子供時代
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「.孫が生まれたんだ」
その日、本丸はちょっとした騒ぎになった。雲ひとつない澄み切った晴れの日だった。本丸の主が突然赤子を連れてやってきたのだ。
「わぁ、可愛い!」
「やわらかそうなほっぺですね」
「てか主、結婚してたの?!」
「嘘でしょ…」
「こりゃあとんだサプライズだな」
主からの呼び掛けに全刀が大広間へ集まると、そこの中央には目の端に皺を作った主が大事そうに腕に赤子を抱えて鎮座していた。赤子は目を閉じてスヤスヤと寝いっている。乱が興奮気味に凝視し、物珍しそうに今剣が赤子へ顔を覗かせ、加州が本丸の主が既婚者ということに大層驚き、安定が愕然とし、鶴丸が口を開け、衝撃の事実に長谷部は言葉を失っていた。ほかの刀剣たちも多種多様な反応をした。
本丸は騒ぎになった。やれ祝い酒だ祝杯だ宴会だ準備せよと皆が立ち上がりかけたその瞬間、主からまあちょっと待てと静止がかかる。
「話がある」
主は声を低くした。真剣味を帯びたその声色に、大広間はしん、と先ほどの騒ぎが嘘のように静かになった。
全員の顔を見渡すと審神者は赤子の顔についと視線をあげて柔らかく微笑む。そして、こう言った。
「こいつをこの本丸の後継者として育てることにした」
誰かが驚いて声をあげた。主よ、と三日月が宝石のような瞳を向ける。どこか咎めたようすで。
「まだややこだろう?先の将来を決めるのはちと早すぎるのでは」
諭すように言うが、審神者は首を振った。
「三日月、お前の言うことは分かる。ほかのみなも俺に言いたいことはあるだろう。勝手に決めてすまない」
だがどうかこいつを受け入れてやってくれと主は頭を下げた。慌てて長谷部が頭を上げてくださいと叫ぶ。
でもさー、と加州が頰を掻いた。
「審神者になるのって、政府から「てきせー検査?」っての受けるんでしょ?勝手に後継者にしますって許されるの?」
「適性検査ってのがどんなのかわからないけど」
にっかり青江が赤子を抱き上げた。
「これだけの刀剣たちに囲まれても気持ちよさそうにしてるんだから主みたいに肝は座ってんじゃない?」
「女版主になるのかなぁ」
五虎退が悲しそうに言った。
「顔はこんなに可愛いのにな」
薬研が嘆いた。
「酒ビン持って徘徊したりすんのか」
同田貫が遠い目をした。
『このややこが主そっくりに育つのか…はぁ…』
「お前ら全員刀解してやろうか」
おお、怖い怖いとケタケタわらう刀剣たち。反対の声はない。どうやら、赤子の存在を受け入れてくれるらしい。審神者はほっと一息ついた。
ふと審神者は視界の離れた場所に太郎をみつけた。赤子を囲む刀剣たちから距離を置いて、遠目からこちらを無表情で眺めている。
「太郎」
「はい」
審神者は手招きして太郎を呼んだ。
「どうしてそんな隅っこにいるんだ」
「…私は赤子が苦手でして。その、泣かれることが多く」
太郎は大太刀という武器を表現したように背が高く、必然的に幼子を見下ろす形になる。次郎太刀とは違い表情は動かず瞳はどこか冷たい印象を与え、幼子は怯えることが多い。長身で無表情だが、だからといって幼子に泣かれると、人の身体の一部の臓器がズキズキと痛むのだ。
「まあほら、こっちに来い」
仕方なく、太郎は近寄る。
腕を出せと主が言うので太郎が疑問符を浮かべながら出すと、柔らかな重さが腕に乗る。赤子だ。
「あ、主、」
珍しく太郎が慌てふためく。急いで赤子の頭に腕を回し、小さな存在を抱き寄せた。布ごしでも伝わる身体の柔らかさに太郎は驚く。果物の桃のように、太郎のような力の強い存在が少しでも気を抜くと、簡単に肉が潰れそうだと頭の片隅で思う。
ぱちり、と赤ん坊の瞳が開いた。綺麗な栗色の瞳だった。穢れのない瞳が太郎を見上げる。栗色の、大きな瞳が金の瞳をとらえた。太郎は焦った。まずい、泣かれる…と。
だが、赤ん坊は瞳を細めて声を立てた。楽しげに、そう、『笑った』のだ。
本丸はまた騒がしくなった。
「わー!!赤ちゃん笑った!!」
「太郎を気に入ったようだな」
「アニキを気に入るなんて見る目があるねえ!」
「太郎だけずるい!俺も赤子抱っこしたい!」
「…主」
「どうした太郎」
ぽつりと太郎は主人の方を向いて喋った。
「この子の、名は」
「ひよりだ。」
「ひより…良い、名前ですね」
「そうだろう。みんな、よろしく頼むな」
雲ひとつない澄み切った晴れの日、本丸は、賑やかな声に包まれた。
その日、本丸はちょっとした騒ぎになった。雲ひとつない澄み切った晴れの日だった。本丸の主が突然赤子を連れてやってきたのだ。
「わぁ、可愛い!」
「やわらかそうなほっぺですね」
「てか主、結婚してたの?!」
「嘘でしょ…」
「こりゃあとんだサプライズだな」
主からの呼び掛けに全刀が大広間へ集まると、そこの中央には目の端に皺を作った主が大事そうに腕に赤子を抱えて鎮座していた。赤子は目を閉じてスヤスヤと寝いっている。乱が興奮気味に凝視し、物珍しそうに今剣が赤子へ顔を覗かせ、加州が本丸の主が既婚者ということに大層驚き、安定が愕然とし、鶴丸が口を開け、衝撃の事実に長谷部は言葉を失っていた。ほかの刀剣たちも多種多様な反応をした。
本丸は騒ぎになった。やれ祝い酒だ祝杯だ宴会だ準備せよと皆が立ち上がりかけたその瞬間、主からまあちょっと待てと静止がかかる。
「話がある」
主は声を低くした。真剣味を帯びたその声色に、大広間はしん、と先ほどの騒ぎが嘘のように静かになった。
全員の顔を見渡すと審神者は赤子の顔についと視線をあげて柔らかく微笑む。そして、こう言った。
「こいつをこの本丸の後継者として育てることにした」
誰かが驚いて声をあげた。主よ、と三日月が宝石のような瞳を向ける。どこか咎めたようすで。
「まだややこだろう?先の将来を決めるのはちと早すぎるのでは」
諭すように言うが、審神者は首を振った。
「三日月、お前の言うことは分かる。ほかのみなも俺に言いたいことはあるだろう。勝手に決めてすまない」
だがどうかこいつを受け入れてやってくれと主は頭を下げた。慌てて長谷部が頭を上げてくださいと叫ぶ。
でもさー、と加州が頰を掻いた。
「審神者になるのって、政府から「てきせー検査?」っての受けるんでしょ?勝手に後継者にしますって許されるの?」
「適性検査ってのがどんなのかわからないけど」
にっかり青江が赤子を抱き上げた。
「これだけの刀剣たちに囲まれても気持ちよさそうにしてるんだから主みたいに肝は座ってんじゃない?」
「女版主になるのかなぁ」
五虎退が悲しそうに言った。
「顔はこんなに可愛いのにな」
薬研が嘆いた。
「酒ビン持って徘徊したりすんのか」
同田貫が遠い目をした。
『このややこが主そっくりに育つのか…はぁ…』
「お前ら全員刀解してやろうか」
おお、怖い怖いとケタケタわらう刀剣たち。反対の声はない。どうやら、赤子の存在を受け入れてくれるらしい。審神者はほっと一息ついた。
ふと審神者は視界の離れた場所に太郎をみつけた。赤子を囲む刀剣たちから距離を置いて、遠目からこちらを無表情で眺めている。
「太郎」
「はい」
審神者は手招きして太郎を呼んだ。
「どうしてそんな隅っこにいるんだ」
「…私は赤子が苦手でして。その、泣かれることが多く」
太郎は大太刀という武器を表現したように背が高く、必然的に幼子を見下ろす形になる。次郎太刀とは違い表情は動かず瞳はどこか冷たい印象を与え、幼子は怯えることが多い。長身で無表情だが、だからといって幼子に泣かれると、人の身体の一部の臓器がズキズキと痛むのだ。
「まあほら、こっちに来い」
仕方なく、太郎は近寄る。
腕を出せと主が言うので太郎が疑問符を浮かべながら出すと、柔らかな重さが腕に乗る。赤子だ。
「あ、主、」
珍しく太郎が慌てふためく。急いで赤子の頭に腕を回し、小さな存在を抱き寄せた。布ごしでも伝わる身体の柔らかさに太郎は驚く。果物の桃のように、太郎のような力の強い存在が少しでも気を抜くと、簡単に肉が潰れそうだと頭の片隅で思う。
ぱちり、と赤ん坊の瞳が開いた。綺麗な栗色の瞳だった。穢れのない瞳が太郎を見上げる。栗色の、大きな瞳が金の瞳をとらえた。太郎は焦った。まずい、泣かれる…と。
だが、赤ん坊は瞳を細めて声を立てた。楽しげに、そう、『笑った』のだ。
本丸はまた騒がしくなった。
「わー!!赤ちゃん笑った!!」
「太郎を気に入ったようだな」
「アニキを気に入るなんて見る目があるねえ!」
「太郎だけずるい!俺も赤子抱っこしたい!」
「…主」
「どうした太郎」
ぽつりと太郎は主人の方を向いて喋った。
「この子の、名は」
「ひよりだ。」
「ひより…良い、名前ですね」
「そうだろう。みんな、よろしく頼むな」
雲ひとつない澄み切った晴れの日、本丸は、賑やかな声に包まれた。
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