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木の葉へ戻った景色は、知っているはずなのにどこかよそよそしかった。建物の配置も、通りを行き交う忍の顔ぶれも、大きく変わったわけじゃない。それなのに空気が違う。時間だけが確実に前へ進んでいた。
火影室へ向かう途中、何人もの知った顔とすれ違った。一瞬、動きが止まり次の瞬間、信じられないものを見るような目を向けられる。死人でも見たみたいな顔。それもそうだ、私は殉職扱い。それから慌てたように近づいてきて、口を開きかける。でも、そのたびに隣のカカシ先輩がさりげなく一歩前に出た。
「詳しい話は、火影様のあとで」
それだけで、皆が言葉を飲み込む。説明を何度も繰り返さずに済んだのは、本当に助かった。一人で行けると言ったのに、それでも「同行する」の一点張りだった彼の背中を、今は素直にありがたいと思った。そして案の定、火影室の扉が閉まった瞬間、雷は落ちた。
「お前は、この10年!連絡もよこさんと、どこでほっつき歩いておった‼︎‼︎」
耳が痛くなるほどの怒声に思わず肩がすくむ。
『うっ……これには理由が……』
「ええい、うるさい!お前の死亡情報の撤回に、どれだけ時間がかかると思っておる‼︎」
『だから理由が……っ!』
必死に声を張り上げる。ちゃんと説明すれば分かってもらえるはずだ、そう思って一歩前に出たその瞬間だった。ぐい、と強い力で引き寄せられた。温かく、年老いてもなお変わらない腕の力。
「……よく、生きていてくれた……おかえり」
低く掠れた声。その一言で堰が切れ視界がわずかに滲んだ。喉の奥がきゅっと詰まるのを必死に飲み込む。泣くわけにはいかない、ここで崩れるほど子供じゃない。それでも堪えきれず頬を一筋、雫が伝った。
『……ただいま、三代目のじーさん』
それ以上、声が震えないように奥歯を噛み締める。帰ってきた、それだけは確かだった。三代目のじーさんは何も言わず、少しだけ力を込めて抱き寄せる。慰めでも同情でもない、ただの確認みたいな温度。その背後にカカシ先輩の気配を感じた。振り返らなくても分かる。きっと、何も言わずに見ている。それでいい、一雫で十分だった。
「で、本題に入ろうかの。さっきも聞いたが、おぬしはいったいどこで十年も、音沙汰なくほっつき歩いておった」
声音は穏やかなはずなのに、言葉の端々に小さな棘が混じっている。責めているというより、心配と苛立ちが入り混じった、三代目のじーさんらしい言い方だ。私だって好きで戻らなかったわけじゃない。そう言い返したい気持ちが、喉の奥までせり上がるけれど、ぐっと飲み込み一度だけ視線を伏せる。
『……その前に、カカシ先輩に席を外してもらいたいんですが』
自分でも意外なほど声は落ち着いていた。視線は三代目に向けたまま、あえて隣を見ない。すぐ横から低い声が返ってくる。
「俺がいちゃ、何か問題でもあるの」
淡々とした口調だけれど、その奥にわずかに滲む感情に気づかないほど鈍くはなかった。怒りというより、拒絶されたことへの引っかかり。
『いくら先輩でも……暗部の任務報告は、教えられません』
言葉を選びそう告げる。それは、半分だけ本心で半分は嘘だ。これから話すのはカカシ先輩ですら知らない、知ってほしくない私自身の秘密。三代目のじーさんと私だけのものだ。部屋に短い沈黙が落ち、火影室特有の重く張りつめた空気。その中心で私はただ静かに答えを待っていた。
「よい、カカシとも情報を共有する」
『っ……⁉︎ でも‼︎』
反射的に声が上ずった。思考より先に感情が飛び出る。それは困る、困りすぎる。言葉を探す間もなく三代目の杖が床を軽く打つ。
「よい。わしの判断じゃ」
有無を言わせない声音。火影としての決定であり、覆る余地はないとはっきり分かる声だった。
「カカシ。今から話すことは、他言無用じゃ」
「……わかりました」
短い返事、迷いのない声、二人だけで話が進んでいく。私はその様子を横目に見ながら、拳をぎゅっと握りしめた。爪が掌に食い込む感覚だけが、やけに現実味を持って伝わってくる。誰にも言いたくなかった。こんな体のこと。こんな、面倒で厄介で、自分でも持て余している真実なんて。知られた瞬間に守られる側に回される。そんな未来が、はっきりと脳裏に浮かぶ。それでも、もう逃げ場はない。ここまで来て黙り続けることは許されない。私は小さく息を吸い込み、視線を上げ覚悟を決めるしかなかった。
『あの任務は、新手により失敗に終わりました』
静かに事実だけを切り出す。一言一句、逃さないように、カカシ先輩に報告した時よりもさらに言葉を選ぶ。部屋に響く自分の声がやけに大きく感じられた。
『海の方まで流され、運良く一命を取り留めた私を助けてくれた恩人は……いい人でした。その後は、助けてくれた人と一緒に、旅の商人として一般人に紛れて各地を転々としていました』
淡々と続けながら過去の光景が脳裏をかすめる。忍ではない生活、名を持たない時間。
『木の葉にも立ち寄ったことはあります。でも……基本、里に入る時はお面をしていましたし、誰にも気づかれませんでした。私自身も記憶を取り戻すことはありませんでした』
「……なら、なぜ急に取り戻せた」
『きっかけは、カカシ先輩の写輪眼だと思います』
言葉にしながらあの瞬間を思い出す。赤い瞳を見た途端、雪崩のように流れ込んできた記憶。
『上位の瞳術と対峙しなければ解けない類の封印だったんでしょう……正直、この時代にそんな瞳を持つ人なんて、多くないですから』
小さく、苦笑。
『カカシ先輩と再会できたのは、ある意味……奇跡でしたよ』
「こら。真面目に報告しろ」
三代目の一喝に、肩が小さく跳ねる。
無意識に背筋を伸ばした。
「して、その封印術をかけた相手は分かるのか」
『……いえ、相手も相当なやり手のようで。顔には、まだモヤがかかっています……ですが、多分…大蛇丸でしょう』
「根拠は」
『私の、勘です』
その瞬間、二人分の大きなため息がほぼ同時に重なった。しかし気にせず続ける。
『ちゃんと、根拠のある勘ですよ。彼は不死の術を研究していました。どこで情報が漏れたのかは分かりません。でも……』
言葉がそこで一度詰まる。無意識に自分の腕を掴んでいた。ここから先は誰にも知られたくなかった話だ。それに直感だけど、カカシ先輩に知られたら、多分怒られる。それでも一度、瞳を閉じる。ほんの一瞬だけ。けれどもう覚悟は決めていた。
『私の血継限界、この体の性質……〝自己再生〟〝不死に近い肉体〟彼にとっては、研究材料として十分すぎるでしょう』
言い終えたその瞬間、ぐっと肩を掴まれ強い力で引き寄せられる。視界いっぱいに広がる銀色の髪。逃げる間もなく、無理やりカカシ先輩の方を向かされた。
『……だから』
思わず、声が少しだけ低くなる。
『席を外してくださいって、言ったんですよ』
彼の瞳には、はっきりとした怒りが宿っていた。それは私を責めるためのものじゃない。知らなかった自分、何もできなかった自分に向けられた苛立ち。そんなふうに見えてしまった。それが分かってしまって、胸の奥がきゅっと痛む。
この人、こんなに感情を表に出す人だっただろうか。昔のカカシ先輩はもっと飄々としていた。何を考えているのか分からなくて、感情を隠すのが上手で。どんな人が、彼をこんなふうに変えたんだろう。ほんの少しだけ、嫉妬にも似た感情が胸をよぎる。私にはできなかったこと。それでも彼の表情は、次々と感情を映して忙しなく変わっていく。
