アイ・オープナー
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彼女を見つけた瞬間、視界が赤く染まった。胸の中に収める前に見えた、赤く腫れた頬。こいつらの誰がやったのだと思うと、腹の底からどす黒いものが湧き上がる。瞬殺なんて生ぬるい。殺してほしいと懇願するまで、いたぶり尽くしてやりたい。それくらいの殺意が確かに湧いた。
けど、できない。目の前の彼女の前でそんな俺を見せるわけにはいかない。俺はただ、強く抱きしめることしかできなかった。守るように、包むように、遅れたことを詫びながら_______
『私は……あなたが好き』
一瞬、思考が止まる。聞き間違いかと思った。戦闘の余韻で都合のいい幻聴でも聞いたのかと。けれど、顔を上げた彼女の目はとてもまっすぐだった。次の瞬間、唇に柔らかな感触。温かくて震えていて、もう脳が追いつかない。
今、俺は怒りで頭が沸騰していたはずなのに、その全部が一瞬で吹き飛んだ。代わりに胸を満たしたのは、信じられないほどの熱だった。やっと。やっと、捕まえた。そんな感情が喉の奥まで込み上げる。
洞窟の奥で、崩れた岩がぱらりと落ちる音だけが響く。まだ整理がつかない。抱きしめた腕の中に彼女はいて、告白されキスまでされた。いや、待て、落ち着け、俺。
「ねぇ……あのさ。頬をつねってくれないかな」
自分でも何を言っているのか分からない。けれど、夢かもしれないという疑念が消えない。
『は?』
心底、意味が分からないという顔。さっきまで泣面だったのに、急に現実に引き戻されたみたいな目をする。けど、俺は本当に現実か確認したい。彼女は眉間に皺を寄せたまま近づいてくる。
『これで満足』
そう言うや否や、両頬を力の限り引っ張られた。
「いたっ……いたたたた……!」
容赦がない。皮が伸びる。普通に痛い。
「もう少し加減するでしょう、普通は……」
頬を押さえながら涙目で抗議する。じんじんするけれど、夢じゃない、とはっきりわかる。ちゃんと痛い。
『頼む相手が悪かったのよ』
ふてくされたように言うその顔がやけに愛おしい。頬は痛いのに口元が緩む。さっきまで胸を満たしていた怒りも焦燥も、全部どこかへ消えている。
「夢じゃ……ないのか。あのさ、抱きしめてもいい?」
『……今、抱きしめてるじゃない』
もっともだ。彼女は俺の上に座らされている形で腕の中にいる。客観的に見れば十分すぎるほど抱きしめている。でも、違う。今したいのは確かめるための抱擁だ。
「そうなんだけどさ……ごめん、抱きしめるね」
返事は待たなかった。逃げられるとは思っていないけど、今は一秒も無駄にしたくなかった。腕に力を込める。ただ彼女を感じるために。一瞬、彼女の体が強張った。驚いたんだろう。でもすぐに、ふっと力が抜けた。胸の中にいて、ちゃんと生きている。細くて、柔らかくて、温かい。壊れそうなくせに芯は強いこの人を、優しく。それでも、もう二度と離さないと誓うみたいに強く抱きしめた。
「もう一つお願いがあるんだけど……もう一度キスしていい?」
思いが通じた。それだけで十分だったはずなのに、足りない。触れた瞬間から次が欲しくなる。こんなに欲深かったか、俺は。本気になった相手だと一つ一つが大切で満たされる。
彼女は答えなかったけど逃げなかった。耳は赤く、頬もまだ熱を帯びている。視線を逸らしたまま、ぎゅっと眉間に皺を寄せ、葛藤している顔。理性と感情がせめぎ合っているのが分かる。それでも離れない。それが彼女なりの答えなんだと思った。
俺はゆっくりと口布を下ろす。冷たい空気が肌に触れる。彼女の顎に指を添え、そっと上を向かせる。強制じゃないけど逃がす気もない。視線は下へ落ちたまま睫毛が震えている。最高に、そそられる。
駄目だな、好きな女がこんな顔をしてる。我慢なんてできるわけない。今度はゆっくりと。確かめるみたいに距離を詰めた。
最初は触れるだけのキスだった。確かめるみたいに、そっと。彼女の唇は少し冷えていて、でも触れた瞬間に熱を帯びる。離れかけてもう一度。今度は、ほんの少しだけ深く。やわらかな感触を唇で挟むように。ハムッ、と小さな音が二人の間に落ちる。彼女の肩がびくりと揺れたけれど、抵抗はない。だから、ゆっくりと隙間を探す。
『…んっ』
逃げるようにわずかに頭が引いたその瞬間、後頭部に手を回す。優しく、でも確実に逃げ道を塞ぐ。触れたところから、じわじわと侵食していくみたいに彼女の呼吸が乱れ始める。胸元が上下するたび、吐息が俺の唇にかかる。
唇の温度が混ざり、互いの呼吸が絡まる。触れているのは口元だけなのに、体の芯が熱くなる。彼女の指がいつの間にか俺の服を掴んでいた。きっと無意識だろう。離れないようにするみたいに深くなる。溶けるみたいに、彼女の吐息が次第に荒くなる。その変化を全部感じ取れる距離。
やばい。止まれ。いや、止まらない。
