千早
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人生は退屈だった。
カオルは、やることもなく家でテレビを見ていた。
仕事は辞めてしまった。働かなければならないのはわかっていたが、どうにも重い腰が上がらなかった。
「外にでも、出るか…」
仕事を辛くて辞めたが、自分は鬱では無いと思っている。鬱だったとしたら人生が終わってしまう気がして、いつまでも精神科に行くことは出来なかった。することも無いのに外に出るのは、自分の重い気持ちに対するささやかな抵抗だ。
外はほがらかな陽気に包まれている。
もう春だ。桜の柔らかい香りが鼻を通る。
往来を歩く人々は小学生くらいの子供ばかりだった。そういえばもう下校時間か。昼だと思っていたが、時計をきちんと見ていないと時間感覚がズレてしまう。
なんとなく駅前の通りまで足を伸ばすと、少し派手な服を着た若い女性が歌を歌っていた。路上パフォーマンスだろう。
カオルは、なんとなくその歌を聴くことにして若い女性が見えるベンチに座って少し遠くから彼女を見つめた。
(綺麗な歌だな…)
カオルは、女性の歌う歌に聞き惚れていた。その歌は悲しいバラードだった。駅前でその選曲はどうかと思ったが、彼女の雰囲気にはよく合っているようだった。
一通り歌い終わると、女性は一礼をした。
「聞いていただき、ありがとうございます。今の曲は蒼い鳥という歌でした。」
カオルは彼女の足元にCDが置かれているのに気がついた。
今どき歌だけの路上パフォーマンスなんて珍しく思い、少し近づいてもっといろんな歌を聴きたくなった。彼女の歌は引き込まれるものがあった。
女性は、何曲か歌を歌い、歌い終わる度に丁寧にお辞儀をして曲の説明をした。
拍手をしている人はカオル以外誰もおらず、それでも彼女は歌い続けた。
最後の曲を歌い終わると、カオルは女性に声をかけた。
「いい歌ですね。」
「ありがとうございます!」
女性のキリリとした顔がパッと明るくなった。
「CD、いくらですか?」
「はい!そのCDは…」
お代を払いCDをよく見た。
「……え?」
自作の割にはよくできたCDだなと思ったら、背に765プロダクションと書いてあった。
「765プロ?」
あまり覚えていないが、三浦あずさという765プロのアイドルがこの前深夜のバラエティを見ていた時に出てきていた。
「三浦あずさ…さんの」
「あっ、はい、そうです。あずささんは確かにうちの所属です。」
女性はどこか気まずそうに答えた。
「765プロって、アイドルだけじゃなくてあなたみたいなアーティストもいるんですね。」
カオルは純粋な笑顔で女性を見た。
しかし、女性の表情は暗くなるばかりだった。
「私も…アイドルなんですが」
女性はバツの悪そうな顔をした。カオルはやってしまった、と思った。
「ごめんなさい。アイドルにしてはあまりにも綺麗な歌だったから…」
「え?」
女性はきょとんとした顔をした。
「って、これじゃアイドル差別ですよね。失礼しました」
「いえ、そんなこと…。」
カオルはCDを見て、女性の顔を見た。女性は照れた顔で俯いていた。
「如月千早さんね、覚えました。いつも1人で歌っているんですか?」
アイドルにはいつもマネージャーがついているイメージだったが、彼女は1人で来ているようだった。小さな手提げ袋に詰まったCDと、スケッチブックに書かれた簡素な自己紹介、小さなアンプがそれを物語っていた。
「はい。いつも駅前で歌ってます。」
「そうかぁ、マネージャーさんとかいたらもっと楽なのにねぇ」
カオルがそういうと、千早はもじもじとしながら話した。
「あの、失礼ですがお仕事は…」
「ああ、今は休職中でね…如月さんは若いのに働いてて偉いねぇ」
カオルは正直に休職中だと言うことを話した。大人には休職も必要な期間だと考えているし、こんなに真面目に歌を歌う彼女が自分をバカにすることはないだろうと思っていた。
「あの、もし良かったら…良かったらですけど…」
カオルは、やることもなく家でテレビを見ていた。
仕事は辞めてしまった。働かなければならないのはわかっていたが、どうにも重い腰が上がらなかった。
「外にでも、出るか…」
仕事を辛くて辞めたが、自分は鬱では無いと思っている。鬱だったとしたら人生が終わってしまう気がして、いつまでも精神科に行くことは出来なかった。することも無いのに外に出るのは、自分の重い気持ちに対するささやかな抵抗だ。
外はほがらかな陽気に包まれている。
もう春だ。桜の柔らかい香りが鼻を通る。
往来を歩く人々は小学生くらいの子供ばかりだった。そういえばもう下校時間か。昼だと思っていたが、時計をきちんと見ていないと時間感覚がズレてしまう。
なんとなく駅前の通りまで足を伸ばすと、少し派手な服を着た若い女性が歌を歌っていた。路上パフォーマンスだろう。
カオルは、なんとなくその歌を聴くことにして若い女性が見えるベンチに座って少し遠くから彼女を見つめた。
(綺麗な歌だな…)
カオルは、女性の歌う歌に聞き惚れていた。その歌は悲しいバラードだった。駅前でその選曲はどうかと思ったが、彼女の雰囲気にはよく合っているようだった。
一通り歌い終わると、女性は一礼をした。
「聞いていただき、ありがとうございます。今の曲は蒼い鳥という歌でした。」
カオルは彼女の足元にCDが置かれているのに気がついた。
今どき歌だけの路上パフォーマンスなんて珍しく思い、少し近づいてもっといろんな歌を聴きたくなった。彼女の歌は引き込まれるものがあった。
女性は、何曲か歌を歌い、歌い終わる度に丁寧にお辞儀をして曲の説明をした。
拍手をしている人はカオル以外誰もおらず、それでも彼女は歌い続けた。
最後の曲を歌い終わると、カオルは女性に声をかけた。
「いい歌ですね。」
「ありがとうございます!」
女性のキリリとした顔がパッと明るくなった。
「CD、いくらですか?」
「はい!そのCDは…」
お代を払いCDをよく見た。
「……え?」
自作の割にはよくできたCDだなと思ったら、背に765プロダクションと書いてあった。
「765プロ?」
あまり覚えていないが、三浦あずさという765プロのアイドルがこの前深夜のバラエティを見ていた時に出てきていた。
「三浦あずさ…さんの」
「あっ、はい、そうです。あずささんは確かにうちの所属です。」
女性はどこか気まずそうに答えた。
「765プロって、アイドルだけじゃなくてあなたみたいなアーティストもいるんですね。」
カオルは純粋な笑顔で女性を見た。
しかし、女性の表情は暗くなるばかりだった。
「私も…アイドルなんですが」
女性はバツの悪そうな顔をした。カオルはやってしまった、と思った。
「ごめんなさい。アイドルにしてはあまりにも綺麗な歌だったから…」
「え?」
女性はきょとんとした顔をした。
「って、これじゃアイドル差別ですよね。失礼しました」
「いえ、そんなこと…。」
カオルはCDを見て、女性の顔を見た。女性は照れた顔で俯いていた。
「如月千早さんね、覚えました。いつも1人で歌っているんですか?」
アイドルにはいつもマネージャーがついているイメージだったが、彼女は1人で来ているようだった。小さな手提げ袋に詰まったCDと、スケッチブックに書かれた簡素な自己紹介、小さなアンプがそれを物語っていた。
「はい。いつも駅前で歌ってます。」
「そうかぁ、マネージャーさんとかいたらもっと楽なのにねぇ」
カオルがそういうと、千早はもじもじとしながら話した。
「あの、失礼ですがお仕事は…」
「ああ、今は休職中でね…如月さんは若いのに働いてて偉いねぇ」
カオルは正直に休職中だと言うことを話した。大人には休職も必要な期間だと考えているし、こんなに真面目に歌を歌う彼女が自分をバカにすることはないだろうと思っていた。
「あの、もし良かったら…良かったらですけど…」