モーニンググローリーフィズ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
チュン…チュン
『……んっ』
小鳥のさえずりが耳に届き、意識がゆっくりと浮上する。重たい瞼をこじ開け上半身を起こすと、視界が定まるまで少し時間がかかった。窓から差し込む光がやけに眩しい。柔らかい朝日…そう思った直後、その違和感に気づく。この日の入り方、影の伸び方は正午が近い。そうわかった時、頭の奥でズキズキと鈍い痛みが脈打った。
『……最悪だ』
喉はからからで口の中が乾ききっている。舌を動かすだけで不快な苦味が広がった。これは完全に二日酔い。水を探そうと布団から抜け出そうとしたその瞬間だった。手のひらに違和感、柔らかいはずの布団の感触とは違う。少し硬くて、でも冷たくない。……温かい。嫌な予感が背筋を駆け上がり、呼吸が浅くなる。ゆっくり、恐る恐る、視線を下げた。
『…………カカシ先輩』
そこにいたのは無防備に眠る彼だった。上裸のまま、すぐ隣で同じベッドで。一瞬で血の気が引く。頭が真っ白になり思考が追いつかない。反射的に視線を走らせる。目に入るのは見慣れた天井と壁。最低限の生活ができればいいと選んだ、数少ない家具たち。間違いなくここは私が契約した部屋で、彼の部屋じゃない。それは、はっきりわかった。
しかし、ここが自分の部屋だと確認できても、状況が好転するわけじゃなかった。逃げ場がない、という事実だけがより鮮明になる。恐る恐る視線を戻すと、カカシ先輩は何も知らない顔で眠っていた。規則正しい寝息、わずかに上下する胸元。気の抜けた無防備な横顔。
『……あぶない』
触れそうになった手に気づいて、慌てて引っ込めた。本当に昨晩、何があった…記憶を辿れ。ズキズキと痛む頭を押さえながら、必死に思考を巡らせる。笑い声、酒の匂い、やたらと騒がしい空気。そうだ帰還して3日目の昼。アンコさんに捕まって「帰還祝いだから!」の一言で、上忍たちの飲み会に強制参加させられて。そこまでは、はっきり覚えている。でも、その先が曖昧だ。杯を重ねて……そして________
『はい、はーい! 名前の生存を喜んで、カンパーーイ!!』
アンコさんがそう叫び酒瓶を高く掲げる。それに合わせて卓を囲む上忍たちが一斉に声を上げた。盃がぶつかる音、笑い声、居酒屋は一気に熱気に包まれる。
「まさか生きてたなんてな!いやー、伝書鳩が飛んできた時は驚いたもんだぜ」
アスマさんが豪快に笑いながら酒を煽る。
「ほんとよ。いったい今までどこで何してたのよ」
紅さんは呆れたように肩をすくめつつも、その表情には確かな安堵が滲んでいた。
「 名前よ!俺はお前が死んだなど、これっぽっちも思っていなかったぞ!」
隣に座っていたガイさんは膝立ちになり、勢いよく私の肩を掴む。
「うん、うん……うわーー!生きてて、生きててよかったぞーー!!」
……近い。声も大きいし距離も近い。
『ちょ、ガイさん……』
どこから、それに誰から話すべきか。頭の中で必死に考えるけれど、言葉を選ぶ余裕なんてない。きっと三代目のじーさんが、改めて皆を集めて話す場を設けるはずだ。記憶喪失のことも封印術のことも、今ここで話すことじゃない。そう思ったその時。
「はいはい、その辺にしとこうか」
落ち着いた声が場に割って入る。そう言いながら、自然な動作でガイさんの肩を押し返し、間にすっと入り込んだ。
「お祝いの席だし、本人が困ってる……ガイ、近い」
「お、おお?すまん!」
私の肩に乗っていた重みが消え、思わず小さく息をついた。その代わり、気づけば隣に座っているのはカカシ先輩。
「おーおー。お前ら寄りが戻ったのかよ」
アスマさんが、面白そうに目を細める。
『そんなわけないじゃないですか』
「そんなんじゃないよ」
反射的に答えたその瞬間、同時に先輩の声が重なる。ぴたり、と重なったその一瞬だけ周囲のざわめきがやけに大きく聞こえた。
「仲がよろしいことで」
アスマさんは意味ありげに口角を上げると、そのまま酒を煽った。それを合図にしたように、卓の空気は一気に緩む。私の生存報告で持ちきりだった話題も、いつの間にか任務の愚痴や昔話、誰かの失敗談へと移っていった。笑い声が重なり、酒の匂いが濃くなる。皆、それぞれにいい具合に出来上がっている。そんな中で、私は隣に座る彼をそっと横目で見た。
『……カカシ先輩って、こういう飲み会嫌いでしたよね』
と零した言葉は、自分が思っていたよりも静かに落ちた。昔の先輩はこういう場には決して顔を出さなかった。人付き合いを避け、距離を保ち、必要以上に誰かと関わろうとしなかった人。だからこそ、今こうして隣にいること自体が少しだけ不思議だった。
「まあ、人は変わるよ」
『……そうですか』
それ以上、言葉は続かなかった。私がいなかった十年の間に、彼をこうして人の輪の中に留める存在がきっといたのだろう。それが恋人なのか、仲間なのか、それとも教え子なのかは分からない。分からないけれど、自分の知らない時間の中で彼が少しずつ変わっていったという事実だけが、どうしようもなく胸に残った。
……少しだけ、寂しい。その感情を誤魔化すように、手元に残っていた酒を一気に煽る。喉が熱く焼け、アルコールが落ちていく感覚に視界がわずかに揺れた。
「ちょ、 名前。飲み過ぎだよ。一口で顔赤くしてたじゃない」
その声に、ふと昔の記憶が重なる。まだ未成年だった頃、隠れて飲んでいた先輩の酒を、調子に乗って一杯だけ口にした夜。あの時もこんなふうに笑われた。
『……いつの話してるんですか。私も、変わってますから』
自分でも分かるくらい、少し棘のある声だった。それだけ言って、トイレに行くふりをして席を立つ。逃げるみたいな動きだと分かっていても、今はそれしかできなかった。肩が離れた、その瞬間に気づく。さっきまで触れていた場所に、彼の体温だけがまだ残っていることに。
一度、深く息をついてから席へ戻ろうとした時、視界に入った光景に足がわずかに止まった。カカシ先輩の隣は知らない女性で埋まっていた。女性らしい顔立ちや振る舞い、距離感の近さ。気負いのないやり取り。……昔と変わらず、モテているらしい。当然だ、と頭ではわかっているのに、胸の奥がまたほんの少しだけ痛んだ。
それ以上見る必要はない。そう自分に言い聞かせるように、そっと視線を逸らす。空いている席を探して店内を見渡し、向かった先は店の端。壁にもたれるようにして座っている、見慣れた顔に声をかけた。
『……隣、いい?』
