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【一次創作】聖女になりましたが、目立つのが嫌いなので王太子妃にはなりません!

「それでは聖女クラスを発表します。
首席 カフカ・クランベル」

どうしてこうなってしまったのだろう。

全てを思い出したあの日から、私の生活は一変した。
前の人生を合わせて、私は40年近く生きていることになる。もちろん全てを鮮明に覚えている訳では無いし元々要領はいい方でないが、さすがにそれだけ生きていれば生活態度は色々と変わってくる。
「カフカお嬢様が急に変わられた……。」
「伯爵様の書斎の本を読破したってどういうこと?」
「急に大人になられたよな」
本を読めば癖で速読してしまうし、以前の世界の経験もあるので大体のことは覚えてしまった。

入学前診断でも桁外れの聖属性の魔法を感知されて、特別に魔力制御装置をつけて校長たちの前で聖属性の魔法を披露することとなった。
試験会場の横の個室で行ったものであったが、建物内にいた人間全員の小さな怪我を治してしまうとは、私にも予想がつかなかった。

数年続いている腰痛が治った校長は、当初から私が聖女だと強い確信をもっていたが、偶然ではないか確かめるために1ヶ月もかけて聞きこみ調査を行っていた。
結果を聞いた両親や妹はとても喜び、その日ばかりはカフカを祝福した。両親はもっと贅沢できることを喜んでいたし、妹は王家御用達の仕立て屋でとびきり豪華な服を着られることを特に喜んでいた。3人の言動からカフカの知らないところで王家から褒賞金が出ていたのは分かっていたが、今まで誕生日すら祝ってもらったことがなかったカフカは家族からの祝福が素直に嬉しかった。

壇上から降りる時に聖女クラスのメンバーを確認した。異国から来た女性が数人座っている。その中のオレンジの瞳で褐色の肌の女性と目が合う。
「……文子。」
入学式で紹介される前から気がついていたが、あの女性は文子だ。前の転生先では私の護衛騎士で、後に私の親友となって一緒に戦ってくれた。私と同い年で、名前は文子で、金髪で褐色の肌でオレンジの瞳。私が前の転生でカフカだったように、きっと彼女も文子なのだ。それほどまでに彼女に運命を感じた。

落ち着いたら彼女に転生について聞いてみようと思う。
私と同じで記憶を引継いでいるかもしれないし、初対面で始まってしまうかもしれない。でもきっと、この転生でも彼女とは親友になれる気がするのだ。

――――――

「久しぶり?…… 私とクランベルさんって以前お会いしてましたっけ?」
フミコは首を傾げた。残念ながら前世の記憶はないようだ。
「すみませんが人違いですよ。私この国に来たの初めてだし。クシナ国からルーウィントに留学する生徒は初めてらしいです。」
「クシナ国?」
「かなり東の方へ行った国です。」
フミコはカバンから小さなスケッチブックを出して絵を見せた。前世で私達のいた故郷によく似ていた。
「……似てる。けど、服装や建物が少しずつ違いますね」
「?近隣諸国に行ったことがあるんですか?」
「いえ、いいんです……。失礼なことを言ってしまいすみません。」
本当に何も知らないみたいだ。フミコへの無礼を詫びた。

「いえ、話しかけてくれて嬉しいです。私、他の方と違って貴族では無いので…」
「聖女は必ず貴族になれるのではないですか?」
「クシナ国は元々平民出身だと、偉くなってもせいぜい軍人くらいなのです。戦いは専門では無いですが、私も軍人です。ルーウィントとは同盟関係にあるので、新しい視点の聖魔法を学べたらと思って来てみました。」
「新しい視点ですか……」

「お話中すみません、ヨナミネ様、クランベル様」
横から男性が割って入ってきた。
黒髪で赤目で、どこかで見た事のある男性だ。同じ制服なのに佇まいから品を感じる。

「これは、ルーウィント第3王子のミナト様」
フミコは敬礼をした。が、今回は軍人として来ていないことに気がついて慌てて深くお辞儀をした。カフカも慌てて頭を下げた。見たことある気がしたのは、この国の歴史を勉強する時に陛下の肖像画を見たからだった。顔つきと目の色が全く同じだ。

「ご挨拶がおくれてすみません。クシナ国からはるばるきていただいて本当に感謝しております。」
「こちらこそ、交流の薄い同盟国にも関わらず受け入れていただいたこと深く感謝しております。」
「はい。来てくださったからにはルーウィント王国の名誉にかけて、クシナ国の大聖女であるヨナミネ様をお守り致します。」
「大聖女?!」
カフカが驚くと、文子は照れた笑いをうかべた。

「ところで、クシナ国からヨナミネ様の護衛の申し出が届いていたようですが、本当にお断りしてよろしかったのでしょうか?」
「ええ、この留学はクシナ国を救うためとはいえ私のわがままでもあります。」
「そうですか……。とはいえ、街に出る際は必ず護衛をつけて行ってください。うちは治安はいい方ですが、万が一がありますので……。」
「お気遣いありがとうございます。」
「あと……クランベル様。この後お時間よろしいでしょうか。」
「はい……なんでしょうか」
「コホン……。二人で話したい話なのでそちらの教室でお話しましょうか」
「まあ……フフ。では、失礼します」
文子は何かを察して、早々に帰ってしまった。

カフカを教室へ入れると、ミナトは教室の扉の内鍵をかけた。促されるまま、カフカは席に座った。
「お話は伺ってますか?」
「えーと……。なんのことでしょう」
「はあ、やっぱり……。」
ミナトはため息をついた。
「入学前診断の際、クランベル様の魔力からは桁外れの聖属性の魔力が検知されました 。その結果…あなたが大聖女の可能性が高いと判断されました。」
「え?」
「瘴気の浄化については未確認ですからこれは確定事項ではありません。ただ、現時点の魔力だけでも、あなたの聖魔法で数千人を救う事ができるのです。大聖女でなかったとしても、聖女の素質を十分に持ち合わせているクランベル様は丁重に扱うべきと判断されました。そして…
私、ミナト・ルーウィントは、カフカ・クランベル様と婚約させていただくことがもうすでに決定しております……。」
ミナトは気まずそうにしている。

「え?」
「クランベル伯爵は本人から許可をとったとおっしゃっていました。もちろんカフカ様ご本人の署名もいただいており、1週間で婚約が決まりました。
でももしかしたらと思い、今確認をしたのですが、やはりご存知なかったのですね……。」

「ええ、存じ上げませんでした。」
「クランベル伯爵はなぜ嘘をついたのでしょう。また話し合わなければなりませんね……」
「婚約のお話はこのまま進めていただいて構いませんよ。」
話し合いはどうせ無駄だ。婚約者のいない自分に拒否権は無いし、親に反抗すればなにをされるかわかったものではない。
「……。」

「書類まで揃っているにも関わらず、殿下は私のことを案じてこうしてお時間をとってくださいました。それだけでとても嬉しいのです。」
「クランベル様……。」
ミナトは安堵している。
拒否権がないとはいえ、ミナトがこうして来てくれたことは本当に嬉しく思っていた。

「改めましてミナト王太子殿下、よろしくお願い致します。父には私からも話しておきます。」
「よろしくお願いします。本当は婚約前に直接伺いたかったのですが、今期こそは大聖女の血を王家にと父や宰相が騒いでおりまして…。公爵家があなたとの婚約を取り付けに行こうとしている噂も聞いていたので、結果が出てすぐに伝書を送ることにしたのです。」
カフカはミナトの顔をよく見た。初対面の婚約者なのに全く緊張している様子はない。婚約といえばロマンティックなイメージがあったが、ミナトの表情といい動機といい完全に事務的だ。しかしカフカの方にも殿下に対しての恋心は全く無いので事務的な対応に安心感さえ抱いていた。

「婚約発表パーティの件ですがご希望はございますか?時期としては来年あたりで考えておりますが……。」
「ミナト殿下。私、この婚約は大変嬉しく思っております。ですが、本当はミナト殿下はもっと容姿や家柄が素晴らしい女性と結ばれたかったのかもしれません。」
カフカは両親や妹と会う度に容姿のことを貶されていた。それに公爵家にも年頃の美しい令嬢がいるにも関わらず自分は伯爵令嬢だ。殿下には申し訳ないと思っている。

「……クランベル様?」
「何も言わずともわかっております。婚約発表は学園を卒業してからでもよいのではないでしょうか。発表する前でしたら取り消せますし、私は全面的に協力します。」
「クランベル様、家柄も何もあなたは素晴らしい才能の聖女なのですよ?容姿だって…美しいです。」
「私はルーウィント王国を愛しております。この国で聖女の役目はきちんと果たすつもりです。ですから、私が大聖女ではない可能性も考慮して卒業までは待った方がよろしいかと。」
「ふむ、クランベル様のお話も一理ありますね。私もクランベル様もいつかは想い人ができるかもしれませんし、素晴らしい聖女の素質を持ったクランベル様がより良い環境で我が国のためにお力を発揮していただけるのは大変喜ばしいことです。とにかくお話はわかりました。近々また会いましょう。それでは…。」
ミナトは一礼して教室を去っていった。

ミナトが教室を出てしばらくしたあとカフカも教室を出た。すると、女神のような容貌の女性が立ち塞がった。
「あなた、ミナト王子とはお知り合い?」
「ええ、まあ……さっきが初対面です」
「ふぅん……。じゃあ何を話されていたの?」
「ええと……。」
カフカは言葉を濁す。さっきの話もあるし婚約発表まであまり周りには言いふらさない方がいいだろう。
「まあ、聖女クラスの主席ですからね。色々とお話もあるのでしょう」
「そうですね…」
さっきからこの偉そうな女性はなにを話したいのだろう。カフカは早く帰りたかった。

「ああ、申し遅れました。|私《わたくし》フォンティーヌ公爵令嬢のレイと申しますの。クランベル伯爵令嬢のカフカさん、よろしくお願いしますね。」
「よろしくお願い致します。」
急に失礼な物言いで話しかけられたから最低限の返答しかできなかったがまさか公爵令嬢だったとは。カフカは深く頭を礼をした。

「あなた、聖属性の才能が少しあるからってあまり勘違いなさらない方がいいわ。私、これでも4つの属性を使えますの。これから聖属性の特訓をしますから、聖属性が使えるようになれば聖女クラスの首席は私に変わってしまいますもの。」
「そうなんですね……さすがです。」
確かにそれはすごいことだ。ルーウィント王国の歴史上4属性を使える人物はいない。カフカも、以前使えていた水属性を入れて2つしか使えない。レイは入学前から相当な才能を持って、相当な努力を重ねてきたのだろう。
レイは自身のペースを乱されて咳払いをした。

「と、とにかく!ミナト様はお優しい方ですけれど、あまり勘違いなさらないでくださいね?では失礼します。」
レイは完璧な角度でお辞儀をし、踵を返した。
しゃべらなければ完璧な公爵令嬢だが、いかんせん口が悪い。カフカはすっかり気疲れしてしまった。
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