キバユウ 一覧
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私が新チャンピオンになってから1週間が経った。チャンピオンの仕事がどれだけ大変か、1週間前の私は知る由もなかった。
あの日から3日は寝かせて貰えず、雑誌やテレビで引っ張りだこだった。初めの一日はノリと勢いで乗り切ったが、元があまり明るくない私は2日目からすでにバテはじめていた。
3日を過ぎたあとも色々な取材があったが、やっと1週間経ってチャンピオンになった実感が湧いてきたところだ。
正直、私はチャンピオンの仕事を舐めていた。しかし、ただ戦うだけではなくバトルをパフォーマンスとして魅せなければならないことや、とにかく愛想を振りまくこと、SNSで炎上しないように気をつけつつしっかり投稿すること…色々なことを気をつけなければならないチャンピオンはなかなかキツい仕事だった。
「ユウリ…なんか疲れてないか?」
ホップが心配そうにこちらを覗き込む。
ナックルシティのカフェで私たちはお茶を飲んでいた。
今日はホップも休みだと言うから、2人で街を散策している。
「チャンピオンって、意外とキツいんだよね…ダンデさん大変だったんだなぁ」
ホップは苦笑いをして、そうだなぁ、と相槌をうった。
「リザードンポーズみたいな、キャッチコピー?が欲しいんだけど、なかなか思いつかないし…」
「ユウリはチャンピオンになったらしたいこととか考えたことなかったのか?」
ホップは頬杖をついてココアを飲んでいる。恐らく彼はチャンピオンになった日を何度も夢見て、何度もシミュレーションしたんだろうと考えると、あまりこの話題は良くないんじゃないかと今更気づいた。
テーブルの下でホップのつま先が私のつま先にくっついた。
私は少し赤面したが、ホップはなにも気にしていない様子だった。
距離感が男女で変わらないところが実に彼らしい。
次は何を話そうかとぼーっと考えていたら、周りの客たちが少しざわついた。
私とホップが辺りを見回すと、入口の方にキバナさんが立っていた。
「なーにしてんの?」
私に話しかけられたみたいだった。
キョトンとしてホップの方を見ると、ホップも同じ顔をしていた。
「なにって、お茶飲んでますけど」
「じゃなくてさ」
そう言うと、キバナさんはじっとホップの方を見た。
ホップは未だにキョトン顔のままだ。
「ま、いいや。」
キバナさんは私の手を強引に掴んで振り返り、出口に向かって歩き出した。
思ったより強い力で引っ張られ、私はよろけた。
「え、ちょ、な…なに?」
「なにって、デートの続き」
キバナさんの声はどこか怒っているように聞こえて、恐怖を感じた。
手を捻って抵抗してみても、腕の力は一向に弱まらない。
「お、おい…、キバナさん。さすがにそれは」見るに見兼ねてホップが注意をした。
しかし、キバナさんは余計にいらだった様子で小さく「行くぞ」と言って手を引っ張った。
抵抗しても無駄だと悟った私は、ホップに「大丈夫だから、後で連絡する!」と伝えて店を後にした。
店を出ると手を離してくれたが、なんとなくついて行かないとまずい雰囲気なのでキバナさんの隣を歩いた。
お互いにファンの人達が話しかけてくると、こちらから手を振ったり、笑いかけたりしたが、二人の間では会話をせずただ歩いていた。
「………あの、なんなんですか?」
「………SNS」
キバナさんはぼそっと呟く様に言い捨てた。
「SNS?」
「あのさ、今どこにいるか分かるようにしたら危ないってわかんねーかな」
私は急いで自分のSNSを開いた。
ラテアートの写真をアップした投稿のコメントの上の方に、『ナックルシティのカフェですね!』『ホップさんと一緒にいるみたいですけどデートですか?』と書かれてありゾッとした。
急いで投稿を削除した。
「………………え、それだけ?」
キバナさんはなんとなく何かを言いたそうにしているが、目を合わせようともせずひたすらどこかに向かって歩き続けていた。
私はその態度に不安を感じながらとにかく着いていくことにした。
「………デートだったのか?」
ジムの裏の勝手口で立ち止まって、やっとこちらを見たと思えばキバナさんはそう言った。
「え?」
何を言っているか本気でわからず聞き返すと、また無言の時間が続いた。
なんだったんだろうと思っていると、キバナさんはドアを開けて入るように促した。
私はキバナさんの隣を歩いているうちに彼の自室に連れてこられた様だ。
小綺麗な部屋ではあるが、微妙な生活感が感じられる。
「デートだったのか?」
キバナさんはまた同じ質問をした。
質問の意図がわからず私は口ごもる。
「デート……ではないはず…ですけど」
「あいつ、ユウリのために予定あけてたんじゃねぇの?」
「幼馴染だし、そんなもんじゃないですか?」
キバナさんはムッとしたが、すぐにヘラヘラとした態度に戻った。
「まあ、好きな女が無理やり連れて行かれそうになってたら普通もっと止めるよな。俺なら手首切り落としてでも止めるぜ」
「あの、さっきからなんなんですか?」
私が軽く釘を刺すと、キバナさんはニヤニヤ笑いながらソファに座ってポンポンと隣を叩いた。
どうやら隣に座って欲しいみたいだ。
私は警戒しながらソファの隅に腰を下ろした。
「アイツの部屋にも行くのか?」
「え?まあ、たまには…」
「……あのなあ…。」
キバナさんは恐らく私たちの関係を勘違いしているのだろう。
確かに、年頃の男女が2人で遊んで、身体がたまに当たるくらい距離が近いのに付き合っていないというのもおかしな話だ。
しかし、ホップは私が男だったとしてもまったく同じ対応をすると思う。
彼はそういう男だ。
「ホップに恋愛感情はないですよ」
「じゃあユウリは?」
「私?うーん…………ない……かな」
しばらく考えてみたが、特に好きな人は居なかった。
キバナさんはあからさまにガッカリした表情を見せた。
「…なあ、キバナさまは?」
「キバナさん?かっこいいとは思うけど…」
視界の横でキバナさんがニコニコしているのが見えた。
気のせいか少しずつ近寄られている気がする。
「恋愛感情ないのにオレさまの部屋に来て、オレさまの隣に座っちゃったんだ?」
「それってどういう…」
すべて訪ね終わる前に、キバナさんが覆いかぶさってきた。
助けを呼ぼうかと思ったが、人相手にポケモンは出せないしここではホップも来れないだろう。
「こういうことだってあると思ってないと…ダメだぜ?」
彼は私の足の間に自分の足を置いて、両肩を掴み、耳元でウィスパーボイスを出した。ゾクゾクと全身が震えた。
涙を堪えながらキバナさんの胴を押したが、彼はビクともしなかった。
「続きがしたい?」
「嫌です…
はじめては…大切な人としたいです」
キバナさんはそれを聞いて体を離してくれた。
しかし、依然として空気は重たいままだった。
「大切な人ねぇ…」
静かな部屋にキバナさんの声が放り出された。
「他にかっこいいと思う人は?」
キバナさん以外にはいない、と答えなければならない雰囲気だったが、それだと乱暴な方法をとった彼を喜ばせてしまうためここは正直に言おうとした。
「ネズさん…とか?」
キバナさんは予想通り表情を曇らせた。
「なんなんですか、さっきから」
「分かんねーかなぁ、俺、ユウリのことが好きなんだ」
「好きな人を、押し倒したりするんですか?」
「なんだよ、責めるなよ」
キバナさんは立ち上がると、別の部屋に入ってしまった。
おそらく寝室だ。
私は告白されたことに驚きながらも、寝室まで追いかけることは出来ず部屋をあとにした。
「おい、ユウリ!大丈夫だったか?!」
ジムの勝手口から外に出るとホップが待っていた。
追いかけてきたのか、人に聞いて待っていたのかしていたのだろう。
携帯を見るとホップからのメールと着信が何件も入っていた。
今日は休日だから邪魔を入れたくないと思い、マナーモードにしたのが仇となった。
「…大丈夫だったけど」
「よかったぁ〜〜………」
ホップは私を抱きしめて、背中をポンポンと叩いた。
距離感に驚いたが、いやらしさは全く感じられないハグだ。
キバナさんが後ろに居ないか気になったが、さすがに追いかけてきていないみたいだ。
「で、なんだったんだ?」
「え?……SNSの投稿の仕方で注意されてね」
「そっか!たしかにユウリはチャンピオンだから気を付けないといけないよな!」
チャンピオンになったあの日から初対面の人に声をかけられることが多くなった。
SNSを見て追いかけて来る人も確かにいるかもしれない。
「でもなんでこんな遠くまできたんだ?その場で注意すればいいのにな!」
ホップもあの時の私と同じことを考えていた。 やはり普通はそう思うだろう。
私は早くここから離れたいと思い、街の方へ歩くことにした。
「ホップって好きな子いる?」
道の途中でなんとなく聞いてみた。
ホップはうーん…と声を発してしばらく黙っていた。
「今はそういうの考えてないかな、たぶん」
「そっか!」
やっぱりホップはこうでなくっちゃ、と私は笑った。
ホップも笑い返してくれると思ったが、どこか浮かない顔だった。
「本当に、キバナさんになにかされてないか?こういうこと聞くの、珍しいよな」
「いや、あのね…。」
告白されたことを伝えるか悩んでいる時だった。
「オレさまがユウリをどこへ連れていこうが勝手だろ?」
「キバナさん!」
キバナさんがやってきた。
先程の落ち込みはすっかり抜けている。
「普通あそこで帰るか?
追いかける場面だろうが」
気がつけばキバナさんはまた私の隣に立っていた。
ホップが明らかに警戒している。
遠巻きに「キバナさんだ」「チャンピオンもいるぞ」という声が聞こえる。
街の中を歩いている時はすっかり当たり前になってきている。
「ユウリになにか用ですか?」
ホップはキバナさんを睨んだ。
彼の怒った顔は久しぶりに見た。
「ホップこそ、ユウリになにか用?」
チラッとキバナさんの方を見ると怒っているのがわかる。
「まあまあ、2人とも…」
「バニラは黙ってて!」
「そうだ、ここでハッキリさせておかねぇとな?」
(あれ?なんで2人とも怒ってるんだろう…)
急に面倒くさくなり2人を置いてさっさと帰りたくなった。訳の分からない喧嘩に巻き込まれるのだけは御免だ。
「私もう帰りたいんですけど」
「「ユウリが帰ってどうする!」」
2人の声が揃った。
私はそれを茶化そうとしたが、そういう雰囲気ではないため黙ることにした。
「ユウリになにかしましたか?」
「告白したけど?」
キバナさんは私のことを後ろから抱きしめた。
首の前で組んだ腕は筋肉質で想像するより硬かった。
小麦色の肌から香水のようないい香りがした。
「で?返事は?」
「さあ、別に俺は返事なんてどうでもいいぜ?」
「振られたんですね。
それなら邪魔しないで欲しいです。
今日は俺と遊ぶ約束です。」
ホップは友人として私を守ってくれているみたいだ。
キバナさんは小さく舌打ちをすると、私から手を離して、ホップと口論を続けた。
「もうポケモン勝負でいいんじゃないですか?」
私は面倒になってポケモン勝負を提案した。
キバナさんとホップは、よしそうしようとコートに走っていった。
私は、彼らのテンションについていけないため、帰ることにした。
今なら彼らに気付かれずに帰ることが出来る。
喧嘩の仲裁は疲れてしまう。
「またね、キバナさん、ホップ」
コートに向かってそう言うと、空飛ぶタクシーを呼んで家まで送ってもらった。
家に着いた頃にはホップとキバナさんからの鬼電が凄まじかったが、体調が悪いので帰ったとメールをして、さっさと寝ることにした。
また明日からチャンピオンの仕事が待っている。頑張ろう…。
あの日から3日は寝かせて貰えず、雑誌やテレビで引っ張りだこだった。初めの一日はノリと勢いで乗り切ったが、元があまり明るくない私は2日目からすでにバテはじめていた。
3日を過ぎたあとも色々な取材があったが、やっと1週間経ってチャンピオンになった実感が湧いてきたところだ。
正直、私はチャンピオンの仕事を舐めていた。しかし、ただ戦うだけではなくバトルをパフォーマンスとして魅せなければならないことや、とにかく愛想を振りまくこと、SNSで炎上しないように気をつけつつしっかり投稿すること…色々なことを気をつけなければならないチャンピオンはなかなかキツい仕事だった。
「ユウリ…なんか疲れてないか?」
ホップが心配そうにこちらを覗き込む。
ナックルシティのカフェで私たちはお茶を飲んでいた。
今日はホップも休みだと言うから、2人で街を散策している。
「チャンピオンって、意外とキツいんだよね…ダンデさん大変だったんだなぁ」
ホップは苦笑いをして、そうだなぁ、と相槌をうった。
「リザードンポーズみたいな、キャッチコピー?が欲しいんだけど、なかなか思いつかないし…」
「ユウリはチャンピオンになったらしたいこととか考えたことなかったのか?」
ホップは頬杖をついてココアを飲んでいる。恐らく彼はチャンピオンになった日を何度も夢見て、何度もシミュレーションしたんだろうと考えると、あまりこの話題は良くないんじゃないかと今更気づいた。
テーブルの下でホップのつま先が私のつま先にくっついた。
私は少し赤面したが、ホップはなにも気にしていない様子だった。
距離感が男女で変わらないところが実に彼らしい。
次は何を話そうかとぼーっと考えていたら、周りの客たちが少しざわついた。
私とホップが辺りを見回すと、入口の方にキバナさんが立っていた。
「なーにしてんの?」
私に話しかけられたみたいだった。
キョトンとしてホップの方を見ると、ホップも同じ顔をしていた。
「なにって、お茶飲んでますけど」
「じゃなくてさ」
そう言うと、キバナさんはじっとホップの方を見た。
ホップは未だにキョトン顔のままだ。
「ま、いいや。」
キバナさんは私の手を強引に掴んで振り返り、出口に向かって歩き出した。
思ったより強い力で引っ張られ、私はよろけた。
「え、ちょ、な…なに?」
「なにって、デートの続き」
キバナさんの声はどこか怒っているように聞こえて、恐怖を感じた。
手を捻って抵抗してみても、腕の力は一向に弱まらない。
「お、おい…、キバナさん。さすがにそれは」見るに見兼ねてホップが注意をした。
しかし、キバナさんは余計にいらだった様子で小さく「行くぞ」と言って手を引っ張った。
抵抗しても無駄だと悟った私は、ホップに「大丈夫だから、後で連絡する!」と伝えて店を後にした。
店を出ると手を離してくれたが、なんとなくついて行かないとまずい雰囲気なのでキバナさんの隣を歩いた。
お互いにファンの人達が話しかけてくると、こちらから手を振ったり、笑いかけたりしたが、二人の間では会話をせずただ歩いていた。
「………あの、なんなんですか?」
「………SNS」
キバナさんはぼそっと呟く様に言い捨てた。
「SNS?」
「あのさ、今どこにいるか分かるようにしたら危ないってわかんねーかな」
私は急いで自分のSNSを開いた。
ラテアートの写真をアップした投稿のコメントの上の方に、『ナックルシティのカフェですね!』『ホップさんと一緒にいるみたいですけどデートですか?』と書かれてありゾッとした。
急いで投稿を削除した。
「………………え、それだけ?」
キバナさんはなんとなく何かを言いたそうにしているが、目を合わせようともせずひたすらどこかに向かって歩き続けていた。
私はその態度に不安を感じながらとにかく着いていくことにした。
「………デートだったのか?」
ジムの裏の勝手口で立ち止まって、やっとこちらを見たと思えばキバナさんはそう言った。
「え?」
何を言っているか本気でわからず聞き返すと、また無言の時間が続いた。
なんだったんだろうと思っていると、キバナさんはドアを開けて入るように促した。
私はキバナさんの隣を歩いているうちに彼の自室に連れてこられた様だ。
小綺麗な部屋ではあるが、微妙な生活感が感じられる。
「デートだったのか?」
キバナさんはまた同じ質問をした。
質問の意図がわからず私は口ごもる。
「デート……ではないはず…ですけど」
「あいつ、ユウリのために予定あけてたんじゃねぇの?」
「幼馴染だし、そんなもんじゃないですか?」
キバナさんはムッとしたが、すぐにヘラヘラとした態度に戻った。
「まあ、好きな女が無理やり連れて行かれそうになってたら普通もっと止めるよな。俺なら手首切り落としてでも止めるぜ」
「あの、さっきからなんなんですか?」
私が軽く釘を刺すと、キバナさんはニヤニヤ笑いながらソファに座ってポンポンと隣を叩いた。
どうやら隣に座って欲しいみたいだ。
私は警戒しながらソファの隅に腰を下ろした。
「アイツの部屋にも行くのか?」
「え?まあ、たまには…」
「……あのなあ…。」
キバナさんは恐らく私たちの関係を勘違いしているのだろう。
確かに、年頃の男女が2人で遊んで、身体がたまに当たるくらい距離が近いのに付き合っていないというのもおかしな話だ。
しかし、ホップは私が男だったとしてもまったく同じ対応をすると思う。
彼はそういう男だ。
「ホップに恋愛感情はないですよ」
「じゃあユウリは?」
「私?うーん…………ない……かな」
しばらく考えてみたが、特に好きな人は居なかった。
キバナさんはあからさまにガッカリした表情を見せた。
「…なあ、キバナさまは?」
「キバナさん?かっこいいとは思うけど…」
視界の横でキバナさんがニコニコしているのが見えた。
気のせいか少しずつ近寄られている気がする。
「恋愛感情ないのにオレさまの部屋に来て、オレさまの隣に座っちゃったんだ?」
「それってどういう…」
すべて訪ね終わる前に、キバナさんが覆いかぶさってきた。
助けを呼ぼうかと思ったが、人相手にポケモンは出せないしここではホップも来れないだろう。
「こういうことだってあると思ってないと…ダメだぜ?」
彼は私の足の間に自分の足を置いて、両肩を掴み、耳元でウィスパーボイスを出した。ゾクゾクと全身が震えた。
涙を堪えながらキバナさんの胴を押したが、彼はビクともしなかった。
「続きがしたい?」
「嫌です…
はじめては…大切な人としたいです」
キバナさんはそれを聞いて体を離してくれた。
しかし、依然として空気は重たいままだった。
「大切な人ねぇ…」
静かな部屋にキバナさんの声が放り出された。
「他にかっこいいと思う人は?」
キバナさん以外にはいない、と答えなければならない雰囲気だったが、それだと乱暴な方法をとった彼を喜ばせてしまうためここは正直に言おうとした。
「ネズさん…とか?」
キバナさんは予想通り表情を曇らせた。
「なんなんですか、さっきから」
「分かんねーかなぁ、俺、ユウリのことが好きなんだ」
「好きな人を、押し倒したりするんですか?」
「なんだよ、責めるなよ」
キバナさんは立ち上がると、別の部屋に入ってしまった。
おそらく寝室だ。
私は告白されたことに驚きながらも、寝室まで追いかけることは出来ず部屋をあとにした。
「おい、ユウリ!大丈夫だったか?!」
ジムの勝手口から外に出るとホップが待っていた。
追いかけてきたのか、人に聞いて待っていたのかしていたのだろう。
携帯を見るとホップからのメールと着信が何件も入っていた。
今日は休日だから邪魔を入れたくないと思い、マナーモードにしたのが仇となった。
「…大丈夫だったけど」
「よかったぁ〜〜………」
ホップは私を抱きしめて、背中をポンポンと叩いた。
距離感に驚いたが、いやらしさは全く感じられないハグだ。
キバナさんが後ろに居ないか気になったが、さすがに追いかけてきていないみたいだ。
「で、なんだったんだ?」
「え?……SNSの投稿の仕方で注意されてね」
「そっか!たしかにユウリはチャンピオンだから気を付けないといけないよな!」
チャンピオンになったあの日から初対面の人に声をかけられることが多くなった。
SNSを見て追いかけて来る人も確かにいるかもしれない。
「でもなんでこんな遠くまできたんだ?その場で注意すればいいのにな!」
ホップもあの時の私と同じことを考えていた。 やはり普通はそう思うだろう。
私は早くここから離れたいと思い、街の方へ歩くことにした。
「ホップって好きな子いる?」
道の途中でなんとなく聞いてみた。
ホップはうーん…と声を発してしばらく黙っていた。
「今はそういうの考えてないかな、たぶん」
「そっか!」
やっぱりホップはこうでなくっちゃ、と私は笑った。
ホップも笑い返してくれると思ったが、どこか浮かない顔だった。
「本当に、キバナさんになにかされてないか?こういうこと聞くの、珍しいよな」
「いや、あのね…。」
告白されたことを伝えるか悩んでいる時だった。
「オレさまがユウリをどこへ連れていこうが勝手だろ?」
「キバナさん!」
キバナさんがやってきた。
先程の落ち込みはすっかり抜けている。
「普通あそこで帰るか?
追いかける場面だろうが」
気がつけばキバナさんはまた私の隣に立っていた。
ホップが明らかに警戒している。
遠巻きに「キバナさんだ」「チャンピオンもいるぞ」という声が聞こえる。
街の中を歩いている時はすっかり当たり前になってきている。
「ユウリになにか用ですか?」
ホップはキバナさんを睨んだ。
彼の怒った顔は久しぶりに見た。
「ホップこそ、ユウリになにか用?」
チラッとキバナさんの方を見ると怒っているのがわかる。
「まあまあ、2人とも…」
「バニラは黙ってて!」
「そうだ、ここでハッキリさせておかねぇとな?」
(あれ?なんで2人とも怒ってるんだろう…)
急に面倒くさくなり2人を置いてさっさと帰りたくなった。訳の分からない喧嘩に巻き込まれるのだけは御免だ。
「私もう帰りたいんですけど」
「「ユウリが帰ってどうする!」」
2人の声が揃った。
私はそれを茶化そうとしたが、そういう雰囲気ではないため黙ることにした。
「ユウリになにかしましたか?」
「告白したけど?」
キバナさんは私のことを後ろから抱きしめた。
首の前で組んだ腕は筋肉質で想像するより硬かった。
小麦色の肌から香水のようないい香りがした。
「で?返事は?」
「さあ、別に俺は返事なんてどうでもいいぜ?」
「振られたんですね。
それなら邪魔しないで欲しいです。
今日は俺と遊ぶ約束です。」
ホップは友人として私を守ってくれているみたいだ。
キバナさんは小さく舌打ちをすると、私から手を離して、ホップと口論を続けた。
「もうポケモン勝負でいいんじゃないですか?」
私は面倒になってポケモン勝負を提案した。
キバナさんとホップは、よしそうしようとコートに走っていった。
私は、彼らのテンションについていけないため、帰ることにした。
今なら彼らに気付かれずに帰ることが出来る。
喧嘩の仲裁は疲れてしまう。
「またね、キバナさん、ホップ」
コートに向かってそう言うと、空飛ぶタクシーを呼んで家まで送ってもらった。
家に着いた頃にはホップとキバナさんからの鬼電が凄まじかったが、体調が悪いので帰ったとメールをして、さっさと寝ることにした。
また明日からチャンピオンの仕事が待っている。頑張ろう…。