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極力、関わらない。そう自分で決めたはずなのに、現実は思うようにはいかなかった。
「よって、カカシ班の補助役に任命する」
三代目火影のその一言に、肩が分かりやすく落ちる。下忍を率いる彼と関わることはないだろうと踏んでいた。だから一応、念のため『カカシ先輩とは極力関わりたくない』と伝えておいたはずだったのに…突きつけられたのは、まったく逆の現実だった。
反論したい気持ちはあるけれど、数時間前まで私の部屋にいたはずの先輩が、今は何食わぬ顔で隣に立っている。火影室へ足を踏み入れ、彼の姿が視界に入った瞬間から嫌な予感はしていた。……やっぱり、だ。本人を目の前にして、しかも火影直々の決定だ。『嫌です』『一緒にいたくありません』なんて言えるはずがない。それでも、理由くらいは知りたかった。
『……なぜですか』
「まず一つ。カカシ班には、九尾の人柱力、うずまきナルト。それに、うちは一族の生き残り、うちはサスケがおる。万一を考えての判断じゃ」
『つまり、先輩がヘマする可能性を考えてのことですね』
「お前な……もう少し言い方があるだろ」
隣から飛んできた小言は、聞こえなかったことにする。
「それともう一つ。お前の記憶の件じゃ。写輪眼をきっかけに戻ったのなら、カカシ、サスケの近くにいれば、敵に関する情報を思い出す可能性もある」
そこまで聞いてようやく納得がいった。どれも火影としては至極真っ当な理由だ。……これ以上断れるわけがなく、私は小さく息を吐いてから短く頷いた。
『……了解しました』
こうして、望んでいなかった形での再スタートがあっさりと決まってしまった。そして今は第三演習場。懐かしい土と草の匂いが鼻をくすぐり、思わず視線を巡らせる。
『鈴取りって…私、下忍じゃないんですけど』
正直な感想を口にすると、隣に立つカカシ先輩は目元だけで笑った。
「知ってるよ。でもさ……この十年間、温室でぬくぬく過ごしてた影響で、どこまで鈍ってるか確認しないとね」
……棘のある言い方だ。きっと、火影室での仕返しだろう。あからさま過ぎて、思わず、ふうと大きく息を吐いた。
『記憶をなくしても、体の感覚は抜けてないって言いましたよ、先輩』
言い終わるより早く地を蹴った。踏み込む音すら置き去りにして回り込み、一気に距離を詰め背後に回った瞬間、くないを抜きためらいなく首元へ。
『ほら』
冷たい刃が彼の皮膚に触れる寸前で止まる。
ほんの数センチ。呼吸一つ分の距離。
「…確かに。これは、俺も本気でやらないといけないね」
感心したようにそう言って、彼はゆっくりと額当てをずらした。露わになる左目。赤く染まった写輪眼がまっすぐこちらを捉え、空気がぴり、と張り詰める。視線が絡みチャクラが軋むのが分かった。そして次の瞬間、お互い同時に踏み込んだ______
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『はぁ……はぁ……』
勝負がつく頃には、日はすっかり傾いていた。演習場を包む光がオレンジ色に変わり、大の大人が二人揃って地面に仰向けになる。胸が上下するたび、はぁ、はぁ、と荒い呼吸だけが重なった。しばらく言葉は出ない。
「……いやー……想像以上……でしたよ」
途切れ途切れの声。息を整えきれないまま、先輩は空を見上げている。私は、手のひらに収まる鈴を無意識にきゅっと握りしめた。勝負は一瞬で終わると思っていたのに、先輩は想像以上に私の力を隅々まで確かめていた。
『……っ……それは……どーもです』
こちらも同じく、肺の奥がまだ熱くてまともな返事にならない。少し間を置いて、呼吸がようやく落ち着いてきた頃。
「正直、鈍ってると思ってたんだけどね」
『……失礼ですね』
「でも、安心した」
その一言に胸の奥がわずかに揺れた。なんとか、彼の足手まといにはならずに済みそうだ。しかし同時に、彼との実力差がはっきりと突きつけられる。……これは、うかうかしていられない。再び訪れた沈黙。風が葉を揺らす音だけが静かに演習場を満たしていた、そんな時だった。
「……ラーメンでも、食べに行く?」
あまりにも突然で、あまりにも自然な提案。思わず小さく笑ってしまった。
『ハハッ……そこは昔のままなんですね……』
「まっ、懐かしいじゃない」
昔も任務終わりは決まってそうだった。疲れ切った体にどうでもいい話とラーメン。そういう時間は嫌いじゃなかった。ふっと、笑いが引いた後、私は少しだけ真顔になる。
『まあ、懐かしいですね。……あと、先輩でしょ。私を補助役にしたの』
横目で見ると彼は間髪入れずに返してくる。
「さー、なんのことだか」
不自然なくらい早すぎる回答。こういう時は大抵図星。この数日過ごして、木の葉の情報はある程度入っている。人手不足のくせに、わざわざ私を彼の補助役に据えるのはどう考えてもおかしい。誰かが推薦したに違いない。そんなことをする人間は一人しか思い浮かばなかった。
『こっちは、逃げようとしてるのに』
少しだけ本音が滲んだ。彼は一瞬だけ黙り、それから空を見上げたまま答える。
「それが分かったからよ」
軽い口調だけれど、逃げ道をふさぐには十分すぎる言葉だった。胸の奥が、じわりと熱くなる。想定通り、私の秘密を知ったこの人は、最初から私を放っておく気なんてなかった。
『なんで、ばれちゃうかなー』
ぽつりと零すと、先輩は間髪入れずに言った。
「お前、分かりやすいから。顔にすぐ出るし」
そんなこと言うのはあなたくらいだ。少なくとも、そう言われたことは一度もなかった。むしろ、逆の言葉なら何度も聞いてきた。これまで付き合った人は三人ほどいる。けれど別れ際、彼らは決まって同じ言葉を残していった。
〝何を考えてるかわからない〟
〝 名前は、俺のこと好きじゃないでしょ〟
違う。そんなことはなかった。ちゃんと気になって、ちゃんと好きになって、ちゃんと向き合おうとしていた。それなのに、いつも最後は〝伝わらなかった〟という形で終わる。私が悪いのか相手が悪いのか、考えるのも途中でやめた。今、隣にいるこの人だってそうだ。
確かに、始まりは興味だった。〝はたけ カカシ〟というエリート忍者が、これまでどんな女性と付き合ってきたのか。その噂を知っていたから、こんな平凡な私が告白されるなんて、思ってもみなかった。どんな人なのだろうと興味本位でOKしたのは間違いない。
けれど、実際に付き合ってみると。彼と過ごす時間は驚くほど居心地がよかった。考え方はどこか似ていて、無言でも空気が重くならない。時々、意見がぶつかって言い合いになることもあったけれど、ちゃんと話して仲直りもできていた。一緒にいることが無理じゃない。それだけで十分すぎる理由だった。
ただ、周りの目は厳しかった。特に女性たちから。彼のいないところで何度も囁かれた〝つり合っていない〟という言葉。でも、そんなことは自分が一番よく分かっていたから、ひどく傷つくことはなかった。少なくとも、そう思うようにしていた。
どうせ、今は彼の気まぐれ。そのうち私も過去の人になる。そう考えてしまったからだと思う。自分の体のことがバレるのが怖くて、彼の誘いに応じることができなかった。それに、過去の女性たちと同じ場所に立つこと、同じように扱われること、それがなぜかどうしても嫌だった。今思えば、変なところで意地を張っていたのかもしれない。けれど、あの時の私にはそれが精一杯の防御だった。
断り続けた末、彼は別の女性を選んだ。自分から距離を取ったくせに、彼がいなくなった穴は想像以上に大きかった。その時、ようやく気づいた。私はあの二年間で、彼という底なし沼にすっかりはまってしまっていたのだと。
せっかく人気者と付き合えたのだから、素直に甘えていればよかった。拒むことばかり覚えて、踏み込む勇気を持てなかった。もし、あの時もう少し自分を、彼を信じられていたら。彼の手を取って、同じ場所に立つ覚悟ができていたら。違う愛し方や、違う伝え方を知ることができたのかもしれない。まあ、今さらだけど。
『行きましょうか。一楽。もちろん、先輩の奢りで』
気持ちを切り替えるようにそう言うと、
「はいはい、わかってますよ」
と、軽く返される。その声音は昔と変わらないのに、胸の奥に残る感覚だけが少し違っていた。どうせ明日から彼の班の補助だ。逃げ道はないし、避けることもできない。だったら、せめて踏み込みすぎない距離で、感情を挟まない位置で、いい上司といい部下。それ以上でもそれ以下でもない、そういう関係でいこう。そう自分に言い聞かせるように、何度も心の中で繰り返した。
