妖怪が封印されていたと思われる壺が開いてしまった。
彩乃はおそらく例の壺に入っていた妖怪があの時ロビーで見掛けた人の体のようなものだったと推測し、急いで階段を駆け下りていた。

「あの壺かなり強力な封印がしてあったから特に気にすることもないと思っていたんだがなぁ。」
「え？」
「お前も無意識にそう感じていたから名取に話すこともないと思ったんだろう。」
「……ですが、自分で封印を破るなんて中々強力な妖怪ですよ。」
「リクオ君、氷麗ちゃんも！来てくれたんだ。」
「そりゃ、何かあったら心配だからね。」

後からリクオと氷麗も彩乃の後を追ってロビーにやって来た。

「それに、あの封印は最近のものだ。」
「最近？」

ニャンコ先生の言葉に何か引っ掛かりを覚えて、彩乃は聞き返す。
その時、吊るされていた体がぴくりと動いた。

ずずず……
ぼたりっ
「ぎゃーーっっ！！」
「ぅ……うう、ぅ……」

首から上がなかったその体が、ゆっくりと下に落ちてくる。
そして鈍い音を立てて天井から落ちてきた。
あまりにもホラーなその光景に、彩乃は思わず悲鳴を上げた。

「ぅぅ……」
「ぁ……」
（この妖……血が出てる……）

黒く長い髪の女のような妖怪は、怪我をしているのかぐったりと苦しそうに呻き声を上げていた。

「おお、やはり中々大物だな。喰っていいか彩乃。」
「先生……」
「……え？あなたは……レイコ様？」
「へ？」

どんな時も食い意地の張っている先生に呆れていると、彩乃の顔を見て女の妖怪は驚いたように目を見開いた。

「あっ……ここで会ったが百年目！！どうか、どうか名をお返しくださいっ！！」
がばっ！
「わーーっ！？」
「彩乃ちゃん！？」
「ちょっとあんた！その人から離れなさいよ！凍らすわよ！！」

どうやら女妖怪は友人帳に名のある妖怪だったようで、彩乃をレイコと勘違いして飛び掛かってきた。
それにはリクオと氷麗が慌てて彩乃から女妖怪を引き剥がし、氷麗は警戒して妖怪から彩乃を守るようにじっと睨み付けた。