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【一次創作】聖女になりましたが、目立つのが嫌いなので王太子妃にはなりません!

天気の良い日の昼下がり。
私は大きな椅子に座って、足をプラプラさせながらお気に入りの童話を読んでいる。
遠くで小さな子供の声がしている。乳母と追いかけっこをしているようだ。
なんの変哲もない1日。しかし、明らかにおかしいことがある。
私の記憶に、他人の人生の記憶が混じっている事だ。
知らない部屋。知らない服。知らない人達…。そのどれもがぼやけていてどうにも気持ち悪い。

本を読むふりをしながら、その記憶の根っこを引き出そうとしていると、ある事に気がついた。
椅子から立ち上がり、部屋に置かれた鏡の前に立つ。背格好からして5歳前後。銀髪に青い瞳。そして……
「カフカお嬢様」
私の名前が呼ばれた。

――その瞬間全てを思い出した。
目の前をすさまじい速さで色々な場面が通り過ぎていく。
裕福で家族仲の良い家に産まれて、友情をはぐくみ、聖女になり、国のために尽くす人生。最後は国王を回復させるために全ての魔力を使い果たし死んだ。35年の短い人生だった。
その記憶の中の私も名前はカフカで、銀髪で青い瞳だった。それだけは変わっていなかった。

「カフカお嬢様!」
乳母のリズが私の横で心配そうにしている。
「リズ、ごめんなさい。今日は体調がわるいから部屋にいようと思うの」
「そうですね、いつもとご様子が違うようなので心配致しました。お部屋に戻りましょう。」
リズが私の手を引く。
明日はこの国の歴史を調べて、この先どうするか考えよう。
せっかくなら少しでも長生きできるように知識を蓄えておきたい。

「それじゃあ、また良くなったら声をかけるね」
「はい。おやすみなさい。」
リズはお辞儀をしてゆっくりドアを閉めた。

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