それは本当に突然だった。

フォードがカオルと仲がいいのは前から知っていたが、恐れていたこの日はついにやってきた。

「カオルに告白した？」
「ああ。」
フォードは顔を赤らめて、咳払いをした。

「そうか…。結果はどうだったの？」
俺は、つい先週彼女にアタックして、振られていた。彼女が毎日仕事終わりに淹れに来てくれたカフェモカは、ただの友達としての優しさだったのだとわかった。
フォードにもコーヒーを差し入れしていたと聞いたが、俺へのカフェモカが友情なら、彼へのコーヒーも友情なのだろう。
そう信じたかった。

「ああ、彼女は俺の気持ちを受け入れてくれたよ…。」
フォードの言葉に、俺は背筋が冷たくなった。
「つまり…付き合ったってことかい？」
そんなこと聞きたくないのに、言葉だけが思いより先に出てしまう。汗が止まらない。心なしか動悸が起きている気もする。

「ああ、そうだ。」
なぜフォードが…。たしかに、俺は彼に負けている所はたくさんあった。
ただ、彼から聞いたカオルとのエピソードを聞く限りでは、きっと俺の方が上手くアプローチできていたと思う。
それなのになぜフォードを選んだのだろう。
俺の方が、カオルを愛しているはずなのに。
ついに言葉もうまく出なくなった。首を汗がつたう。
目の前のフォードは彼女に貰ったコーヒーを嬉しそうに飲んで、カオルのことを延々と話し続けている。

「最近のカオルはオシャレな服を着るようになっているな」
俺は毎回、彼女の服を褒めていたけど、フォードも褒めていたんだろうか。彼が女性の服を褒めるところなんて想像がつかない。

「付き合ってから呼び名を変えたいと思っていたのだが、カオルに断られてしまった」
俺だって、あの告白が成功したら呼び名を変えて2人だけの特別感を味わいたかった。
だから、告白する前に色んな呼び名を考えていたくらいだった。
あんなに緊張して、でもワクワクした時間はそうなかっただろう。

「はは、本当に幸せそうだね。カオルのこと、幸せにしてくれよ。」
俺は乾いた笑顔でそう言うと、席を立ってフォードの医院を後にした。

橋の上から、カオルが動物屋と話しているのが見えた。
「…また服変えたんだな。」
だれにも聞こえないようにぼそりと呟いた。
今日の服は初めて見るが、カオルによく似合っている。
あの服をフォードはどう思うんだろう。
不器用に褒めるんだろうか。それを聞いて彼女は頬を染めたりするんだろうか。
ネガティブなことばかりが浮かんでくる。

振られた時も仕事を休んで一日寝込んでいたが、正直今日も寝込んでいたい気分だ。
しかし、カオルに頼まれた郵便物があるから、休むわけにはいかない。カオルに心配をかけたくないし。

俺は無理やりカオルから目を逸らして、郵便屋に戻って行った。