第16章「四国編」
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※この話では犬神の過去を構想しております。
今は国語の授業中。
ノートに黒板の文字を書き写しながら彩乃は不意に窓の外を眺めた。
(今日はいい天気だなぁ~……昨日のことが嘘みたいに穏やかだ。)
雲ひとつない綺麗な青空に、彩乃は思わずぼんやりと昨日のことを思い出していた。
犬神と玉章に突然襲われ、自分の甘さが招いたことが原因で先生に大怪我を負わせてしまった。
それに、あの珱という女の人……
(誰だったんだろう。リクオくんの知り合い?後で聞いてみようかな……)
四国妖怪の問題が解決していないし、あの珱という女の人のことも気になる。
気掛かりなことは沢山あるのに、今彩乃が一番気になっているのは、先生を傷つけた敵である犬神のことだった。
仲間である玉章に裏切られ、傷つけられ、捨て駒などと呼ばれて……あんなにも酷い仕打ちを受けているのに、犬神は玉章を信じていた。
(何があんなに彼をそこまでさせるんだろう……恨み?尊敬?あんなに酷いことをされても?)
彩乃の脳裏には、ある記憶が駆け巡っていた。
昨日、彩乃が傷ついた犬神に手を伸ばし、犬神はその手を振り払った。
犬神の手が彩乃に触れた瞬間、彩乃は犬神の記憶を見てしまったのだ。
*
犬神は元々は普通の人間だった。
けれど、彼の父は犬神と犬神の母に暴力を振るい、母はそんな夫に嫌気が差して家を出ていった。
外でも犬神に友達と呼べる等しい人間はおらず、犬神はいつも独りだった。
そんな日々を延々と繰り返していたある時、犬神が高校生になった頃のことだった。
彼は玉章と出会ったのだ。
ただでさえ周りから浮いていた犬神は、玉章から酷い虐めを受けるようになる。
学校では玉章から、家では父親から。毎日のように暴力を受けていた犬神の体は傷だらけだった。
心の内に恨み辛みをひたすら溜めていった……
そして、あの日犬神は妖怪として覚醒したのだ。
あの運命の日、犬神は学校の校舎裏に呼び出され、両手を縄で後ろ手に縛り付けられて一方的に嬲られた。
両手を縛られて抵抗できない犬神を複数の玉章の子分達が殴り、蹴り、殺されるのではないかと思う程に痛め付けられた。
そして、日々の恨みと憎しみが大きく膨れ上がり、犬神の中で爆発した時、犬神は「妖怪犬神」として覚醒した。
自分を毎日いたぶる玉章の子分達を、皆殺しにしたのだ。
そして、妖怪として覚醒した犬神に玉章は共に行こうと手を差し伸べた。
犬神は、自分の力を目覚めさせてくれた玉章の手を取ったのだ。
それが、彩乃の見た犬神の記憶――
(犬神の心は、人や妖怪への恨みや憎しみの心でいっぱいだった。彼の過去を思えばそれは仕方のないことなのかもしれないけど……玉章を敬愛していながら、恨んでもいるなんて……)
犬神の過去を知って、こうして彼の気持ちを考えてみても、やはり犬神の心を理解してやることはできそうにない。けれど……
(どうしてかな。犬神が気になるんだ……)
両親を失い、幼い頃から親戚の家をたらい回しにされてきた自分。いつも孤独だった自分。
犬神と自分は、もしかしたら少し似ているのかもしれない。
犬神の今の心は、もしかしたら一歩間違えたら自分も抱いてしまった感情かもしれないのだ。
(私には藤原さん達がいてくれたから、今はすごく幸せだけど、犬神は……今の犬神は幸せなのかな……)
とてもそういう風には見えなかった……
「――できれば、もう一度話してみたいな。犬神と……」
先生を殺そうとした人だけど、気になるのだ。
できることなら助けてあげたい。
(こんな風に考えるから、先生に甘いって言われるんだろうな……)
彩乃は今回の一件で自分でも自覚してしまった甘さに、自然とため息が出るのであった。
今は国語の授業中。
ノートに黒板の文字を書き写しながら彩乃は不意に窓の外を眺めた。
(今日はいい天気だなぁ~……昨日のことが嘘みたいに穏やかだ。)
雲ひとつない綺麗な青空に、彩乃は思わずぼんやりと昨日のことを思い出していた。
犬神と玉章に突然襲われ、自分の甘さが招いたことが原因で先生に大怪我を負わせてしまった。
それに、あの珱という女の人……
(誰だったんだろう。リクオくんの知り合い?後で聞いてみようかな……)
四国妖怪の問題が解決していないし、あの珱という女の人のことも気になる。
気掛かりなことは沢山あるのに、今彩乃が一番気になっているのは、先生を傷つけた敵である犬神のことだった。
仲間である玉章に裏切られ、傷つけられ、捨て駒などと呼ばれて……あんなにも酷い仕打ちを受けているのに、犬神は玉章を信じていた。
(何があんなに彼をそこまでさせるんだろう……恨み?尊敬?あんなに酷いことをされても?)
彩乃の脳裏には、ある記憶が駆け巡っていた。
昨日、彩乃が傷ついた犬神に手を伸ばし、犬神はその手を振り払った。
犬神の手が彩乃に触れた瞬間、彩乃は犬神の記憶を見てしまったのだ。
*
犬神は元々は普通の人間だった。
けれど、彼の父は犬神と犬神の母に暴力を振るい、母はそんな夫に嫌気が差して家を出ていった。
外でも犬神に友達と呼べる等しい人間はおらず、犬神はいつも独りだった。
そんな日々を延々と繰り返していたある時、犬神が高校生になった頃のことだった。
彼は玉章と出会ったのだ。
ただでさえ周りから浮いていた犬神は、玉章から酷い虐めを受けるようになる。
学校では玉章から、家では父親から。毎日のように暴力を受けていた犬神の体は傷だらけだった。
心の内に恨み辛みをひたすら溜めていった……
そして、あの日犬神は妖怪として覚醒したのだ。
あの運命の日、犬神は学校の校舎裏に呼び出され、両手を縄で後ろ手に縛り付けられて一方的に嬲られた。
両手を縛られて抵抗できない犬神を複数の玉章の子分達が殴り、蹴り、殺されるのではないかと思う程に痛め付けられた。
そして、日々の恨みと憎しみが大きく膨れ上がり、犬神の中で爆発した時、犬神は「妖怪犬神」として覚醒した。
自分を毎日いたぶる玉章の子分達を、皆殺しにしたのだ。
そして、妖怪として覚醒した犬神に玉章は共に行こうと手を差し伸べた。
犬神は、自分の力を目覚めさせてくれた玉章の手を取ったのだ。
それが、彩乃の見た犬神の記憶――
(犬神の心は、人や妖怪への恨みや憎しみの心でいっぱいだった。彼の過去を思えばそれは仕方のないことなのかもしれないけど……玉章を敬愛していながら、恨んでもいるなんて……)
犬神の過去を知って、こうして彼の気持ちを考えてみても、やはり犬神の心を理解してやることはできそうにない。けれど……
(どうしてかな。犬神が気になるんだ……)
両親を失い、幼い頃から親戚の家をたらい回しにされてきた自分。いつも孤独だった自分。
犬神と自分は、もしかしたら少し似ているのかもしれない。
犬神の今の心は、もしかしたら一歩間違えたら自分も抱いてしまった感情かもしれないのだ。
(私には藤原さん達がいてくれたから、今はすごく幸せだけど、犬神は……今の犬神は幸せなのかな……)
とてもそういう風には見えなかった……
「――できれば、もう一度話してみたいな。犬神と……」
先生を殺そうとした人だけど、気になるのだ。
できることなら助けてあげたい。
(こんな風に考えるから、先生に甘いって言われるんだろうな……)
彩乃は今回の一件で自分でも自覚してしまった甘さに、自然とため息が出るのであった。