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「 名前、逃げんなよ」
声は低く、抑えめに。名前は分かりやすく大きなため息をついた。一瞬だけ顔を上げて、俺を見る……ことはせず、そのまま視線を逸らす。
『今、普段呼ばない名前で呼ばないで…』
「ふん、勝負どころだろ」
『なにそれ…お酒追加で』
話を強引に切り、何事もなかったみたいに手を挙げた。店の奥に声を飛ばすその声は平静を装っているけど、グラスを掴む指に力が入りすぎているのが分かった。運ばれてきた酒を 名前は勢いよくあおったその横顔は、どこか覚悟を決めきれない奴の顔だった。
「飲んで紛らわせるのかよ」
『…ちなみに、いつから』
不意に飛んできた問いに、俺は一瞬だけ言葉を探した。酔ってるくせに、こういうところは気になるのか。
「そうだなー.。お前が俺と一緒に上忍になったころだな」
言い切った、その瞬間。
『ぶっ——』
名前は口に運んでいた酒を盛大に吹いた。反射的に身を引く。屋台裏でよかったな、これ。
『コホッ‼︎ なっ……え……は?』
咳き込みながら、目を見開いて俺を見る。それはもう、遠慮も計算もない素の反応で、正直ちょっと笑った。
「……お前、鈍すぎるんだよ」
肩をすくめて言うと、信じられないものを見る目のまま固まっていた。
『……冗談って、言って欲しかったんだけど』
勢いはなくて、どこか困ったみたいな声。
「こんな場面で言うか、ばーか」
『いや、だって……は? その頃って……』
言葉が追いついてない。頭の中で年表でも引っ張り出してるのか、眉間にしわを寄せて黙り込む。そう、その頃だ。少ししてから、カカシさんと付き合い始めた時期。そんなに多くはなかったが、何かあるたびに『相談』と称して俺を呼び出していた時期。
『はぁー……過去の無責任な行動に、謝っとくわ』
彼女は天を仰ぐみたいに背もたれに体を預けて、長く息を吐いた。
「別にいいよ。気にすんな。言わなかったのは、俺だ」
あの頃はタイミングも立場も、全部が中途半端だった。言わないことを選んだのは俺で、後悔も含めてそれは俺の責任。今更ぶつける気はない。
『……真面目に、考えとく』
「おう。頼むぜ」
『ちなみに期限はあったりするの』
来た、もう通常運転だ。隣を見ると、いつも通りの表情に戻り、何事もなかったみたいに酒を飲んでいる。グラスを持つ手も、もう震えていない。
「ハッ、もう通常通りかよ。本当にクールなやつだな。そうだな、早ければ早いほど嬉しいかな」
『つまり、ないってことね』
「そーだな」
俺もそれ以上、踏み込まなかった。そこでこの話は終わり。今夜はここまで。答えは急がないけど、次に酒を飲むときは、もう少し違う顔をしてるかもしれないな。不思議なもので、あんな話をした直後だというのに、その後の空気は驚くほど軽かった。酒の力か、それとも相手が名前だからか。気まずさなんて、これっぽっちも残らない。
中忍試験の話、懐かしい同期の噂話。そして、ぽつぽつと語られる空白の十年。笑いながら、時々真面目になって、気づけばグラスは何度も空になっている。ああ、変わってない。昔と違うのはひとつだけ。今のカカシさんは過剰なくらい分かりやすい。怪我ひとつで顔色を変えて、少しでも無茶をすれば視線を離さない。まるで壊れ物を扱うみたいな目をする。
まあ、気持ちは分かる。死んだことにされていた好きだった女が、もう一度目の前に現れたんだ。そりゃ、大事にもするだろう。
俺だって同じだ。あの時、名前がいなくなって嫌というほど忍の残酷さを思い知らされた。守れないものがある現実も、失ったあとの空白も。任務は続くのに、日常だけが妙に欠けたままになる感覚。何度も「仕方ない」と飲み込んだけれど、慣れることはなかった。だからこうしてまた隣に座って、他愛もない話をしながら酒を飲めている今が奇跡みたいに思える。
本来なら、もう二度と手に入らなかったはずの時間だ。二度と手放したくない。それはきっとカカシさんも同じだろう。あの人の目を見れば分かる。失ったと思ったものを、もう一度掴んだ男の目だ。けど、この奇跡を俺は誰にも譲るつもりはない。今度は、選ぶのを待つだけじゃない。欲しいものはちゃんと取りに行く。その覚悟くらい、とっくにできてる。
