西日も頬笑む二人
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「志波くんって、モテてるよね。クールだし、なんだか私には手の届かない人って気がする」
「プリンスと仲良しなあんたが、何言うてるん」
「佐伯くんとは席が隣りだから、たまに喋ったりするだけだもん」
「うち知ってるねんで。プリンスと下校途中に喫茶店行ったりしてるやん」
「それは佐伯くんの用があって、ついでにって感じで誘われただけだもん。何だか知らないけど、私には気を遣わなくて済むらしいから」
「プリンスの取り巻きに知られたら、殺されるでえ」
「佐伯くんもカッコイイけどさ、肝心の志波くんとお茶したいよー!」
「プリンス蹴るなんて贅沢な」
「贅沢って言われても、私が好きな人は志波くんなんだもん」
最後の方は急に聞き取れない位小声になったもんやから、なんやなんやと美奈子の視線を辿ると、志波やんが教室に入ってきた。
美奈子は、志波やんに慌てて背中を向けてもうた。
「はるひちゃん、そっち見ないで。私が見てたことバレちゃう」
「はいはい」
昼休み、教室でお弁当を食べ終わったうちらは、美奈子の志波やんラブラブトークで盛り上がってるんやけど。
美奈子の片想いのお相手、志波やんが一番後ろの席へ窮屈そうに体を折り曲げて座った。
うちは美奈子の前の席に座ってるから、美奈子は志波やんに背中向けてるかっこうになってんねんけど、うちからは真っ直ぐ志波やんが見える。
志波やんは美奈子の後ろ姿を暫く見つめたとおもたら、机に突っ伏して眠り始めた。
「美奈子、志波やん寝たで」
体を固くしている美奈子にヒソヒソと声かけたら、フーッて緊張の糸が途切れたような息を吐いた。
「志波やん、美奈子のこと見てたで」
「え!?うそ、そんなわけ・・。ハッ!もしかしたら、はるひちゃんを見てたのかな」
何でやねん。
美奈子の背中しか見てへんかったっちゅうねん。
うちが真正面やったのに一回も目ぇ合わんで、美奈子の背中ばっかり穴空くんちゃうか思うくらい見つめてたわ。
うちなんか、ぜーんぜん志波やんの視界に入ってへんかったもん。
視界に入ってないといえば、この間もな。
科学準備室の前通ったら、若ちゃんが荷物を運んでてんやけど、落としたりぶつけたりしながらヨタヨタしていたもんやから、見かねた美奈子が声かけてん。
「先生、どうかしたんですか。私もお手伝いしましょうか?」
「やや、これは美奈子さんに西本さん。これは大きくてかさばるからいいですよ。気持ちだけ受け取ります・・、と言いたいところなんですが、実は時間が無くて困ってたんです。準備室の壁を塗ってもらう依頼をかけていたんですが、今日業者さんが来る事、先生すっかり忘れてました。今急いで備品を運んでるんです」
「じゃあ、お手伝いします」
美奈子は、自分より大きいんちゃうかと思う人体模型と書類の入った紙袋を持った。
うちは模造紙とビーカーやらを持って隣りの教室へ運んでると、志波やんがこっちへ向かってきた。
横にいる美奈子をチラ見したら、人体模型を自分の真正面にずらして、まるで志波やんの視界から逃れるようにして歩いとった。
ほんま、恥ずかしがり屋さんやわー。それがまた可愛いんやけど。
「小波、それを貸せ。持ってやる」
急ぎ足で駆け寄ってきた志波やんが、美奈子の持っている人体模型を肩に担ぎ上げ、紙袋も取り上げた。
わー、志波やーん、めっちゃ優しいやん。
「あ、ありがとう」
美奈子がほっぺたをピンク色にしながら、いっぱいいっぱいな表情でお礼を言うた。
なんなん、この純情乙女っぷりは!
志波やんはそんな美奈子を、なんや愛らしい小動物を眺めてるかのような優しい眼差しするし。
側にいるこっちがこっぱずかしくなってくるんやけどー!
「気にするな。これ、どこへ持って行けばいい?」
「あの部屋なんだけど、私のよりはるひちゃんの機材の方が重たいから、そっちを持ってあげて」
美奈子の指差す方向、つまりうちやねんけど、うちを見た志波やんがちょっとビックリしたような顔をして一言。
「西本・・、いたのか」
おった!
美奈子のめっちゃ隣りに!
何で気づかへんのー!
どこまで美奈子しか見てへんねん、ビビるわ。
「西本、貸せ」
うちの分も持って、スタスタ運んで行った。
「カッコイイね・・」
美奈子の目は、めっちゃハートマークで、ホワワーンと夢見心地な表情や。
「カッコイイだけじゃなく、優しいなんてズルイよねえ」
うっとりしながら呟いてる美奈子の背後から、若ちゃんの声がかかる。
「やや、さっきの彼は志波くんですね?そうだった、先生、志波くんから相談があると言われてたんです。またまた忘れていました。運ぶのは彼にお願いするので、小波さん達はいいですよ」
「でも・・」
「もう後少しなんで、いいんです。ありがとう、助かりました」
若ちゃんは微笑みながら、美奈子の言葉を遮るように切り上げた。
何か、若ちゃんも美奈子の方ばっか見てたように感じるのは気のせいやんな?
そんなんあったなあと回顧しとったら、教室のドア付近がキャアキャアと急にうるさなった。
プリンスのお帰りやな。
「佐伯くーん、もう昼休みが終わりだね」
「寂しいー!時間が足りなさすぎい~!」
「そうだね。僕も寂しいよ。でも、また放課後に会えるよね?」
ギャアアア!と、窓ガラスが割れるんちゃうかと心配なるくらいの大音響。
「さ、授業が始まるよ。またね」
爽やかな笑顔をしながら、えらいとっととドアを閉めたプリンスは、美奈子の隣りの席へ小さくため息つきながら椅子を引いた。
志波やんも騒ぎに目が覚めたみたいで、佐伯くんの背中を遠くから鬱陶しそうな表情で見つめている。
もうちょっとその様子を見物したかったけど、先生が教室に入ってきたから、うちも正面向いて授業の準備をした。
ガシャーン!
いきなり背後から物音がしたもんやから、ビックリして振り返ると、美奈子がペンケースをド派手にぶちまけていた。
ペンや定規がアチコチに散らばって、店でも開くんかいな。
あー、もう美奈子はどんくさいな。うちも拾ったるわ。
そう思いながら席を立って手を伸ばしてたら、いつの間にか志波やんとプリンスが混じっている。
二人は定規へ手を伸ばし、お互いの指が触れた。
これが男女やったら、キャッて言いながら手を引っ込めて照れてまうシチュエーションやろうけど、今回は男同士。
プリンスは後ろ姿やったからようわからんけど、志波やんの顔は見える。
なんやえらい眼力で睨んでるねん。
火花散ってて、おおーコワッ!!
それに気付いた美奈子は、どう声かけたらええのか迷ってるみたいで、なんやオロオロした顔してる。
ここはうちが言うた方がええよな?
「美奈子、定規取ったるわ」
うちの声で、二人とも同時に手を引っ込めた。
美奈子の定規を拾って手渡す。
「はるひちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。気にせんときや」
周囲を巻き込んだ美奈子の出店は撤収した。
美奈子が一人一人にお礼を言ってまわると、志波やんは照れたように無言で席へ戻り、プリンスはとびきりのスマイルで、気をつけてねと声をかける。
しばらくしたら美奈子が、うちの席へ手を伸ばしてすかさずメモ紙を置いてきた。
四つ折りにされたメモを読んでみたら。
『さっき、志波くん、私の方見て睨んでたよね。どんくさい奴と思って呆れられたかも。
どうしよ~!』
はあー、プリンスの方睨んでたんやけどなあ。勘違いしたんやなあ。
『そんなわけないやんっっ!!大丈夫やって!美奈子じゃなくて、プリンス睨んでたみたいやから。』
『なんで?佐伯くんと喧嘩でもしてるのかな?でも、喧嘩する程仲良かったっけ?私、二人が喋ってるとこって、あまり見たことないんだけど。』
うちらがセッセセッセとメモを交換してたら、先生が気づいたみたいで目が合うた。
美奈子、また後でな。
一旦二人のメモ回しは中断した。
授業が終わると、プリンスは猛ダッシュで帰っていった。
主のいない席に女の子達が群がる。
「佐伯くんがいなーい!」
「まさか、もう帰ったわけじゃないよね?!」
「西本さん、知らない?」
「うち、知らんわあ」
「探しに行かなきゃ!」
女の子達は息巻いて、プリンス捜索へと旅立っていった。
ほんまにスゴイわー。
何となく視線を感じてきたから目ぇ向けてみると、志波やんが美奈子を見ている。
やっぱりうちは視界に入ってへんわ。別にええんやけどな。
志波やんは、何かタイミングを見計らってるような気ぃした。
「はるひちゃん、帰ろうか」
美奈子がうちにお誘いがけしたら、志波やんが深く椅子に座ってもうた。
美奈子に用事あるんかな。
「あ!うち、ハリーに用事あんねん」
あったらええんやけどなあ・・。
適当な口実つくる。
「じゃあ、待ってるよ」
「そんなん待たんでええよ、時間かかると思うし!今日は先帰りー」
美奈子はめっちゃ寂しそうな顔してくる。
さっきのことでへこんでもうたみたいやから、きっと志波やんの話聞いてもらいたいんやろなあ。
志波やんの方をチラ見してみたら、なんやソワソワしてる。
「美奈子、今日はほんまあかんねん。帰ってから、電話するわ。その時いっぱい喋ろーやー」
「わかった。ワガママ言ってごめんね」
「そんな目で見んといてーや」
多分、今日はいいことあるかもよ?
美奈子がションボリした背中を向けて教室を出ていく。
なんやねん、その分かり易すぎるガッカリ具合。あんたは、可愛いすぎる。
イジワルしたんちゃうでって、小さい背中に向かって心の中で手を合わせてたら、志波やんも立ち上がって風をきるように出ていった。
もしやもしや。気になるから、ちょっとだけ見てもええやんな?
気づかれへんように後つけたら、下駄箱で志波やんが美奈子に何か話しかけている。
美奈子がほっぺたをピンク色にしながら、恥ずかしそうな顔して頷いた。
こっちに背中を向けて、二人が並ぶ。
美奈子の頭のてっぺんは志波やんの肩から出ぇへん。
あー、なんやほのぼのするわ。ほんま世話がやけるわ。美奈子、良かったなあ。
今日は、弾んだ美奈子の声が電話で聞けそうやわ。
幸せをお裾分けしてもらわななー。
身長差のある微笑ましい二人の背中を、オレンジ色の西日が優しく包んでいた。
end
20100425
「プリンスと仲良しなあんたが、何言うてるん」
「佐伯くんとは席が隣りだから、たまに喋ったりするだけだもん」
「うち知ってるねんで。プリンスと下校途中に喫茶店行ったりしてるやん」
「それは佐伯くんの用があって、ついでにって感じで誘われただけだもん。何だか知らないけど、私には気を遣わなくて済むらしいから」
「プリンスの取り巻きに知られたら、殺されるでえ」
「佐伯くんもカッコイイけどさ、肝心の志波くんとお茶したいよー!」
「プリンス蹴るなんて贅沢な」
「贅沢って言われても、私が好きな人は志波くんなんだもん」
最後の方は急に聞き取れない位小声になったもんやから、なんやなんやと美奈子の視線を辿ると、志波やんが教室に入ってきた。
美奈子は、志波やんに慌てて背中を向けてもうた。
「はるひちゃん、そっち見ないで。私が見てたことバレちゃう」
「はいはい」
昼休み、教室でお弁当を食べ終わったうちらは、美奈子の志波やんラブラブトークで盛り上がってるんやけど。
美奈子の片想いのお相手、志波やんが一番後ろの席へ窮屈そうに体を折り曲げて座った。
うちは美奈子の前の席に座ってるから、美奈子は志波やんに背中向けてるかっこうになってんねんけど、うちからは真っ直ぐ志波やんが見える。
志波やんは美奈子の後ろ姿を暫く見つめたとおもたら、机に突っ伏して眠り始めた。
「美奈子、志波やん寝たで」
体を固くしている美奈子にヒソヒソと声かけたら、フーッて緊張の糸が途切れたような息を吐いた。
「志波やん、美奈子のこと見てたで」
「え!?うそ、そんなわけ・・。ハッ!もしかしたら、はるひちゃんを見てたのかな」
何でやねん。
美奈子の背中しか見てへんかったっちゅうねん。
うちが真正面やったのに一回も目ぇ合わんで、美奈子の背中ばっかり穴空くんちゃうか思うくらい見つめてたわ。
うちなんか、ぜーんぜん志波やんの視界に入ってへんかったもん。
視界に入ってないといえば、この間もな。
科学準備室の前通ったら、若ちゃんが荷物を運んでてんやけど、落としたりぶつけたりしながらヨタヨタしていたもんやから、見かねた美奈子が声かけてん。
「先生、どうかしたんですか。私もお手伝いしましょうか?」
「やや、これは美奈子さんに西本さん。これは大きくてかさばるからいいですよ。気持ちだけ受け取ります・・、と言いたいところなんですが、実は時間が無くて困ってたんです。準備室の壁を塗ってもらう依頼をかけていたんですが、今日業者さんが来る事、先生すっかり忘れてました。今急いで備品を運んでるんです」
「じゃあ、お手伝いします」
美奈子は、自分より大きいんちゃうかと思う人体模型と書類の入った紙袋を持った。
うちは模造紙とビーカーやらを持って隣りの教室へ運んでると、志波やんがこっちへ向かってきた。
横にいる美奈子をチラ見したら、人体模型を自分の真正面にずらして、まるで志波やんの視界から逃れるようにして歩いとった。
ほんま、恥ずかしがり屋さんやわー。それがまた可愛いんやけど。
「小波、それを貸せ。持ってやる」
急ぎ足で駆け寄ってきた志波やんが、美奈子の持っている人体模型を肩に担ぎ上げ、紙袋も取り上げた。
わー、志波やーん、めっちゃ優しいやん。
「あ、ありがとう」
美奈子がほっぺたをピンク色にしながら、いっぱいいっぱいな表情でお礼を言うた。
なんなん、この純情乙女っぷりは!
志波やんはそんな美奈子を、なんや愛らしい小動物を眺めてるかのような優しい眼差しするし。
側にいるこっちがこっぱずかしくなってくるんやけどー!
「気にするな。これ、どこへ持って行けばいい?」
「あの部屋なんだけど、私のよりはるひちゃんの機材の方が重たいから、そっちを持ってあげて」
美奈子の指差す方向、つまりうちやねんけど、うちを見た志波やんがちょっとビックリしたような顔をして一言。
「西本・・、いたのか」
おった!
美奈子のめっちゃ隣りに!
何で気づかへんのー!
どこまで美奈子しか見てへんねん、ビビるわ。
「西本、貸せ」
うちの分も持って、スタスタ運んで行った。
「カッコイイね・・」
美奈子の目は、めっちゃハートマークで、ホワワーンと夢見心地な表情や。
「カッコイイだけじゃなく、優しいなんてズルイよねえ」
うっとりしながら呟いてる美奈子の背後から、若ちゃんの声がかかる。
「やや、さっきの彼は志波くんですね?そうだった、先生、志波くんから相談があると言われてたんです。またまた忘れていました。運ぶのは彼にお願いするので、小波さん達はいいですよ」
「でも・・」
「もう後少しなんで、いいんです。ありがとう、助かりました」
若ちゃんは微笑みながら、美奈子の言葉を遮るように切り上げた。
何か、若ちゃんも美奈子の方ばっか見てたように感じるのは気のせいやんな?
そんなんあったなあと回顧しとったら、教室のドア付近がキャアキャアと急にうるさなった。
プリンスのお帰りやな。
「佐伯くーん、もう昼休みが終わりだね」
「寂しいー!時間が足りなさすぎい~!」
「そうだね。僕も寂しいよ。でも、また放課後に会えるよね?」
ギャアアア!と、窓ガラスが割れるんちゃうかと心配なるくらいの大音響。
「さ、授業が始まるよ。またね」
爽やかな笑顔をしながら、えらいとっととドアを閉めたプリンスは、美奈子の隣りの席へ小さくため息つきながら椅子を引いた。
志波やんも騒ぎに目が覚めたみたいで、佐伯くんの背中を遠くから鬱陶しそうな表情で見つめている。
もうちょっとその様子を見物したかったけど、先生が教室に入ってきたから、うちも正面向いて授業の準備をした。
ガシャーン!
いきなり背後から物音がしたもんやから、ビックリして振り返ると、美奈子がペンケースをド派手にぶちまけていた。
ペンや定規がアチコチに散らばって、店でも開くんかいな。
あー、もう美奈子はどんくさいな。うちも拾ったるわ。
そう思いながら席を立って手を伸ばしてたら、いつの間にか志波やんとプリンスが混じっている。
二人は定規へ手を伸ばし、お互いの指が触れた。
これが男女やったら、キャッて言いながら手を引っ込めて照れてまうシチュエーションやろうけど、今回は男同士。
プリンスは後ろ姿やったからようわからんけど、志波やんの顔は見える。
なんやえらい眼力で睨んでるねん。
火花散ってて、おおーコワッ!!
それに気付いた美奈子は、どう声かけたらええのか迷ってるみたいで、なんやオロオロした顔してる。
ここはうちが言うた方がええよな?
「美奈子、定規取ったるわ」
うちの声で、二人とも同時に手を引っ込めた。
美奈子の定規を拾って手渡す。
「はるひちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。気にせんときや」
周囲を巻き込んだ美奈子の出店は撤収した。
美奈子が一人一人にお礼を言ってまわると、志波やんは照れたように無言で席へ戻り、プリンスはとびきりのスマイルで、気をつけてねと声をかける。
しばらくしたら美奈子が、うちの席へ手を伸ばしてすかさずメモ紙を置いてきた。
四つ折りにされたメモを読んでみたら。
『さっき、志波くん、私の方見て睨んでたよね。どんくさい奴と思って呆れられたかも。
どうしよ~!』
はあー、プリンスの方睨んでたんやけどなあ。勘違いしたんやなあ。
『そんなわけないやんっっ!!大丈夫やって!美奈子じゃなくて、プリンス睨んでたみたいやから。』
『なんで?佐伯くんと喧嘩でもしてるのかな?でも、喧嘩する程仲良かったっけ?私、二人が喋ってるとこって、あまり見たことないんだけど。』
うちらがセッセセッセとメモを交換してたら、先生が気づいたみたいで目が合うた。
美奈子、また後でな。
一旦二人のメモ回しは中断した。
授業が終わると、プリンスは猛ダッシュで帰っていった。
主のいない席に女の子達が群がる。
「佐伯くんがいなーい!」
「まさか、もう帰ったわけじゃないよね?!」
「西本さん、知らない?」
「うち、知らんわあ」
「探しに行かなきゃ!」
女の子達は息巻いて、プリンス捜索へと旅立っていった。
ほんまにスゴイわー。
何となく視線を感じてきたから目ぇ向けてみると、志波やんが美奈子を見ている。
やっぱりうちは視界に入ってへんわ。別にええんやけどな。
志波やんは、何かタイミングを見計らってるような気ぃした。
「はるひちゃん、帰ろうか」
美奈子がうちにお誘いがけしたら、志波やんが深く椅子に座ってもうた。
美奈子に用事あるんかな。
「あ!うち、ハリーに用事あんねん」
あったらええんやけどなあ・・。
適当な口実つくる。
「じゃあ、待ってるよ」
「そんなん待たんでええよ、時間かかると思うし!今日は先帰りー」
美奈子はめっちゃ寂しそうな顔してくる。
さっきのことでへこんでもうたみたいやから、きっと志波やんの話聞いてもらいたいんやろなあ。
志波やんの方をチラ見してみたら、なんやソワソワしてる。
「美奈子、今日はほんまあかんねん。帰ってから、電話するわ。その時いっぱい喋ろーやー」
「わかった。ワガママ言ってごめんね」
「そんな目で見んといてーや」
多分、今日はいいことあるかもよ?
美奈子がションボリした背中を向けて教室を出ていく。
なんやねん、その分かり易すぎるガッカリ具合。あんたは、可愛いすぎる。
イジワルしたんちゃうでって、小さい背中に向かって心の中で手を合わせてたら、志波やんも立ち上がって風をきるように出ていった。
もしやもしや。気になるから、ちょっとだけ見てもええやんな?
気づかれへんように後つけたら、下駄箱で志波やんが美奈子に何か話しかけている。
美奈子がほっぺたをピンク色にしながら、恥ずかしそうな顔して頷いた。
こっちに背中を向けて、二人が並ぶ。
美奈子の頭のてっぺんは志波やんの肩から出ぇへん。
あー、なんやほのぼのするわ。ほんま世話がやけるわ。美奈子、良かったなあ。
今日は、弾んだ美奈子の声が電話で聞けそうやわ。
幸せをお裾分けしてもらわななー。
身長差のある微笑ましい二人の背中を、オレンジ色の西日が優しく包んでいた。
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