千早と雪歩と貴音
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
プロデュースを初めてもう数ヶ月経つ。千早と雪歩はそこそこのアイドルになり、深夜のテレビ番組でレギュラーを取れるほどになった。そんなある日の冬の話だった。
「担当アイドルを増やして欲しい」
社長から珍しく呼び出されたと思えばそう告げられた。
もう1人のプロデューサーは今は5人のアイドルを担当しているから、タイミングとしてはそろそろかと思っていたが、実際誰にするかはよく考えていなかった。
カオルは、また1日時間を貰って3人目のlapis lazuliのメンバーを誰にするか考えることにした。
候補者は3人だ。
特に雪歩と仲のいい真か、2人と程よく仲がいい貴音、すぐに2人に追いついてくれそうな美希。
カオルはコーヒーを飲みながら頭を悩まなせていた。
「プロデューサー、演出のことで相談が…」
千早が横に立っていて、話しかけていたことに気が付いたカオルはコーヒーを器官につまらせてむせた。
「プ、プロデューサー?!」
「ごめん、千早…場所変えようか」
「lapis lazuliのことなので、萩原さんも呼んできます」
千早はティッシュで机に飛んだコーヒーを拭うと、雪歩を呼びに行った。
ーーーーーーーーーーーーー
「…………そうだね。そこの演出は千早の提案してくれたものの方が気持ちが伝わりやすいかも。次のテレビ出演の時に試してみようか」
千早は満足そうに練習用ノートに書き込みをした。彼女は、雪歩と組むようになってから歌以外のこと…演出やダンスについて興味を持ってくれるようになった。今回3人にしたことでさらにいい刺激を2人に与えられたらとカオルは思った。
「2人に話しておきたいことがあるんだけど…」
「3人目のlapis lazuliの話…ですか?さっき社長さんから話がありました…。」
雪歩は首を傾げた。カオルが頷くと、しばらく沈黙がながれた。
そんな中、突然扉が開いた。
打合せ室が使われていたため、ダイニングルームしか部屋がなく、仕方なくそこで椅子を出して話していた。だから誰かが入ってきてしまうのは仕方の無いことだったのだが、それでも10時という微妙な時間にだれかが来るのは珍しいことだった。
「失礼いたしました…。即席らぁめんのお湯を作ろうと入りましたが、まさかいらっしゃるとは。」
3人はポカンとしていたが、カオルはまっさきに口を開いた。3人の並びを見た瞬間、直感的に閃いたのだ。
「貴音、lapis lazuliに入ってみない?」
「「ええーーーーっ!!!!!!」」
千早と雪歩は、その言葉の意味がわからず呆然としていたが、2人同時に理解し、そして驚愕した。
「プロデューサー!そんな適当に決めないでください!」
千早は眉間にシワを寄せて怒っている。
「はて…私がlapis lazuliにですか?」
「いや、だって。ちょっと並んでみてよ」
カオルが言うままに、3人は並んだ。貴音のつややかな銀髪が、黒髪と茶髪に並んで輝いていた。カオルは3人の並びをくるくるといろいろ変えては、うん、うん、と1人で頷いていた。
「貴音が入ることで、lapis lazuliにミステリアスな感じがでてきたかも。すごくいいよ。」
「あ、あのぅ、それって社長さんの言うティンときたってやつですか?」
「そうとも言う!」
千早はため息をついた。雪歩は千早の様子を心配そうに見ていた。
貴音は、まだなんの事かよくわかっていない様子だ。
「とりあえず、貴音。これ、次の新曲の音源だけど来週までに歌えるようにしよう。」
カオルは急いで自分の机に戻ると、貴音に白いCDを渡した。白いCDにはDREAMと書かれていた。
「プロデューサーはもっと慎重な人だと思いましたが…」
千早は頭を抱えている。貴音を選んだことではなく、軽率にメンバーを決めてしまったことに怒っているらしい。
「プロデューサーはちゃんと考えてるんじゃないかな…」
雪歩は必死にフォローをするが、雪歩のフォローでは千早の怒りは収まっていなかった。ピリピリとした空気の中貴音は空気を読まずカップラーメンに入れるお湯を沸かしていた。
「四条さん、今よくカップラーメンなんか食べられるわね。」
千早はすごい剣幕で貴音に迫った。
「はて、お腹が空いたからですが…」
貴音がそう言うと千早は顔をしかめて、部屋から出ていってしまった。
雪歩はただあわあわして、プロデューサーの袖をギュッと掴んだ。
「ごめん、貴音。嫌な気持ちにさせちゃって。」
「いえ…ところで、千早を追いかけなくて良いのですか?」
「え?」
「私達は後から向かいます。さあ、向かうのです。」
貴音の強い語気に押されるまま、カオルは千早の後を走った。事務所を出ると、足音が上から聞こえた。千早は屋上に向かっているようだ。急いで階段を上がる。
「千早!」
千早は屋上で手すりにつかまって外を眺めていた。風が千早のサラサラしたストレートヘアをたなびかせている。
「私、これまで一生懸命やってきました。あずささんや、萩原さんにも、誰にも負けたくなくて、たくさん練習しました。
プロデューサーは、そんな私の後押しをしてくれる人だと思ってました。」
「千早…」
「そんな軽率に新しいメンバーを決めて、いいんでしょうか?私たちの活動って、そんな軽いものだったんですか?」
「あのね、千早…。まずは、軽率に相談もせずに決めちゃって、ごめん。私の中ではもう貴音が美希か、真にしようって決めてたの。並んでるの見たら、見た目的にも性格的にも、すごくいい組み合わせだなって思ったの。千早は貴音のこと、嫌い?」
「嫌いじゃない…です。四条さんは、マイペースですけど、歌もダンスも卒なくこなしてくれるし、絶対に約束したことを守る人だから、いつも信頼してるんです。」
カオルは、千早の隣に立った。屋上は、思ったより高い。地上では車と人がせわしなく動き続けていた。
2人でそんな風景を何となく眺めていた。どのくらい眺めていたかは分からないが、その間に二人の熱が少し冷めた気がした。
「…私、千早と成し遂げたい夢があるの。」
「…夢?」
「いつか、千早と私が出会ったあの駅前で、ライブをやりたいなって…
最後の曲は、青い鳥。最初に着てたあの衣装で、スタンドマイクで。
…千早はもっとちゃんとした設備のところで歌いたいかもしれないけど。」
カオルは千早の方を見た。千早はカオルが思っているよりずっとおだやかな表情でカオルの話を聞いていた。
「それ、まだ叶えてあげられないですね」
「そうだねぇ…そのライブをやる時は…」
トップアイドルになった時
お互いがそう言おうとした時、屋上の扉が開いて雪歩と貴音が出てきた。手にはレジャーシートとお茶をもっている。
「あのぅ…大丈夫でしたか?」
「萩原さん…四条さん…」
千早とカオルは雪歩の持っていたお茶を貰って、貴音に促されるままシートに腰掛けた。
「千早。私はlapis lazuliで、1番歌とダンスが上手なめんばぁになるつもりです。よろしくお願いいたします。」
カオルは、貴音の好戦的な発言にやや驚いた。だが、千早はそれを聞いてニヤリと笑った。
「あの時、入ってきたのが四条さんで良かったのかもしれないわね。」
「今日はみ、みんなで記念にお茶会ですねっ。はい、四条さん。」
雪歩は貴音に箸を差し出した。貴音は受け取ると、どこからか取り出したカップラーメンを開けてすすり始めた。
「ふふっ。四条さん、よっぽどお腹がすいてたのね」
千早はくすっと笑った。
カオルは、しばらく3人のやりとりを見ていたが、3人の雰囲気が戻ったようで安心した。
新メンバーは貴音で決まりだ。次の日社長に報告することにして、今日はこのお茶会を楽しむことにした。