。
「お願い、話だけでも聞いて!」
「いくらレイコが鯉伴様や総大将のお気に入りだったからって、リクオ様には近づけさせないぞ!」
「リクオ様まで毒牙にかけるわけにはいかない!」
「あの~……話を……」
「おめぇらうるせぇぞ!!」
まるで彩乃の話を聞こうとせずに騒ぐ妖怪たちを、リクオが一喝して黙らせる。
「すっ、すみません、若。」
「たくっ、人間の女一人にがたがた騒ぐな!……わりぃな。」
「……ううん、ありがとう。」
傘下の妖怪たちが静まり返ると、リクオは申し訳なさそうに彩乃に謝罪する。
その様子を見た彩乃は呆然としてお礼を言った。
「とりあえずこんな時間だ。一度家に帰りな。」
「え?」
「リクオ様!?このままこの娘を帰すのですか!?」
「当然だろ?家族が心配するじゃねぇか。」
特に何かをされた訳でもなく、あっさりと帰っていいと言うリクオに、彩乃も妖怪たちも驚く。
「……本当に帰っていいの?」
「ああ。だが、学校が終わったらまたここに来てくれ。その時に詳しくおめぇの事を聞きたい。それが条件だ。」
「……わかった。約束する。」
リクオの出してきた条件に彩乃は少し考える素振りをすると、リクオの目をまっすぐに見つめて頷いた。
そのあまりにも澄みきったまっすぐな眼差しに、リクオは口元を緩める。
「……いい目をするな。」
「え?」
「何でもねぇ。早く帰んな。」
「……ありがとう。行こう、先生。」
「たくっ、面倒な!」
彩乃はリクオにぺこりと頭を下げてお礼を言うと、先生の元へ駆けていく。
ニャンコ先生は再び本来の姿に戻ると、彩乃はその背に股がった。
彩乃が背に乗ったことを確認すると、先生は空へと飛び上がる。
美しい白い毛並みの獣が、まるで龍のように空を昇っていく。
リクオは彩乃たちが見えなくなるまで空を見上げていたのだった。