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『……隣、いい?』
声をかけると、爪楊枝を咥えながらゲンマはちらりとこちらを見て口元を緩める。
「主役様がこんな端っこでいいのかよ」
『主役なんて最初だけだよ。あれだけ祝ってもらえたら、もうお腹いっぱい』
腰を下ろしながら、肩をすくめる。正直な気持ちだった。これ以上、注目されるのは少ししんどい。
「相変わらずだなお前は……」
そう言いながら、ゲンマは自分のグラスを持ち上げる。
「ほい。お前が生きてたことに、乾杯」
先輩でもあるけど、幼馴染の距離感。ああ、こういう距離感が今はちょうどいい。近くに置かれていた、まだ誰も口をつけていないグラスを手に取る。軽く合わせると、カン、と小気味いい音が鳴った。そのまま口をつけ、すぐに眉をひそめる。
『……しまった。これ、焼酎だった』
喉の奥にじんとした熱が残る。誤魔化すように咳払いをすると、横から小さく笑う気配がした。
「なんだ、苦手なのか。まだまだお子様だな」
そう言うなり、ゲンマは私の返事も待たず手際よくグラスをすり替えた。私の手から焼酎を取り上げ、自分のビールと交換する。その動作があまりにも自然で昔と何も変わっていない。
『……相変わらず、スマートだね』
思わずそう口にすると、ゲンマは片眉を上げる。
「俺に惚れたか?」
冗談めかした声。間髪入れず首を振る。
『全然』
「相変わらずの即答だな」
苦笑しながらゲンマはグラスを口元に運ぶ。一口飲んで、ふっと視線を泳がせた。
「まあ……あの人と付き合っちまうと、敵わねーな」
何気ない一言。けれど、その視線ははっきりとある一点を指していた。つられるように、私もそちらを見る。カカシ先輩の隣にはさっきよりも女性が増えていた。楽しそうに交わされる会話。無意識に肩が触れる距離。昔から変わらない光景に、胸の奥で何かが小さく軋んだ。それに気づかれないよう、私はビールを一口飲んだ。
『……あの人、変わったね。…まあ、あの辺りは……全然だけど』
口ではそう言ったけれど、胸の奥で小さく何かが引っかかる。それを見てしまったからこそ、妙に酔いが回る気がした。ビールを一口飲む。さっきよりずっと飲みやすい。
「……十年もあれば、いろんなことがあるだろうな」
『その人……すごいなと思うわ。あの堅物をあんなんにしちゃうなんて。いったい、どんな人なんだろ』
彼をあそこまで変えてしまう人は、きっと優しくて、包容力があって、綺麗で…私にはないものをたくさん持っている人なんだろう。そう思えば思うほど、勝手に自分と比べてしまうのが嫌で、誤魔化すように、また酒を口に運んだ。アルコールが喉を通るたび、身体の芯がじんわりと熱くなる。少し酔いが回ってきたみたいだ。
「お前……気づいてないのか?」
『里にいなかったのに、気づくわけないでしょ』
ゲンマは驚いたように私を見る。半分冗談みたいに返すと、彼はほんの一瞬だけ言葉を選ぶように視線を伏せた。
「……俺はあんまり、敵に塩を送るつもりはないが、これだけは教えておいてやるよ」
重くなり始めた瞼を持ち上げてゲンマを見ると、
いつもの軽口とは違う、意味ありげな笑みを浮かべていた。
「この十年、お前の殉職連絡が回ってからもな。お前の連絡が途絶えた場所が、行動範囲内であれば、あの人は何度もお前のことを探してたぞ」
言葉が頭の中で噛み砕かれるまでに、少し時間がかかった。嬉しくないわけがない。なのに、どう反応していいかわからなくて、気づけば顔が熱くなっているのを止められなかった。少しの沈黙のあと、ゲンマの大きな手が遠慮なく私の頭をくしゃっと撫でた。
「……やっぱ、言わなきゃよかったぜ」
乱暴なのに、どこか優しい手つき。
「お前、そんな無防備な顔してっと、キスされても文句言えねーぞ」
『……バカ言わないで。そんな隙、見せないよ』
「お、戻ってきたな。早い切り替えなことで」
慌てて顔を背けると、ゲンマが鼻で笑う。その言い方がおかしくて、堪えきれず笑いが零れた。酒のせいか、胸の奥の重さが少しだけ軽くなった気がした。
