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『ふー……お願いしたはいいけど、こうも出動要請が早いとは思わなかった』
地面に転がる顔のない遺体が三体。どれもまだ新しく、血の匂いが生々しく残っている。思わず大きく息を吐いた。
補助役という立場は、正直に言えば物足りなかった。じっと待機しているだけでは、体も感覚も鈍っていく気がしてならない。だから、内緒で火影のじーさんに暗部の任務を回してもらった。先輩には言っていないし、口止めもしてある。言えば、止められるのは分かりきっているから。それにどうせ、そんなに長く隠せることでもない。
まだ暗部としての出番は先だと思っていたけれど、ついさっきアンコさんから出動要請が入った。森の入り口付近には、すでに数人の暗部が集まっている。仮面の下の表情は分からないが、張り詰めた空気だけは、はっきりと伝わってきた。任務前特有の静かな緊張、その中で背後から聞き慣れた声がした。
「おや。 名前さんは、カカシ先輩の補助役じゃなかったですか」
……この声。
『テンゾウか………………誰』
振り向くと、仮面を少しずらしながら男がこちらを見ていた。確かに面影はある。声も、立ち姿も、記憶と重なる部分は多いけれど、決定的に違うものがあった。
「いやですね。僕ですよ、テンゾウです」
『嘘……。テンゾウは、そんな死んだ魚みたいな目してなかった』
思ったままを口にすると、彼は一瞬だけ目を瞬かせ、それから頬を引きつらせて苦笑した。
「相変わらず、言い方が酷いですね、 名前さん」
その仕草は昔と変わらない。困ったように笑う癖も、声の調子も。なのに、重なるはずの記憶の中のテンゾウと、今目の前に立っている彼はどこか決定的に噛み合わない。
「というか…いいんですか?暗部の仕事なんて」
『先輩には言ってないから。黙っててよ』
低く釘を刺すと、テンゾウはわずかに眉を上げ小さく肩をすくめた。その仕草に、昔と同じ軽さを感じてほんの一瞬だけ気が緩む。
「すぐバレますって。相変わらず、カカシ先輩の言うこと聞いてないんですね。また怒られますよ」
『別に……もう、彼の言うことを聞く立場でもないし。自分で考えて行動できるから。関係ないの』
はっきりと言い切る。胸の奥に残る迷いごと、過去ごと全部まとめて押し込めるように。テンゾウは一瞬だけ言葉を失ったように口を閉じ、それから呆れたように短く息を吐く。
「本当に……懲りない人ですね」
昔と同じ台詞なのに、どこか疲れが滲んで聞こえた。
「昔、僕がどれだけ相談相手になったと思ってるんですか。まあ、一方的にあなたが話してただけですけど」
『それは、付き合ってた時でしょ。もう、私と先輩の寄りが戻ることはないから。安心して』
冗談めかしたつもりだった。軽く流してこれ以上踏み込まれないようにするための言葉。けれど、その意図はすぐに否定される。
「何言ってるんですか。カカシ先輩の相手は、あなたしか務まりませんよ」
即座に首を振るテンゾウの声音は、妙に真剣だった。
『……そんなこと、ないよ』
視線を逸らし静かに否定する。あんな別れ方をしておいて、今さら務まるなんて言葉を向けられるのは、あまりにも残酷だった。彼の隣に立つべきなのは私じゃない。それに、もう一度あの頃みたいな気持ちになるのが怖かった。先日噛まれた頸が、じくりと疼いた気がして、そっと覆うように手を置いた。
『私が……もし、また彼と付き合う可能性があるとするなら……また死んで、もう一度奇跡が起きたら、かな』
軽い気持ちで口にした言葉だった。軽く笑って流れると思っていたのに、空気がわずかに、けれど確実に冷えたのが分かる。
「……それ、冗談でもカカシ先輩に言わないでくださいね」
『……何か、癇に障った?』
問い返すと、テンゾウは仮面を元の位置に戻した。表情は見えないけれど、声は低くはっきりとしている。
「まあ……そうですね。あの時のカカシ先輩を見てたら……そんなこと、言えませんよ」
『……まあ、知らないからね』
そう答えるしかなかった。私はそこにいなかった。知らないから、軽く言えた。知らないから、冗談みたいに笑えた。でも、テンゾウの低い声がその事実を静かに突きつけてくる。少しだけ視線を伏せ息を整える。
『……けど、テンゾウが言うなら、気をつけるよ』
「そうしてください」
それ以上、先輩の話題が続くことはなかった。テンゾウは視線を前へ戻し、私も同じように意識を切り替える。森の奥、中忍試験会場の中心へと。これから向かうのは、会場中央にそびえる塔。
アンコさんは、どうやら単独で先に進んでしまったらしい。……待っていればよかったのに。胸の奥で小さく舌打ちする。顔のない死体、こんな不気味な術を使う人物に、心当たりは一人しかいない。
大蛇丸。
もし、私の記憶を弄った張本人が彼なら。私を探しに来たのか、それともまた別の獲物がいるのか。目的は分からないけれど、本人が姿を現してくれるのなら話は早い。そう思いながら、私は無意識に歩調を速めた。
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「サスケと……」
そう告げた火影のじーさんは、一瞬だけこちらに視線を向けた。ほんの一瞬。けれど、確かに意図のある視線だった。〝分かっているな〟そう言われた気がして、背筋がわずかに強張る。
アンコさんは、大蛇丸と実際に交戦したらしい。室内には重苦しい沈黙が落ち、暗部と試験官たち全員が、火影の判断を待っていた。大蛇丸がこの里にいるなら、本来は試験を中止すべきだ。それほどの危険人物だということは、ここにいる誰もが理解している。だが。
「この試験は中止にはせん。ただし、大蛇丸の出方には、細心の注意を払え」
試験は続行。その決定に誰一人として反論はなかった。運がいいのか、悪いのか。私が補助についたカカシ先輩の第七班には、狙われているうちはサスケもいる。自分の身を守るだけでは足りず、彼にも常に神経を張り巡らせていなければならない。……本当に、気を引き締めないと。会議が一段落したところで、私はじーさんの背後に回り声を潜めて告げた。
『大蛇丸はアンコさんに、“不死の体を持つ子”の話をしたそうです。口止めはしましたが……結果的に、アンコさんには話すことになりました』
「……そうか」
じーさんは一瞬だけ目を伏せ、すぐに小さく頷いた。
「それは仕方あるまい。第二試験最終日まで、お前は暗部として警戒に当たれ」
一拍置き、念を押すように続ける。
「ただし、いかなる時も一人で動くな。必ず二人以上で行動しろ」
『……御意』
短く答えながら、胸の奥で静かに覚悟を固めた。第二試験最終日まで、私はテンゾウと二人で警戒にあたった。試験期間中、大蛇丸と直接相まみえることはなかったが、カカシ先輩はサスケ君の呪印を封印する際に接触したらしい。嵐は確実に近づいていた。もう逃げ場はないほど、すぐそこまで。そしてもう一つの大嵐も、同じくらいすぐそばまで迫っていた。
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