アイ・オープナー
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すんげぇ、めんどくせぇ。
目の前にはイノとサクラ。二人ともカウンター席で腕を組み、逃がす気ゼロの視線を向けてくる。
「さーさー、白状しなさいシカマル」
「最近コソコソ怪しいのよ!彼女できたんでしょ!」
「だから違うって言ってるだろ」
何度目だよ、この流れ。どこから嗅ぎつけたのか知らねぇが、否定するたびに目を輝かせるあたり、完全に面白がってる。ちらりと影時計を見ると、あと少しで待ち合わせの時間。これ以上足止め食らうのは勘弁だ。ため息をひとつ噛み殺し、踵を返そうとした、その時だった。
「しつこいって……俺はもう行く…」
言い終わる前に、肩にずしりと重みがのしかかる。同時に頬に触れた柔らかな感触。一瞬、何が起きたのか分からなかった。温かく、近い。いや……近すぎる。反射的に身体が強張った。
『どうも、シカマル君の彼女です』
耳元で落ちた声は落ち着いていて、やけに澄んでいた。理解が追いつくより先にイノとサクラの反応が変わる。イノは目を見開き、サクラは言葉を失ったまま固まっている。
……は?
遅れてようやく分かる。今、俺の肩に頬を寄せているのが名前さんだってこと。黒髪が肩にかかり、ほんのり酒の匂いと、昼間の病院とは違う大人びた気配。
最悪だ…いや違う。一番最悪なのは、この状況で俺が彼女を突き放す理由を見つけられないことだった。めんどくせぇ。本当に、めんどくせぇ。なのに、肩に感じる重みを振り払えない自分に、内心で舌打ちするしかなかった。
『じゃ、約束してるから。シカマル君、借りていくね。ごめんね』
そう言いながら、彼女は俺の手を取った。指先が絡むでもなく、ただ迷いなく掴むだけ。それなのに妙に逃げ場がなかった。慣れた動きで、もう一方の手で机の上に置いてあった伝票をさっと回収する。
「ちょ、お前っ」
言いかけた俺を置き去りにして、彼女はそのまま歩き出す。引かれる形で俺も席を立つしかなかった。背後から甲高い声が飛んでくる。
「嘘だと言って……!」
「シカマルの彼女が、あんな綺麗な女性だなんて…!」
混乱と絶望が入り混じった叫び声。振り返る余裕もなく、そのまま店の扉を抜ける。外の夜風が火照った頬にぶつかり、一気に現実に引き戻される。
「……なんで、あんなことするんすか」
店を出て少し歩いたところで、ようやく言葉が出た。夜風が冷たく頭が少し冷えたせいか、さっきまでの勢いが嘘みたいに現実感を帯びてくる。彼女は歩みを止めず、ちらりとこちらを見る。
『事実でしょ?』
あまりにもあっさり。悪びれる気配は一切なく、当然のことを言っているような口調だった。……言い返せない。あの日のことが脳裏に浮かぶ。勢いだけで口にした告白。深く計算したわけでもない。ただ、本当に勢いだった。返ってきたのは想定外すぎる答え。〝YES〟軽くもなく、冗談でもなく「いいよ」と静かに頷かれただけだった。
「……んで、今日はどこのラーメン食べに行くんすか」
もうさっきの出来事は訂正不可能。今後に備えるしかない。半ば現実逃避みたいに、いつもの調子で本来の目的である晩飯の話題で言葉を繋ぐ。彼女は一瞬だけ立ち止まり、振り返った。
『私の家』
その三文字が、夜の空気にすとんと落ちる。
「……は?」
間抜けな声が喉から零れた。頭の中で今聞いた言葉を反芻する。彼女は平然とした顔でこちらを見ている。からかっている様子も、冗談めかした気配もなかった。
家に着くと、彼女は靴を脱ぐなり迷いなくキッチンへ向かった。冷蔵庫を開ける音、瓶同士が触れ合う軽い音。それを聞きながら後に続いてリビングへと入る。
彼女は酒とグラスをローテーブルに置き、ソファーへ腰を下ろした。そして、隣をトントン、と指で叩く。……座れ、ってことだろう。言われた通りに腰を下ろすと、間を詰める猶予すら与えず、そのまま頭を俺の肩に預けてきた。酒の匂いがふわりと香り、かなりの量を飲んでいることがわかった。そして俺に手渡されたのは冷えたグラス。
「おい。オレンジジュースはないだろ」
思わず突っ込むと、目を閉じたまま淡々と言う。
『私これでも看護師だよ。未成年にお酒は勧めません』
……酔ってるくせに、そこはしっかりしてるのかよ。俺は差し出されたグラスには手をつけず、彼女が持っていた方を取り上げて、一口飲んだ。
『もう、言うこと全く聞かないね』
「……で」
グラスを戻しながら、横目で顔を覗く。
「なんで、そんなに機嫌悪いんだよ」
『……こんなに、上機嫌なのに』
少し間延びした声。
いつもより柔らかくてどこか投げやりだ。
「上機嫌すぎるんだよ。なんかあったのくらい、バレバレだ」
肩にかかる重みが、わずかに動く。
『……別に』
「それが答えじゃねーか」
小さくため息をつくと、彼女はくすっと短く笑った。でも、その笑いはどこか苦い。
『本当に…君には隠し事ができないなー』
酔ってるけど、誤魔化してる。そういうのは、嫌でも分かった。この人を意識し出してから、よく見てたから。
「カカシさん……か」
そう口にした瞬間、肩に預けられていた重みが、ぴくりと揺れた。返事はない。ただ、それだけで十分だった。
『……関係ない』
否定の言葉とは裏腹に、声は少しだけ遅れている。分かりやすすぎだろ、と心では思いつつ深くは掘り下げない。
「そーかよ。……って、もう飲み過ぎだ。店でも結構いってただろ」
グラスを取ろうとすると、すぐに細い指が伸びてきた。
『ちょっと、明日休みだし。飲みたい気分なの』
そのまま、手首を捕まえる形になって、向かい合った。吐息がかかるくらいの距離。視線が絡んだ瞬間、空気が変わるのが分かった。
「……前にも言いましたけど」
声を落とす。
「男を、簡単に家に上げんなよ」
『……彼氏でしょ』
その一言で、プツンと何かが切れた。腰に手を回して引き寄せると、彼女は抵抗するでもなく俺の上に体重を預ける。膝立ちのまま、少しだけ顎を引いた視線が俺を見下ろした。
「……襲われても、文句言えないっすよ」
『文句言うなら、呼んでない』
はっきり言い切る声。でも、その奥にある揺れがわかる。引き寄せればいい。このまま、その揺れに気づかないふりをして流れてしまえばいい。なのに俺は、ふっと力を抜いて手を離した。
「……ほんと、敵わないっすね。いつあんたを出し抜けるのか…」
自嘲気味に笑いかけた、その瞬間。唇に、柔らかい感触。一瞬だけ。触れるだけの、確かめるようなキス。
「……あんまり、煽らないでくださいよ」
『……ごめん、煽ってる』
その言い方が静かすぎて。もう戻れなかった。体勢が入れ替わり、ソファーに沈む彼女の上に影が落ちる。視線が合う。何も言わないその瞳に映るのは、迷いを隠しきれない俺自身だった。見られたくなくて、そっと距離を詰める。今度は触れるだけじゃ終わらせない、深さを含んだ口づけ。部屋に湿った息の音が溶けていく。
『……フッ……ン……シカ……マル、く……』
名前を呼ばれるたび、喉の奥で押し殺した声が零れる。苦しそうに揺れる肩。それでも俺は離さない。引き離そうと伸びてきた両手を、片手でまとめて捕まえ、頭上へ。もう片方の手で顎を捉え、逃げ場を塞ぐ。近すぎる距離で呼吸がぶつかる。
『……ッ……息……続かな……っ……』
途切れがちな声に、ほんの一瞬だけ唇を離す。引き剥がしたその距離に、名残を引くように細い糸が伸びた。
「……煽ったのは、そっちすよ」
囁くように告げて、さらに深く、確かめるように唇を重ねる。角度を変え隙間をなぞるだけで、声が甘く滲む。抵抗する力はもうなく、指先が小さく震えるのが分かる。その反応ひとつひとつが、理性を削っていく。頼むから、早く。そう思いながら、再びゆっくりと深い口づけを落とす。
