紫陽花の君に
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鳥居をくぐる前に一礼する。
中村は俺の肩ぐらいまでの大きさで、
礼をすると完全に俺の視界から消える。
「花巻、見て」
視界の外から声がした。
月曜のオフ日、
全国大会祈願で来た神社で
結婚式を見かけた。
「キレイだね」
「ここでもやるんだな、こういうの」
「縁起いいらしいよ、お福分けって」
新郎は真剣な顔で前を見て、
新婦は少しうつむいている。
神社の厳かな景色に夫婦になる二人は溶け込んでいた。
「キレイ…」
結婚なんて高校生だから関係ない。
部活漬けで彼女もいねえし。
でも好きな奴ならいる。
「心の中で祝うといいんだよ」
「詳しいな、中村」
横顔の中村をじーっと見下ろす。
胸の前に拳を握って、小さく
「おめでとうございます」と呟いている。
声、漏れてっから。
小さな拳、俺の片手で両手を包んでしまえそうなぐらい。
拳が開かれると俺に振り向いて
「行こうか」
屈託のない笑顔を俺に向けた。
カランカランカラーン
二礼二拍手一礼
素早く済ませる俺とは違って中村は
目を閉じている時間が長い。
ポニーテールのうなじにある小さなほくろ、
下を向かなきゃわからない彼女の事。
知ってる奴はきっと俺以外にもいる。
だけどそれを見ていい権利は俺だけに欲しい。
中村がようやっと目を開いた。
「祈るの長くねぇ?」
「バレー部のことと花巻の事、別々に祈ったからね」
思わせぶりな所も俺だけにしてほしい。
「へぇ、何祈ってくれたの?」
「想像つくでしょ」
多分俺が期待するような願いには
何一つ掠ってないんだろうなと思う。
中村の顔をじっと眺めていると、
ただの明るい笑顔が返ってくる。
俺は祈ってない。
感謝だけ。
こいつと神社に来れたこと
並んでお参りできたこと。
「花巻、おみくじも引こうよ」
「悪い結果出たら嫌だなぁ」
「結べば良くなるんだよ、ほら」
2人で引いたおみくじは俺は中吉。
多く望まねば脈あり。
どこまでが多くなんだかわかんね。
ただ、二人きりで来れるだけ
望みを持ってもいい気もする。
「花巻、紫陽花キレイだね」
「そうだな、小さくてかわいいよな」
「小さい?ああ、花ね」
今はまだ気づかれないまま。
隣を歩くぐらいは望んでもいいよな。
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