翌日の放課後。
彩乃はリクオと氷麗と一緒に下校していた。

「――それにしても、この前は突然ごめんね。見学だけのつもりがまさか田沼くんと透ちゃんが清十字団に入部するなんて思わなかったからびっくりしたよ。」
「ううん、大丈夫だよ。メンバーが増えて賑やかになったし。」
「二人共私が妖を見えることや、ニャンコ先生の正体を知ってる友達なの。」
「信頼できる友達なんですね。」
「そうなの。二人にはいつも助けてもらってて……」

多軌と田沼のことを話す彩乃はとても嬉しそうで、本当に仲の良い友人なのだとリクオは思った。

――奴良組本家――

「ただいまー！」
「お邪魔します。」

今日も奴良組の妖怪たちに名を返しにやって来た彩乃。
もうすっかり当たり前の光景になったのか、最初はレイコの孫と警戒されていた彩乃だったが、今では奴良組の妖怪たちは何も言わずに彩乃を受け入れるようになっていた。

「よう夏目、今日も来たのか！」
「今日は私の名を返してね！」
「おいらが先だよ！」
「はいはい。順番ね。」

すっかり彩乃に心を許すようになっていた小妖怪たちは、今日こそ名を返して貰おうと彩乃に群がった。
友人帳に名を綴られた妖怪はかなり多く、彩乃は奴良組と関係を持ってから今日まで何度か奴良組に通っては名を返している。
しかし、それでも未だに名を返し終えていないのは、彩乃が一日に名を返せるのに限りがあったからであった。
妖怪に名を返すと、体力と霊力をかなり消耗する。
いくら彩乃が少しでも多くの妖怪に名を返したいと頑張っても、体力には限界がある。
妖力の高い妖怪ほど消耗は激しく、一日に返せる数には限界があった。
だから彩乃はこうして暇を作っては奴良組に来て彼等に名を返し続けている。
一日にでも早く彼等に名を返して安心させてあげたいから……

「名を返そう。受け取って……」
「ありがとう夏目。」
「ううん。じゃあ次ね……」

行儀よく列を作り順番を待つ妖怪たちに次々と名を返していく彩乃。
一人一人の名を返す度に、彩乃の顔には疲労が伺えた。

「――彩乃さん、今日はこれくらいにしましょう。」
「あ、うん。そうだね。」

見かねた氷麗が彩乃に声をかける。
以前頑張りすぎて奴良家で倒れてしまった事がある彩乃は、程よいくらいで止めることにした。

「彩乃ちゃん、休憩にしよう。美味しい羊羮があるんだけど食べない？」
「あ、ありがとう。頂きます……「彩乃はいるかーい？」！？」

リクオに休憩を勧められて頷いた彩乃。
するとそこへ彩乃の声を遮るような大きな声が奴良家に響いたかと思えば、居間の扉を開けてヒノエが現れた。
突然のヒノエの登場に驚いて疲れも忘れて立ち上がる。 

「ヒノエ！？どうして奴良組(ここ)に！？」
「つれないねぇ～、最近あんたが奴良組の連中に構いっきりでつまらないから会いに来てやったんだよ。……あいつ等もね。」
「え？」

ヒノエが不意に庭に目を向けると、空から無数の何かが降ってきた。
砂埃を巻き上げて落ちてきたそれは、地上に降り立つとワラワラと散り散りに散っていく。

「な……何事！？」

彩乃が呆気に取られていると、いつの間にか砂埃は落ち着き、その正体が露わになる。

「あっ、夏目様ー！」
「……中級？カッパに……三鈴まで！？」
「夏目の姐御ー！」

奴良組に現れたのはヒノエだけではなかった。
彩乃が知っている妖達が何故ここにいるのか、彩乃は訳がわからずに混乱するのであった。