「――まさか、あの時の鼬がイタクだったなんて……」
「俺も、まさかまたお前に会えるとは思わなかった。」

イタクのことを思い出した彩乃は、まさかの再会に驚いていた。
あの日の夜、彩乃が気が付いた時には何故か自分は家の前で座り込んでおり、側にイタクはいなかった。
まるで夢だったのではないかと思えた出来事だったが、彩乃はあの時小さな鼬を救うことが出来なかったことをずっと後悔していたのだ。

「あの時のイタチさんが無事でよかった。またあえて嬉しい。」
「――それは、俺も……」

イタクと再会できたことを本当に嬉しそうに微笑んで喜ぶ彩乃に、イタクは照れくさいのか彩乃から目を逸らした。

「――まさか二人の間にそんな事があったなんてね。命の恩人て言うのはそういうことだったのね。」
「それならイタクがあんなに必死になって彩乃を庇ったのにも納得いくわね。ケホケホ。」
「――そういうことならもっと早く言えよな。イタクの命の恩人なら、いい奴じゃん。友人帳のことは気に入らないけどさ、彩乃は信用できるぜ！」
「おいらも彩乃を信じるぜ！」
「……みんな……ありがとう。」

友人帳のことで誤解を招き、警戒されていたが、イタクとの出会いを話したところ、遠野妖怪達から何とか信頼を得ることができたようだ。
緊迫した空気が穏やかなものに変わり、彩乃は安心したように微笑んだ。

＊＊＊＊＊＊

「――ここから少し先に行くと、山の出口よ。」
「ありがとう冷麗。みんなも……ここまで送ってくれてありがとう。」
「――ああ。」
「いーてことよ。きぃつけて帰りな！」
「うん！ありがとうみんな。さようなら！」

人里近くの出口まで送ってもらうと、彩乃はイタク達に別れを告げて急ぎ足で宿泊施設へと戻って行った。
彩乃が施設に戻ると、田沼達が既に戻っており、彩乃の姿を見つけるなり皆が心配そうに駆け寄ってきた。

「彩乃ちゃん！よかった。私達よりも先に行ったのにまだ戻って来てないから心配しちゃった。」
「ごめん透ちゃん。その……迷っちゃって……」
「夏目さんて以外とおっちょこちょいなんだな。」
「あはは、心配掛けてごめんね。」

彩乃は友人達に嘘をついたことに少しだけ胸が痛んだが、慣れたように笑顔を作って誤魔化したのだった。