福本作品
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※切甘。銀さんがクズです。NTR注意。
まだ、銀二が若い頃の話だ。
若いと言ってもだいたい35才くらいの時の話なのだが、それとなく出会い系を使ったときに、印象的な女がいたので暇つぶしに遊びに行く仲になった。今回はそういう話だ。
「銀二さん」
その女は、カオルと名乗っていた。偽名かそれとも本名か、そんなことは銀二はどうでもよかったのだが、カオルは若い上に可愛らしい見た目をしていた。それに、3歩後ろからついてくる古風な姿勢に銀二は惹かれた。
「カオル」
銀二がそう呼ぶと、カオルは白い頬を少し赤らめさせてはにかむ。銀二はその姿をみると嬉しそうに目を細めた。
ただ、銀二はこれが良くないことだと考えていた。
女の存在は時に邪魔になることもあるし、相手の素性を詳しく知らない状態ならなおさら危ない。
だからせめて、銀二は「愛してる」だとか「好きだ」とか、そういう台詞は言わなかった。本当はカオルとは時間の許す限りずっと一緒にいたいと願っていたが、どうしてもその後の責任を負うのが怖くて銀二が彼女にそういう言葉をかけることはなかった。
「なあ、いつもお前は俺のことを好きだと言うがよ。どうして俺なんだ?」
ある日、ディナーに行ったときに銀二が聞いた。
カオルは申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい。迷惑でしたか?」
この謙虚さが彼女の魅力なのだが、銀二はいつものように笑ったりはしなかった。今日は少しイライラしていた。
「だいたい、どうしてお前みたいな……奥手な女が出会い系を始めたんだ?」
銀二はカオルの質問に答えずに、カオルを睨み付けた。その眼光は鋭く、普通の男性ならつい謝ってしまうほどの恐ろしさがあった。しかし、カオルはひるむことなく、話を続けた。
「好きな人がいたんです。付き合うところまでは上手くいったんです。でも、お前みたいな女は嫌いだって…。それから慰めてくれる人もいなくて、寂しくて。だから始めました。」
カオルはそう話したあとに、泣きそうな声になって銀二に頭を下げた。
「ごめんなさい。でも私、銀二さんのこと本当に…。」
カオルがなにかを言い淀んでいると、銀二はカオルの華奢な手をそっと両手で包んだ。
彼女の手はしっとりと汗ばんでいて、すっかり冷えてしまっていた。
「俺もごめんな。こんなこと聞くべきじゃなかった。」
銀二はその場しのぎの懐柔に入って、カオルをなだめた。
しばらくすると、カオルはまた機嫌よく話してくれるようになった。
銀二はそれを見てホッとしたが、思い返すと自分がカオルに振り回されていることに気が付いた。それから、なんとなくカオルのことを避けるようになってしまった。
それから約2年後、彼女から突然メールがきた。
「ごめんなさい。田舎の母が急に倒れたんです。北海道に帰ることにします。」
彼女が埼玉に一人暮らしで住んでいて、どこかの中小企業で事務として働いている話は、出会ってすぐの頃に本人から聞いていた。しかし北海道が出身という話は聞いたことがなかった。ネットで会うとそんな大事な話も知らないことがあるのか、とか、会いに行こうにも北海道じゃ移動が大変かな、とか、そんなことを考えたあと、銀二は「こっちに戻ってきたらご飯でも食べよう。身体に気を付けて。」と、当たり障りのない返信をした。
カオルは本気で銀二が好きだったからか、北海道に荷物を持っていったあとも別れ話はしたがらなかった。
銀二が東京で他の女と遊んでいるときにも、カオルは北海道から銀二にメールを出し続けていた。
かくいう銀二は、気まぐれにメールは返すが来たものを全部返すようなことはしなかった。
そうして返信の数を減らすうちに銀二は携帯を変えたりだとかメールアドレスを変えたりだとかして、いつのまにか連絡が取れなくなってしまっていた。
電話番号も交換していなかったので、その後二人は全く連絡をとっていなかったことになる。
それから2年ほど経ったときのことだ。銀二は40才になって、仕事もそれなりに上手くいきはじめたころだ。
銀二はまだカオルのことを忘れてはいなかったが、幸せにやってたらいいくらいにしか考えていなかった。
何となく時間が余って銀二は昔からよく通っているバーへ足を伸ばすと、
カウンターでカオルが一人酒を飲んでいた。
銀二は他人の空似かと思い、なかなか声をかけられなかったが、希望を捨てられず2つ隣の席に座っていつものウイスキーを頼んだ。
「銀二さん?」
銀二のことを銀さんと呼ぶ人間は大勢いるのだが、銀二さんと呼ぶ人間はそうそういない。
銀二はカオルと確信した。
「カオルか」
「一緒に呑みませんか」
カオルのしゃべり方には、5年前のような過剰な謙虚さは一切感じられなかった。酒が彼女を変えているだけかもしれない。しかし、持ち物一つとっても当時のカオルが身に付けるようなものは無かった。彼女の持っているバッグは有名ブランドものだし、服も以前着ていたような安っぽい素材のものでは無くなっていた。
銀二が隣に座ると、カオルは一人でに話し出した。
「私ね、二年前から銀二さんのこと探してたんですよ。東京に一人暮らしして働きながら、休日は銀二さんが前に連れていってくれた場所へ行ってひたすら銀二さんを探してました。」
その言葉を聞いて、銀二は少しゾッとした。ここまで重い女だとは考えてもみなかった。この店で再会したのは偶然ではなく、ずっと待ち伏せしていたから出会ったのだと静かに悟った。
「…………でも、今わたし、付き合ってる人がいるんです。」
カオルはカクテルを回しながら遠くを見た。
「なら、どうして俺を探したんだ」
銀二は素直に思ったことをそのまま口に出した。
「……それは……………外で話しましょう……」
カオルは小さなブランドバッグから万札を出した。それをバーテンダーに渡すと、カオルは銀二の返事を待たずに外へ出ていった。
銀二もつられて外へ出ると、カオルは店の前に停まったタクシーの中から手招きをした。
「……で、このあと俺はどこへ拉致されるんかね」
銀二が聞いても、タクシーの運転手やカオルはなにも答えず、タクシーは安っぽいラブホテルが集まる場所で二人をおろして大通りへ消えていった。
その中でもわりと綺麗な建物にカオルは入ろうとした。しかし銀二はそれを許さなかった。
「あんた、彼氏がいるんだろう。」
銀二はカオルを諭すように優しく語りかけた。カオルのあまりの変わりように驚いていたのもあるが、カオルの表情はどこか思い詰めているようにも見えて、優しく語りかける以外の選択肢はないように思えた。
「銀二さんのこと、信じてました。」
彼女はきっと、銀二がずっと自分に一途であることを勝手に信じていたのだろう。そう信じて、北海道から何回もメールを送ったり、連絡が取れなくなったあともわざわざ東京で一人暮らしをして銀二を見つけ出したのだろう。そして、その経緯で過去の自分と同じようにラブホテルに入っていく女と銀二の姿も目撃してしまったのだろう。
その一言で、銀二は全てを理解し、高いところから突き落とされたようなショックを感じた。
ましてや突き落としたのはあの気弱だったカオルだなんて、5年前の自分に話しても信じないだろう。
「ああ、そうさ。俺はずるい男さ」
銀二は今の自分ができることはこれしかないと考えた。カオルはぽかんとした顔をしたが少しの間をおいたあとふふっと笑い、銀二と手を繋いだ。
2人は、目の前のバリ風の装飾がされたホテルに入っていった。
銀二が目を覚ますと、やはりそこはホテルだった。
そして隣には猫のようにカオルが丸まって寝ていた。寝顔だけは5年前と同じだ。
銀二はぼやける記憶をなんとか整理しながら、ホテルのフロントに金を払い、ホテルを後にした。
まだ、銀二が若い頃の話だ。
若いと言ってもだいたい35才くらいの時の話なのだが、それとなく出会い系を使ったときに、印象的な女がいたので暇つぶしに遊びに行く仲になった。今回はそういう話だ。
「銀二さん」
その女は、カオルと名乗っていた。偽名かそれとも本名か、そんなことは銀二はどうでもよかったのだが、カオルは若い上に可愛らしい見た目をしていた。それに、3歩後ろからついてくる古風な姿勢に銀二は惹かれた。
「カオル」
銀二がそう呼ぶと、カオルは白い頬を少し赤らめさせてはにかむ。銀二はその姿をみると嬉しそうに目を細めた。
ただ、銀二はこれが良くないことだと考えていた。
女の存在は時に邪魔になることもあるし、相手の素性を詳しく知らない状態ならなおさら危ない。
だからせめて、銀二は「愛してる」だとか「好きだ」とか、そういう台詞は言わなかった。本当はカオルとは時間の許す限りずっと一緒にいたいと願っていたが、どうしてもその後の責任を負うのが怖くて銀二が彼女にそういう言葉をかけることはなかった。
「なあ、いつもお前は俺のことを好きだと言うがよ。どうして俺なんだ?」
ある日、ディナーに行ったときに銀二が聞いた。
カオルは申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい。迷惑でしたか?」
この謙虚さが彼女の魅力なのだが、銀二はいつものように笑ったりはしなかった。今日は少しイライラしていた。
「だいたい、どうしてお前みたいな……奥手な女が出会い系を始めたんだ?」
銀二はカオルの質問に答えずに、カオルを睨み付けた。その眼光は鋭く、普通の男性ならつい謝ってしまうほどの恐ろしさがあった。しかし、カオルはひるむことなく、話を続けた。
「好きな人がいたんです。付き合うところまでは上手くいったんです。でも、お前みたいな女は嫌いだって…。それから慰めてくれる人もいなくて、寂しくて。だから始めました。」
カオルはそう話したあとに、泣きそうな声になって銀二に頭を下げた。
「ごめんなさい。でも私、銀二さんのこと本当に…。」
カオルがなにかを言い淀んでいると、銀二はカオルの華奢な手をそっと両手で包んだ。
彼女の手はしっとりと汗ばんでいて、すっかり冷えてしまっていた。
「俺もごめんな。こんなこと聞くべきじゃなかった。」
銀二はその場しのぎの懐柔に入って、カオルをなだめた。
しばらくすると、カオルはまた機嫌よく話してくれるようになった。
銀二はそれを見てホッとしたが、思い返すと自分がカオルに振り回されていることに気が付いた。それから、なんとなくカオルのことを避けるようになってしまった。
それから約2年後、彼女から突然メールがきた。
「ごめんなさい。田舎の母が急に倒れたんです。北海道に帰ることにします。」
彼女が埼玉に一人暮らしで住んでいて、どこかの中小企業で事務として働いている話は、出会ってすぐの頃に本人から聞いていた。しかし北海道が出身という話は聞いたことがなかった。ネットで会うとそんな大事な話も知らないことがあるのか、とか、会いに行こうにも北海道じゃ移動が大変かな、とか、そんなことを考えたあと、銀二は「こっちに戻ってきたらご飯でも食べよう。身体に気を付けて。」と、当たり障りのない返信をした。
カオルは本気で銀二が好きだったからか、北海道に荷物を持っていったあとも別れ話はしたがらなかった。
銀二が東京で他の女と遊んでいるときにも、カオルは北海道から銀二にメールを出し続けていた。
かくいう銀二は、気まぐれにメールは返すが来たものを全部返すようなことはしなかった。
そうして返信の数を減らすうちに銀二は携帯を変えたりだとかメールアドレスを変えたりだとかして、いつのまにか連絡が取れなくなってしまっていた。
電話番号も交換していなかったので、その後二人は全く連絡をとっていなかったことになる。
それから2年ほど経ったときのことだ。銀二は40才になって、仕事もそれなりに上手くいきはじめたころだ。
銀二はまだカオルのことを忘れてはいなかったが、幸せにやってたらいいくらいにしか考えていなかった。
何となく時間が余って銀二は昔からよく通っているバーへ足を伸ばすと、
カウンターでカオルが一人酒を飲んでいた。
銀二は他人の空似かと思い、なかなか声をかけられなかったが、希望を捨てられず2つ隣の席に座っていつものウイスキーを頼んだ。
「銀二さん?」
銀二のことを銀さんと呼ぶ人間は大勢いるのだが、銀二さんと呼ぶ人間はそうそういない。
銀二はカオルと確信した。
「カオルか」
「一緒に呑みませんか」
カオルのしゃべり方には、5年前のような過剰な謙虚さは一切感じられなかった。酒が彼女を変えているだけかもしれない。しかし、持ち物一つとっても当時のカオルが身に付けるようなものは無かった。彼女の持っているバッグは有名ブランドものだし、服も以前着ていたような安っぽい素材のものでは無くなっていた。
銀二が隣に座ると、カオルは一人でに話し出した。
「私ね、二年前から銀二さんのこと探してたんですよ。東京に一人暮らしして働きながら、休日は銀二さんが前に連れていってくれた場所へ行ってひたすら銀二さんを探してました。」
その言葉を聞いて、銀二は少しゾッとした。ここまで重い女だとは考えてもみなかった。この店で再会したのは偶然ではなく、ずっと待ち伏せしていたから出会ったのだと静かに悟った。
「…………でも、今わたし、付き合ってる人がいるんです。」
カオルはカクテルを回しながら遠くを見た。
「なら、どうして俺を探したんだ」
銀二は素直に思ったことをそのまま口に出した。
「……それは……………外で話しましょう……」
カオルは小さなブランドバッグから万札を出した。それをバーテンダーに渡すと、カオルは銀二の返事を待たずに外へ出ていった。
銀二もつられて外へ出ると、カオルは店の前に停まったタクシーの中から手招きをした。
「……で、このあと俺はどこへ拉致されるんかね」
銀二が聞いても、タクシーの運転手やカオルはなにも答えず、タクシーは安っぽいラブホテルが集まる場所で二人をおろして大通りへ消えていった。
その中でもわりと綺麗な建物にカオルは入ろうとした。しかし銀二はそれを許さなかった。
「あんた、彼氏がいるんだろう。」
銀二はカオルを諭すように優しく語りかけた。カオルのあまりの変わりように驚いていたのもあるが、カオルの表情はどこか思い詰めているようにも見えて、優しく語りかける以外の選択肢はないように思えた。
「銀二さんのこと、信じてました。」
彼女はきっと、銀二がずっと自分に一途であることを勝手に信じていたのだろう。そう信じて、北海道から何回もメールを送ったり、連絡が取れなくなったあともわざわざ東京で一人暮らしをして銀二を見つけ出したのだろう。そして、その経緯で過去の自分と同じようにラブホテルに入っていく女と銀二の姿も目撃してしまったのだろう。
その一言で、銀二は全てを理解し、高いところから突き落とされたようなショックを感じた。
ましてや突き落としたのはあの気弱だったカオルだなんて、5年前の自分に話しても信じないだろう。
「ああ、そうさ。俺はずるい男さ」
銀二は今の自分ができることはこれしかないと考えた。カオルはぽかんとした顔をしたが少しの間をおいたあとふふっと笑い、銀二と手を繋いだ。
2人は、目の前のバリ風の装飾がされたホテルに入っていった。
銀二が目を覚ますと、やはりそこはホテルだった。
そして隣には猫のようにカオルが丸まって寝ていた。寝顔だけは5年前と同じだ。
銀二はぼやける記憶をなんとか整理しながら、ホテルのフロントに金を払い、ホテルを後にした。