モーニンググローリーフィズ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
中忍選抜試験、一次試験中。
ナルトたちは今ごろ必死に頭を悩ませている頃だろう。それに、試験官はあのサディストだ。問題用紙を前に、あいつらが頭を抱えている光景が容易に想像できる。まあ、実技よりはマシか。そんなことを考えながら、無意識に口元が緩みそうになるのを抑えたその時だった。
『暇』
短く素っ気ない一言。読んでいた本を下にずらされ視界が遮られる。ずいっと距離を詰められ、気づけば目の前には眉間に皺を寄せてこちらを睨む顔があった。
「しょうがないでしょ。部下たちは試験中なんだから」
いつもの調子で返すと、彼女は納得いかないといった様子で腕を組む。
『私、補助役ですよね。補助役。これから部下たちは試験で手が空くのは分かってましたよね?それなのに……』
ぶつぶつと小さく続く文句。
『私、手持ち無沙汰なんですけど。火影のじーさんも、なんで補助役なんて任命するかな……』
不満を隠そうともしない。その様子に思わず内心で苦笑し、俺は自然と火影室でのやり取りを思い出していた。
_______
______
___
「……俺の班の補助役に彼女をつけてほしいんです」
「お前自らが言ってくるとは珍しいのう……して、その理由は?」
我ながらずいぶん強引な直談判だったと思う。理由ならいくらでも用意していた。班の特性だとか、任務の危険度だとか、彼女が抱えている記憶問題の扱いについてだとか。火影様が納得しやすい言葉を順序立てて並べた。けれど、本音はもっと単純でもっと身勝手だ。厄介すぎる血継限界の秘密を知り、それでいて自覚があるのかないのか、平然と前線に立とうとする彼女。無茶をするに決まっている。放っておけるわけがないだろう。
「よかろう。では明日、名前にはお前の補助役として正式に任命しよう」
「ありがとうございます」
形式的に頭を下げた、その直後だった。
「して、カカシよ。この決定に私情は入っておるのかの」
火影室を出かけたところで投げられた一言に、思わず足が止まる。ゆっくりと振り返れば、火影様はわずかに口角を上げ、こちらを試すような目を向けていた。俺はほんの一瞬だけ間を置いてから答えた。
「そのような事は、ありませんよ…」
火影様の眉がかすかに動いたのを見逃さなかった_______
『だから、先輩。聞いてます?』
不意にかけられた声に、意識が一気に現実へ引き戻される。目の前には腕を組んでこちらを睨む彼女。
「んー……あー、聞いてるよ」
反射的に口をついて出た、我ながら雑すぎる相槌。次の瞬間、予想通りの反応が返ってくる。
『絶対、聞いてないですよね』
否定する言葉も見当たらず曖昧に視線を逸らした。
「……あーあ、補助役ってのも大変だなぁ」
煙草を指で挟んだまま、アスマがわざとらしく肩をすくめる。助け舟のつもりか、ただの野次か。どちらにせよ面白がっているのは間違いない。
「試験中は基本やることないものね」
紅も柔らかく笑いながら頷き、場の空気をさらに軽くする。
『ほら、やっぱりそうじゃないですか』
すかさず俺を見る名前。さっきまで抑え気味だった愚痴が、一気に勢いづいたのが分かる。視線が痛い。さて、どう言い逃れしたものか、そう考えた時だった。
「おおおっ!退屈そうだな、カカシ!!」
場の空気を一瞬で引き裂くやたらとよく通る声。思わず内心で息をつく。振り向くまでもない、あの暑苦しさは一人しかいない。いつもなら面倒だと思うが、今日は違う。いいタイミングで来てくれたものだ。
「……ガイか。いいところに来たな。暇なのは俺じゃなくて、こいつ」
そう言って名前を指差す。一瞬遅れて彼女の表情がぴしりと固まった。ああ、本当に分かりやすい。隠してるつもりだろうが俺にはすぐに分かった。半歩、また半歩と後ずさるその動きが、逃げだと認識するまで、ガイが黙っているはずもなかった。
「その顔!間違いない、身体がなまっている顔だ!!」
力強く指を突きつけられ、名前は慌てて首を振る。
『そんなことないですよ』
「ほう!ならば久しぶりに、俺と組み手なんてどうだ!!」
返事を待つ気など微塵もない、即断即決。話はもう、彼女の意志とは無関係に前へ進んでいる。横でその様子を見ていた紅が、額に指を当てて小さく息を吐いた。
「……本当に、都合のいい耳ね」
その呟きに、俺は心の中で静かに同意する。
『組み手か……』
小さく呟いた彼女の声は、半分は諦め半分は様子見そんな響きだった。正直、どうせまた適当にかわして、逃げ回って終わりだろう。そう思っていたのに、彼女の口から出たのは予想もしなかった言葉だった。
『いいですよ』
あまりにもあっさりとした返事をした後、そのまま二人は待機場を抜け少し下の開けた場所で向かい合う。合図はなく、次の瞬間には同時に踏み込んでいた。拳と拳がぶつかり、蹴りを受け、流す。無駄のない動き。読み合いの速度が昔より明らかに速い。鋭いなと、思わず目を細める。ガイに合わせるように、彼女は忍術も幻術も使わず、純粋な体術だけで応じていた。その動きは派手さこそないが、間合いの取り方が異様に冷静だった。昔と違う動きに驚いたのは、俺だけじゃなかったらしい。
「へぇ……」
隣で煙草をくわえたアスマが面白そうに目を細める。
「あいつが、ガイと組み手をするなんてな。正直、驚いた」
「本当にな。冗談半分で言ったつもりだったんだけど」
俺の言葉に紅も視線を二人へ向けたまま頷く。
「しかも体術のみね。あの子、確か……体術は苦手じゃなかったかしら」
その通りだ。少なくとも、俺の知っている彼女はこんな正面からの戦い方はしない。ガイの速度に合わせ、真正面から打ち合い、受け、かわす。まるで相手の土俵にわざわざ上がっているみたいだ。彼女らしくない。それが妙に引っかかった。何か、考えがあるのだろうか。
「それより……随分、大事にしてるじゃないか」
不意に投げられた言葉に煙草の匂いが混じる。
「何の話?」
視線は前に向けたまま素っ気なく返す。するとアスマはわざとらしく一度煙を吐き出してから、口の端を吊り上げた。
「決まってるだろ。補助役なんかにしやがって。彼女だろ、お前が過去に唯一ベタ惚れして……それで振られた女の子は」
一瞬だけ言葉が遅れる。視線の先では彼女がガイの攻撃を受け損ね体勢を崩し、それでも即座に踏み直して次の一撃へと繋げていた。
「深読みしすぎだよ」
感情を挟まない声でそう返すが、アスマは引かない。
「付き合いの長い俺らが、そんな言い訳で騙されるわけないだろ」
くつくつと喉を鳴らして笑う声。紅は何も言わない。ただ、否定もせずにこちらを見ている。面倒だな。俺はそれ以上答えず再び視線を前へ戻した。ちょうどその瞬間、彼女がガイの懐に踏み込み、短い間合いで打ち合っているのが見える。
相変わらず無茶をする。少しして、場の空気を切り裂くようにガイの高らかな声が響いた。
「いやぁ!実に清々しい組み手だった!!」
その声に、待機場の空気が一気に現実へ引き戻される。
「ちょっと、ガイ!あなた、やりすぎよ!」
珍しくはっきりとした紅の叱責。それも無理はない。ガイの肩にはぐったりと力を失った名前が担がれていたのだから。口元が緩みそうになるのを必死で堪える。
「たく……ほら。俺のとこの補助役だからね。引き取るよ」
そう言って、ガイの肩から彼女を受け取る。
『……きっ……ガイさん、手加減してくれない』
「ガイは常に全力だからね。じゃあ、医務室行こうか」
『え、私はどこも——』
「捻挫してたでしょ」
『それくらい……てか、おろしてください』
「医務室行ったらね」
有無を言わせない調子で言い切ると、腕の中で諦めたように小さく息を吐く気配が伝わってきた。
「じゃ、みんな。俺たちはこれで」
そう告げると、返事を待つこともなく舜身の術を発動する。視界が切り替わる直前、アスマのにやついた視線と紅の呆れた表情がちらりと見えた。……まあ、隠すのは無理だな。腕の中で微かに体温を感じながら、俺はそのまま医務室へと向かった。
