「ふ……ふふ、あははは！」
「――！」
（何？様子がおかしい。）

スミエに名を返した途端、先程までのしおらしい態度から一変、可笑しそうに高笑いを上げるスミエ。

「ふふ、これでもう恐れるものはない。お前はレイコと違って優しいね。せめて苦しまないよう一口で食ってやろう。」
「！、彩乃！！」
「「彩乃ちゃん（さん）！！」」 

――騙された。
彩乃達がそう気付いた時にはもう遅く、スミエは彩乃に襲い掛かってきた。
その時、スミエと彩乃の間に誰かが割って入ってきた。

ガッ！
「ぎゃっ！」
「名取さん！！」

彩乃を助けたのは名取だった。
突然の名取の登場に驚いていると、ニャンコ先生が咄嗟に退魔の光を放ち、彩乃達はその隙に逃げ出すことが出来たのだった。

「うう……ちっ、逃げられたか。まあいい、折角のごちそうだ。この館からは逃がさんぞ。」

残されたスミエは怪しく笑うと、彩乃達を探して館内を徘徊し始めるのだった。

「こっちだよ。この突き当たりの部屋へ！」
「……っ」
（――しまった。騙された。妖の言葉を信じてしまった。）

彩乃は走りながら己の甘さを悔いていた。
――甘かったのだ。
私のせいで名取さんやリクオ君達、それに旅館の人達が危険に晒されるかもしれない。
妖の言葉を簡単に信じてはいけなかったのに。
いつの間にか、自分は妖のことをわかった気になっていたのか。
妖のことはわかってきているつもりだった。
どうして私は……いつの間に……

「――おい、名取の小僧そろそろ話せ。何を企んでいる。あまり嘗めるなよ。」
「……企む？」
「斑、どういうことだ？」
「……」

名取は先生の言葉に答えずに走り続ける。
そしてある角を曲がった突き当たりの部屋に入った。

「「――！」」
「これは……」

その部屋には、床一面に紙が散撒かれ、その紙の上には墨で何やら陣が描かれていた。
壁には札やしめ縄が結ばれ、これはどう見ても祓い屋の行う封印の儀式だった。