第16章「四国編」
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子狐はその日、ある事情で奴良組に泊まりにやって来ていた彩乃の部屋の近くの廊下をウロウロしていた。
「う~ん、どうしよう……ナツメ、大丈夫かな?」
首無から簡単に聞いただけなのだが、どうやらあの白い饅頭のような妖がナツメのせいで大怪我をしてしまったらしい。
すっかり自分を責めてしまったナツメは、白い饅頭と一緒に部屋に閉じ籠ってしまっていた。
「様子を見に行ったら怒られるかな……でも気になるし、ナツメ心配だし……でもでも今はそっとしておけって言われてるし……」
彩乃が心配で暫くの間その場から動けずにウロウロとしていたが、結局その夜子狐は彩乃に会うことができなかった。
******
――翌日、朝になって起きると、全てが終わっていた。
若様が昨晩四国妖怪と決着をつけるべく、本家の妖怪総出で出入りをしていった。
戦う力のないボクは屋敷に残って寝ていたのだけど、目が覚めたらもう全部終わったと聞いて心底安心した。
「――ナツメ、何処にいるのかな……」
ボクはナツメを探して屋敷の中を歩いていた。
お庭に小さな花が咲いているのを見つけて、ナツメにあげようと思ったから……
もう全部怖いことが終わったのなら、ナツメとお話してもいいと思ったんだ。
早くナツメに会いたい。
流行る気持ちで廊下を歩いていると、縁側に腰掛けている見掛けない妖を見つけたんだ。
「……?」
(奴良組で見たことない妖だけど、誰だろう。すっごく大きいなぁ……妖だよね?)
「……ん?」
「ひっ!」
びくうっっ
あんまりにじっと見つめていたからか、そのおっきな妖はこちらを振り返った。
怖そうな妖と目が合って、びくりと肩が跳ね上がる子狐。
「――なんだお前、ここの妖怪か?」
「あわわわわ……」
「……別に取って食いやしねーよ。だからそんな怯えんな。」
「……ぅぅ」
「ちょっと待ってろ……えっと……確かさっき若菜様から貰った飴が……あった。」
「?」
その大きな妖はいそいそとズボンのポケットをまさぐると、中から飴を二つ取り出してそれを子狐に差し出した。
不思議そうに首を傾げる子狐。
「ほら、やるよ。」
「……いいの?」
「ああ。」
「……ありがとう。(……あれ?あんまり怖くない?)」
食べ物の誘惑には勝てず、子狐は恐る恐る飴を受け取ると、その場で口に入れた。
口に含んだ瞬間、口の中いっぱいに甘い苺の味が広がる。
「!!、――美味しい!!」
「……そうか。良かったな。」
大きな妖は優しく微笑むと、子狐の頭をそっと撫でた。
(……なんだか悲しそう……)
とっても優しく笑うのに、その妖の表情はとても悲しそうだった。
それが気になった子狐は思わず尋ねてしまう。
「……大丈夫?」
「ん?何がだ?」
「なんだかとっても悲しそう……どこか痛いの?」
「っ!……ああ……そうだな……ここが、いてぇ……」
「……胸が痛いの?」
「――かもな……」
胸元の服をぎゅっと握り締めて、今にも泣きそうな顔をしているその妖を心配そうに見上げる子狐。
それが伝わったのか、大きな妖……猩影は、ふっと微かに微笑みを浮かべて苦笑した。
「大丈夫?鴆様呼んでくる?」
「いや、いい。いてーのは心だからよ。」
「こころ?」
「ああ……親父が……死んだんだ。」
「あっ……」
猩影の一言で子狐は何かを察した。
今回の四国妖怪の奇襲では、多くの奴良組の妖怪が殺されたと聞いた。
もしかしたら、この妖もその一人なのかもしれない。
自分と同じで、親をなくした妖……
「……独りに……なっちまったな……」
「……」
寂しげなその背中はあまりにも頼りなく、子狐は自分が母親を失ったばかりの頃のとても苦しくて寂しくて、悲しかった気持ちを思い出した。
「――ボクもね、ひとりぼっちだったの……」
「ん?」
「最近、母様を病で亡くして、独りで山をさ迷っていたんだ。」
「……そっか。お前も独りか。」
「でもね、そんなボクにナツメが家族をくれたんだ。」
「――ナツメ?」
ぴくりと、猩影が微かに反応したのに、子狐は気付かない。
「ナツメ知ってる?友人帳のナツメ!」
「あ、ああ……」
「ナツメはね、人間なんだけどすっごく優しいんだ。ナツメもね、親がいないけど、ボクと違って強くて、カッコいいんだ!」
「……親がいない?あいつも?」
「それにナツメはね、ボクが子分になりたくて名を書いた葉っぱを差し出した時、いらないって言ったんだ。」
「……はっ!?」
「その時にね、ナツメに言われたんだ。」
『こんなもので縛りたくないの。私たちは、主従の関係なんかじゃないでしょ?あなたと私は、もっと別の繋がりがあると思うよ……』
『…別の…?』
『うん、例えば……友達とか。』
『……とも、だち…?』
「……嬉しかったなぁ~……」
「……あいつが、そんなこと……」
「ナツメがボクをここに連れてきてくれたんだよ!母様を亡くしてひとりぼっちになったボクに、奴良組っていう新しい家族をくれたんだ!だからね、ボクはナツメが大好きなんだ!」
「……」
猩影は、何故かその後黙り込んでしまった。
何かショックなことでも聞いてしまったかの様な顔で考え込んでいた。
「……あいつも、親がいないのか……」
「?、うん。」
「それなのに、俺は……」
「?」
「あいつは、友人帳を……利用したんじゃないのか……?」
「!、ナツメはそんなことしないよ!!」
「……だったら、俺があいつにしたことは……ただの八つ当りじゃねーか……」
「??、あの……?」
「――くそっ!!」
「ひゃっ!!?」
ガタンっ!
びくうっっ!!
何やらぶつぶつと呟いて、一人だけ思考の海に浸ってしまったらしい猩影を不思議そうに見つめていると、猩影は突然悔しげに顔を歪め、荒々しげに声を上げた。
そして不意に立ち上がると、子狐に向かって言った。
「おいチビ!」
「ひっ!」
「――ありがとな。」
「???」
そして猩影はそのまま何処かへと走り去っていった。
突然百面相して叫んだかと思えば、突然お礼を言ってそのまま走り去っていった彼を、子狐は訳がわからずに目を点にして見送ったのだった。
「――昨日は……悪かった……」
「え……」
その後すぐ、ナツメに頭を下げて謝っている大きな妖を見かけた。
ナツメと話している妖は、さっきまでの暗い表情とはどこか違って、少しだけ……ほんの少しだけ、スッキリしたような顔をしているような気がした。
「う~ん、どうしよう……ナツメ、大丈夫かな?」
首無から簡単に聞いただけなのだが、どうやらあの白い饅頭のような妖がナツメのせいで大怪我をしてしまったらしい。
すっかり自分を責めてしまったナツメは、白い饅頭と一緒に部屋に閉じ籠ってしまっていた。
「様子を見に行ったら怒られるかな……でも気になるし、ナツメ心配だし……でもでも今はそっとしておけって言われてるし……」
彩乃が心配で暫くの間その場から動けずにウロウロとしていたが、結局その夜子狐は彩乃に会うことができなかった。
******
――翌日、朝になって起きると、全てが終わっていた。
若様が昨晩四国妖怪と決着をつけるべく、本家の妖怪総出で出入りをしていった。
戦う力のないボクは屋敷に残って寝ていたのだけど、目が覚めたらもう全部終わったと聞いて心底安心した。
「――ナツメ、何処にいるのかな……」
ボクはナツメを探して屋敷の中を歩いていた。
お庭に小さな花が咲いているのを見つけて、ナツメにあげようと思ったから……
もう全部怖いことが終わったのなら、ナツメとお話してもいいと思ったんだ。
早くナツメに会いたい。
流行る気持ちで廊下を歩いていると、縁側に腰掛けている見掛けない妖を見つけたんだ。
「……?」
(奴良組で見たことない妖だけど、誰だろう。すっごく大きいなぁ……妖だよね?)
「……ん?」
「ひっ!」
びくうっっ
あんまりにじっと見つめていたからか、そのおっきな妖はこちらを振り返った。
怖そうな妖と目が合って、びくりと肩が跳ね上がる子狐。
「――なんだお前、ここの妖怪か?」
「あわわわわ……」
「……別に取って食いやしねーよ。だからそんな怯えんな。」
「……ぅぅ」
「ちょっと待ってろ……えっと……確かさっき若菜様から貰った飴が……あった。」
「?」
その大きな妖はいそいそとズボンのポケットをまさぐると、中から飴を二つ取り出してそれを子狐に差し出した。
不思議そうに首を傾げる子狐。
「ほら、やるよ。」
「……いいの?」
「ああ。」
「……ありがとう。(……あれ?あんまり怖くない?)」
食べ物の誘惑には勝てず、子狐は恐る恐る飴を受け取ると、その場で口に入れた。
口に含んだ瞬間、口の中いっぱいに甘い苺の味が広がる。
「!!、――美味しい!!」
「……そうか。良かったな。」
大きな妖は優しく微笑むと、子狐の頭をそっと撫でた。
(……なんだか悲しそう……)
とっても優しく笑うのに、その妖の表情はとても悲しそうだった。
それが気になった子狐は思わず尋ねてしまう。
「……大丈夫?」
「ん?何がだ?」
「なんだかとっても悲しそう……どこか痛いの?」
「っ!……ああ……そうだな……ここが、いてぇ……」
「……胸が痛いの?」
「――かもな……」
胸元の服をぎゅっと握り締めて、今にも泣きそうな顔をしているその妖を心配そうに見上げる子狐。
それが伝わったのか、大きな妖……猩影は、ふっと微かに微笑みを浮かべて苦笑した。
「大丈夫?鴆様呼んでくる?」
「いや、いい。いてーのは心だからよ。」
「こころ?」
「ああ……親父が……死んだんだ。」
「あっ……」
猩影の一言で子狐は何かを察した。
今回の四国妖怪の奇襲では、多くの奴良組の妖怪が殺されたと聞いた。
もしかしたら、この妖もその一人なのかもしれない。
自分と同じで、親をなくした妖……
「……独りに……なっちまったな……」
「……」
寂しげなその背中はあまりにも頼りなく、子狐は自分が母親を失ったばかりの頃のとても苦しくて寂しくて、悲しかった気持ちを思い出した。
「――ボクもね、ひとりぼっちだったの……」
「ん?」
「最近、母様を病で亡くして、独りで山をさ迷っていたんだ。」
「……そっか。お前も独りか。」
「でもね、そんなボクにナツメが家族をくれたんだ。」
「――ナツメ?」
ぴくりと、猩影が微かに反応したのに、子狐は気付かない。
「ナツメ知ってる?友人帳のナツメ!」
「あ、ああ……」
「ナツメはね、人間なんだけどすっごく優しいんだ。ナツメもね、親がいないけど、ボクと違って強くて、カッコいいんだ!」
「……親がいない?あいつも?」
「それにナツメはね、ボクが子分になりたくて名を書いた葉っぱを差し出した時、いらないって言ったんだ。」
「……はっ!?」
「その時にね、ナツメに言われたんだ。」
『こんなもので縛りたくないの。私たちは、主従の関係なんかじゃないでしょ?あなたと私は、もっと別の繋がりがあると思うよ……』
『…別の…?』
『うん、例えば……友達とか。』
『……とも、だち…?』
「……嬉しかったなぁ~……」
「……あいつが、そんなこと……」
「ナツメがボクをここに連れてきてくれたんだよ!母様を亡くしてひとりぼっちになったボクに、奴良組っていう新しい家族をくれたんだ!だからね、ボクはナツメが大好きなんだ!」
「……」
猩影は、何故かその後黙り込んでしまった。
何かショックなことでも聞いてしまったかの様な顔で考え込んでいた。
「……あいつも、親がいないのか……」
「?、うん。」
「それなのに、俺は……」
「?」
「あいつは、友人帳を……利用したんじゃないのか……?」
「!、ナツメはそんなことしないよ!!」
「……だったら、俺があいつにしたことは……ただの八つ当りじゃねーか……」
「??、あの……?」
「――くそっ!!」
「ひゃっ!!?」
ガタンっ!
びくうっっ!!
何やらぶつぶつと呟いて、一人だけ思考の海に浸ってしまったらしい猩影を不思議そうに見つめていると、猩影は突然悔しげに顔を歪め、荒々しげに声を上げた。
そして不意に立ち上がると、子狐に向かって言った。
「おいチビ!」
「ひっ!」
「――ありがとな。」
「???」
そして猩影はそのまま何処かへと走り去っていった。
突然百面相して叫んだかと思えば、突然お礼を言ってそのまま走り去っていった彼を、子狐は訳がわからずに目を点にして見送ったのだった。
「――昨日は……悪かった……」
「え……」
その後すぐ、ナツメに頭を下げて謝っている大きな妖を見かけた。
ナツメと話している妖は、さっきまでの暗い表情とはどこか違って、少しだけ……ほんの少しだけ、スッキリしたような顔をしているような気がした。