ネズユウ 一覧
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは突然だった。
ユウリはネズの家でテレビを見ながら談笑しているところだった。
急に目の前の景色が歪み、視界がメトロノームの先ように揺れた。
「あれ…?」
多分いつもの風邪だろう。
チャンピオンになってからさらにストレスが溜まり、シーズン毎に風邪をひくようになった。
加湿器を付けたり、カーディガンを常に持ち歩いたり気をつけてはいる。
しかし、ここ最近テレビの収録が長引いたりして、睡眠リズムが不規則になっていたのが原因のようだった。
「ユウリ?」
ネズはユウリの額を手のひらで包んだ。
「あはは…風邪ですかね」
「…結構熱いじゃないですか。
立てますか?
さあ、つかまって。」
ユウリの体を支えながら持ち上げた。
「ごめんなさい…」
「俺も気が付かなくて、申し訳ない」
ネズの部屋まで運ばれると、ゆっくりと丁寧にベッドに下ろされた。
ネズにシャツのボタンを外されてユウリはドキドキしたが、息苦しくならないように外されたのだとわかって少しがっかりした。
ユウリは体温計と風邪薬を渡され、言われるがままに床についた。
体温は38℃で、喉や頭の痛みはなかった。
少し熱くて身体が重いくらいだ。
「あの、私多分もう大丈夫…」
「いいから休んでいてください。
ハチミツジンジャーティー、作ってきます。」
「あ、待って…」
ユウリはネズの服の裾を掴んだ。
「もう少しだけ一緒に…」
「…はいはい。」
ネズはユウリのお腹のあたりを優しくポンポンとさすった。
「そんな子供みたいに……」
「まだ子供ですよ。俺からすれば」
ユウリは頬を膨らませて、ネズの手を軽く払った。
「明日にでも結婚します?」
「まだダメです。」
ネズは付き合いたてのころに、結婚は18歳になるまで待とうと約束していた。
ユウリはへらへら笑っている。
「あー、明日チャンピオンの仕事あるのになー」
「またアイドルですか」
「や、明日はジムチャレンジャーのファイナルトーナメントですよ。
ネズさんは応援来ないんですか?」
「そういえばマリィが話してましたね…
俺は行きませんよ」
ネズは明日アルバムのジャケット撮影の予定がある。
だから、どうしても応援には来れなかった。
「ま、でもそういうことなら今日中に治さないといけませんね。」
ネズは布団に入って、ユウリの身体にくっついた。
「眠れるまで隣にいてあげますよ」
「うつっちゃいますよ!」
「俺は普段からきちんと風邪予防してますから」
「私も手洗いうがいしてるもん」
「子供ってすぐ風邪引きますよね」
「また!」
ユウリはそっぽを向いた。
ネズはユウリの脇の下に手を回して、後ろから抱きしめた。
「わ、やめてください!」
「………もう俺はジムリーダーじゃないですから、ユウリに挑むことも無いでしょうね」
「……どうしたんですか?」
ネズはしばらくなにも言わなかった。
ユウリがもう一度同じ質問をすると、ネズはようやく口を開いた。
「別の道に行くって決めたのは俺自身なんですけどね…。
最近、ユウリが遠くに行ってしまう気がして、不安になります。」
「ネズさん… 」
ユウリはネズの方に向き直ると、髪のセットを崩さないようにそっと頭を撫でた。
「病人に優しくされるとは…」
ネズは赤面しながらも、しばらくそのままでいた。
ユウリはいつのまにか眠っていた。
目が覚めると、ユウリのいる寝室は温室のように暖かくなっていた。
部屋の隅に設置された加湿器が音もなく水蒸気を出している。
ベッドの横のミニテーブルの上にのったハニージンジャーティーはまだ少し温かかった。
体温を測ると、もう熱は引いたようだ。
身体の重さや軋みはすっかり無くなっていた。
「目は覚めましたか?」
ネズはシャワーを浴びてきたのか、髪のセットがなくなっていた。
「もう熱下がったみたいです。」
「ま、もう遅いから泊まっていきなさい。」
時計を見ると1時を指していた
夢を見ていないから体感では1時間程のつもりだったが、6時間も眠っていたみたいだ。
「俺の部屋で看病されるの、初めてでしたね」
「ふふ。ネズさん、いつも私の家に来てくれて、差し入れとかポケモン達の散歩とかしてくれてましたもんねぇ」
「……あれは散歩じゃなくて、ランニングです。
冗談抜きで死ぬかと思いましたよ。」
ユウリの手持ちにいるウインディは特によく走る。ガーディのうちはそこまで速度も出なかったが、ウインディになってからはユウリが全力で走ってギリギリ着いていけるくらいだ。
ユウリはそれを苦に思っていなかったが、毎日6匹全てのポケモンと散歩をする習慣があるためネズはすっかり堪えていた。
「ネズさんいつも不健康そうだから、ちゃんと走った方がいいと思ったんですよ」
「お気遣いどうも。
そのランニング中に貧血で倒れて、マリィにも同じことを言われましたよ。」
ネズは体調管理こそプロ意識を持っているが、体力維持にはそこまで気をつけていない。1日何も食べずに作曲作業をすることもしばしばある。
ユウリやマリィはそんなネズのことをいつも心配していた。
「それにしても、こんなに毎日走って体力もあるはずのユウリが何故風邪を引くんでしょうね…」
「そういえば…。昨日の朝寒かったですよね。昨日の朝の散歩で身体冷えてたかもしれないです…。」
「無理に毎朝走るのはお止めなさい。
ユウリのポケモン達も話せば分かるでしょう」
「でも…。ポケモンのことになると、正直自分の体調とか忘れちゃうんです。
みんなと走るの、すっごく楽しくて。」
ユウリはにへらと笑った。
ネズはため息をついたが、ユウリにつられて笑顔を見せた。
「まあ、だからユウリは最強なんでしょうね」
「さあ、わかりませんよ?明日のジムチャレンジで最強じゃなくなるかも」
「そんなわけはないですよ。俺のユウリは世界最強です。」
2人は布団の中でくすくすと笑った。