日本男児と大和撫子の事情
不二山side
音楽室の前を通ると、ピアノの音色が聴こえた。
設楽さんが弾いてる。
やっぱいい。心が安らぐな。
それに引き換えあの音姫ってやつは、設楽さんのピアノに比べりゃまだまだだ。
そうだ。あの音姫ってやつ。
水のせせらぎじゃなくて、設楽さんが弾いた曲録音すりゃいいんじゃねーか?リラクゼーション効果が段違いだし、出るモンもスルスル出そうだ。
って、こんなバカバカしい提案できねーな。
設楽さんの演奏が勿体ねぇ。
「おい、おまえ、なんでそこにいるんだよ」
設楽さんが俺に気づいた。
「こんにちは、設楽さん」
「そんなところでこそこそネズミのように居られたら邪魔だ。…しっかり聴きたいなら、中に入ってもいいぞ」
「いや、ここで充分です」
「この俺が、中に入ってもいいと言ってるんだぞ!」
片足を地面でトントンしながら、来て欲しそうに言う。
「いいっスか?じゃ」
それなら遠慮する理由もねぇ。
「窓から入ろうとするな!」
窓枠に足を掛けた途端、鋭い声が上がった。
「時間があんま無いんで、手っ取り早いと思って」
「バッ、バカッ!見えたじゃないか!」
真っ赤な顔して怒鳴る。
「何がですか?」
「ああもう、いい!」
顔赤くしたまま吐き捨て、設楽さんは、ピアノに向かい、弾きだした。
いつもの音色…、じゃねぇ。音が少し乱れてる。よく耳にしていたから、俺には違いがわかる。
「設楽さん、何かあったんですか。音がいつもと違う」
指摘すると、ピアノ弾く手をピタリと止めた。
「おまえのせいだよ!さっき、見えたって言っただろ!」
そう言って、俺の下半身を指差した。
「窓から跨いだ時!」
設楽さんが、苛ついた声を出す。
もしかして、パンツ丸見えだったんか?
そうか…、設楽さんは、小波のパンツで気が散って集中できなかったんだ。
俺は、あいつのパンツが風に吹かれて見えた時驚愕の集中力を発揮したというのに…。
人それぞれなんだな。
「設楽さん、すみません」
「な、なんだよ。わ、わかればいいんだよ。あ、不二山」
設楽さんの視線を辿ると、小波がいた。
「設楽先輩、こんにちは」
小波が挨拶した。せっかくだから、二人で設楽さんのピアノを聴かせてもらおう。
「今日は嫌だ。気分が乗らない」
設楽さんが、ピアノの蓋をパタンと閉めちまう。
仕方ねぇ。小波のパンツで心乱れちまったんだ。繊細な芸術家の気持ち汲まねーとな。
「わかりました。また今度聴かせてください」
「気が向いたらな」
そう言って、音楽室を去った。
「設楽先輩、機嫌悪かったね」
そうだな。パンツ見られたことは黙っとこ。
「ところで、そっちの方は、俺いねー間大丈夫だったか」
「うん。だんだん体が馴染んできたみたいで、快適よ」
「なら、良かった。あれ、腕に痣ついてねぇ?」
「さっき琉夏くんと、ちょっと戦ってね」
「えっ、マジか」
中身小波だから、負けたんじゃねぇの。絶対ヤだ。
「いい勝負よ。引き分けで終わった感じなの」
「えっ、おまえやるじゃねーか」
「でしょう?私、もっと鍛えて強くなりたい。力がみなぎってるの。この体だと遣り甲斐あるね。本当に最高」
小波が俺の腕をうっとりしながら擦る。
「だろ?しっかり鍛えて維持してきたからな。ちゃんとトレーニングしてくれって言おうと思ってたんだ」
「やるよ。あと、柔道も学びたい。この体なら出来ると確信しているの」
「そっか。よし、じゃあ、改めて練習メニュー作らねーとな」
「押忍!」
「押忍!じゃ、昼休み終わるし、教室戻るか」
俺になった小波の歩き方が、前と違って力強くなってる。
良かった、いつまでもあんなナヨナヨされたら困るもんな。
俺達は教室に入った。
「よっ、不二山夫婦」
そっか。付き合ってることになってんだ。
「おう」
俺は軽く手を挙げて席についた。
「ちょっとちょっと、その返事。完全に男の子じゃない」
俺の席までついてきた小波が、ぎゅっと俺の腕を掴む。
「大丈夫。小波のダチに、こんな感じにイメチェンしたからよろしくって言っといたから。もう男言葉も公認だ」
「どういうこと?納得されたの?」
「女は好きな男に染まるって言うだろ。だから、俺、まあ、見た目は小波だけど、男のおまえ、つまり俺だけど、それに合わせて男っぽくなったってことだ」
「なんなのそれ」
すげぇ不思議そうな声。
「俺の説明わかんねぇ?」
また説明しないといけねーのか。わかりやすく紙に書くか。
「いや、そうじゃなくて、好きな男に染まるってそういう染まり方では無いと思うけど…」
「グダグダ言うな。俺も普段喋ってる言葉で話せて楽だし、もう皆納得してくれた」
いちいち女っぽいしゃべり方考えんの疲れんだよな。これで解放される。
「あ、ちょっと、足閉じて。すぐ開くんだからー」
言った側から楽になんねぇ。
無意識に足開く。
そうだ。
「なあ、ベルト貸せ」
俺は小波のズボンに通してるベルトを指差した。
「無意識に開くから、足縛る」
「おいおい、不二山達、どんなプレイだよ」
ヒソヒソ何か聞こえてくる。
「早くしろよ」
「皆が変態扱いしてる。止めてよー」
また情けねー顔する。それ止めろ。
「こらぁー、早く座れぇー!授業を始めるぞおー!」
大迫先生が教室に入ってきたので、足を縛る間もなく授業が始まった。
足をじっと閉じるって疲れる。
いや、そうか、これも筋トレじゃねーか。もっと早くから気づけば良かった。
そう思えば全然楽勝だ。
内腿にグッと力を入れた。
音楽室の前を通ると、ピアノの音色が聴こえた。
設楽さんが弾いてる。
やっぱいい。心が安らぐな。
それに引き換えあの音姫ってやつは、設楽さんのピアノに比べりゃまだまだだ。
そうだ。あの音姫ってやつ。
水のせせらぎじゃなくて、設楽さんが弾いた曲録音すりゃいいんじゃねーか?リラクゼーション効果が段違いだし、出るモンもスルスル出そうだ。
って、こんなバカバカしい提案できねーな。
設楽さんの演奏が勿体ねぇ。
「おい、おまえ、なんでそこにいるんだよ」
設楽さんが俺に気づいた。
「こんにちは、設楽さん」
「そんなところでこそこそネズミのように居られたら邪魔だ。…しっかり聴きたいなら、中に入ってもいいぞ」
「いや、ここで充分です」
「この俺が、中に入ってもいいと言ってるんだぞ!」
片足を地面でトントンしながら、来て欲しそうに言う。
「いいっスか?じゃ」
それなら遠慮する理由もねぇ。
「窓から入ろうとするな!」
窓枠に足を掛けた途端、鋭い声が上がった。
「時間があんま無いんで、手っ取り早いと思って」
「バッ、バカッ!見えたじゃないか!」
真っ赤な顔して怒鳴る。
「何がですか?」
「ああもう、いい!」
顔赤くしたまま吐き捨て、設楽さんは、ピアノに向かい、弾きだした。
いつもの音色…、じゃねぇ。音が少し乱れてる。よく耳にしていたから、俺には違いがわかる。
「設楽さん、何かあったんですか。音がいつもと違う」
指摘すると、ピアノ弾く手をピタリと止めた。
「おまえのせいだよ!さっき、見えたって言っただろ!」
そう言って、俺の下半身を指差した。
「窓から跨いだ時!」
設楽さんが、苛ついた声を出す。
もしかして、パンツ丸見えだったんか?
そうか…、設楽さんは、小波のパンツで気が散って集中できなかったんだ。
俺は、あいつのパンツが風に吹かれて見えた時驚愕の集中力を発揮したというのに…。
人それぞれなんだな。
「設楽さん、すみません」
「な、なんだよ。わ、わかればいいんだよ。あ、不二山」
設楽さんの視線を辿ると、小波がいた。
「設楽先輩、こんにちは」
小波が挨拶した。せっかくだから、二人で設楽さんのピアノを聴かせてもらおう。
「今日は嫌だ。気分が乗らない」
設楽さんが、ピアノの蓋をパタンと閉めちまう。
仕方ねぇ。小波のパンツで心乱れちまったんだ。繊細な芸術家の気持ち汲まねーとな。
「わかりました。また今度聴かせてください」
「気が向いたらな」
そう言って、音楽室を去った。
「設楽先輩、機嫌悪かったね」
そうだな。パンツ見られたことは黙っとこ。
「ところで、そっちの方は、俺いねー間大丈夫だったか」
「うん。だんだん体が馴染んできたみたいで、快適よ」
「なら、良かった。あれ、腕に痣ついてねぇ?」
「さっき琉夏くんと、ちょっと戦ってね」
「えっ、マジか」
中身小波だから、負けたんじゃねぇの。絶対ヤだ。
「いい勝負よ。引き分けで終わった感じなの」
「えっ、おまえやるじゃねーか」
「でしょう?私、もっと鍛えて強くなりたい。力がみなぎってるの。この体だと遣り甲斐あるね。本当に最高」
小波が俺の腕をうっとりしながら擦る。
「だろ?しっかり鍛えて維持してきたからな。ちゃんとトレーニングしてくれって言おうと思ってたんだ」
「やるよ。あと、柔道も学びたい。この体なら出来ると確信しているの」
「そっか。よし、じゃあ、改めて練習メニュー作らねーとな」
「押忍!」
「押忍!じゃ、昼休み終わるし、教室戻るか」
俺になった小波の歩き方が、前と違って力強くなってる。
良かった、いつまでもあんなナヨナヨされたら困るもんな。
俺達は教室に入った。
「よっ、不二山夫婦」
そっか。付き合ってることになってんだ。
「おう」
俺は軽く手を挙げて席についた。
「ちょっとちょっと、その返事。完全に男の子じゃない」
俺の席までついてきた小波が、ぎゅっと俺の腕を掴む。
「大丈夫。小波のダチに、こんな感じにイメチェンしたからよろしくって言っといたから。もう男言葉も公認だ」
「どういうこと?納得されたの?」
「女は好きな男に染まるって言うだろ。だから、俺、まあ、見た目は小波だけど、男のおまえ、つまり俺だけど、それに合わせて男っぽくなったってことだ」
「なんなのそれ」
すげぇ不思議そうな声。
「俺の説明わかんねぇ?」
また説明しないといけねーのか。わかりやすく紙に書くか。
「いや、そうじゃなくて、好きな男に染まるってそういう染まり方では無いと思うけど…」
「グダグダ言うな。俺も普段喋ってる言葉で話せて楽だし、もう皆納得してくれた」
いちいち女っぽいしゃべり方考えんの疲れんだよな。これで解放される。
「あ、ちょっと、足閉じて。すぐ開くんだからー」
言った側から楽になんねぇ。
無意識に足開く。
そうだ。
「なあ、ベルト貸せ」
俺は小波のズボンに通してるベルトを指差した。
「無意識に開くから、足縛る」
「おいおい、不二山達、どんなプレイだよ」
ヒソヒソ何か聞こえてくる。
「早くしろよ」
「皆が変態扱いしてる。止めてよー」
また情けねー顔する。それ止めろ。
「こらぁー、早く座れぇー!授業を始めるぞおー!」
大迫先生が教室に入ってきたので、足を縛る間もなく授業が始まった。
足をじっと閉じるって疲れる。
いや、そうか、これも筋トレじゃねーか。もっと早くから気づけば良かった。
そう思えば全然楽勝だ。
内腿にグッと力を入れた。