モーニンググローリーフィズ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
橋に足を踏み入れた瞬間、視界が白に染まった。ただの霧じゃない。チャクラが混じった重くまとわりつく感覚が肌に張りつく。息を吸うたび肺の奥がひりつくこの霧、この圧、忘れるはずがない。……やっぱり、生きてたか。視線を巡らせるまでもなく分かる。霧の中心、そこに再不斬の気配がはっきりとあった。隠す気もないむき出しの存在感。橋全体を自分の縄張りだとでも言うような圧だ。
そして、その隣。いや、正確には半歩後ろに人影が二つ。一つは見慣れた白い仮面。そして、もう一つ。狐を模した面。装飾は少なく派手さもない。それなのに、なぜか目を離せない。
「今日は、新顔も増えちゃって」
軽く口にしたつもりだった。だが霧に包まれた橋の上では、その言葉だけが場違いに響いた。その時、狐の面をつけた女の指先が、ほんのわずかに動いた。反射でも偶然でもない。意識して見ていなければ、まず気づかないほどの小さな反応。再不斬の圧倒的な存在感に、視線を持っていかれていたはずなのに。気づけば自然とそちらへ意識が引き寄せられていた。
面の奥の表情は分からない。呼吸も、気配も、徹底的に抑えられている。それなのに、胸の奥が嫌なざわつきを覚える。理由も根拠もない。ただ、引っかかる。どこか知っているような。そんなはずがない…と切り捨てようとしても、感覚が離れない。狐の面がこちらを向いたような気がした。錯覚だ、そう思った次の瞬間、静かな声が霧を裂いた。
『再不斬さん。私、呼ばれる必要ありました?相手……子供じゃないですか』
霧の向こうから落ち着いた声が届く。抑揚がなく、感情を排した声音。狐の面の女のものだ。その声に覚えがあった。胸ではなく耳の奥。もっと言えば、神経の奥を直接撫でられたような感覚に一瞬、熱が走る。聞き間違いだ。そう切り捨てるには、その声はあまりにも輪郭がはっきりしていた。
「それがどうした」
再不斬が不機嫌そうに吐き捨てる。霧の中でも分かるほど、苛立ちがその巨体から滲んでいた。
『誓約上、私は子供の相手はしません』
淡々とした言葉。拒絶でも挑発でもない、ただの事実の提示。狐の面が、ほんのわずかにこちらを向いた。視線が合ったわけでもないのに、意識だけが引き寄せられる。
『なので…万一、あなたが危険になったら。その時に手を貸すことにしましょう』
あくまで条件付き。線を引いた距離感。仲間というより契約。従属でも忠誠でもない。その在り方が妙に引っかかった。
「ふん……」
再不斬が鼻を鳴らす。その音を合図にしたかのように、殺気が濃くなった。
「そんなこと、あるわけねーだろが⁉︎」
怒鳴り声と同時に、巨大な刀が振るわれた。霧が裂け風が鳴り、一瞬で空気が変わる。肌を刺すような圧が橋全体を覆い尽くした。
「来るぞ!」
反射的に声を上げると、サクラとサスケが即座に身構えるのが分かる。霧の中、視線が交錯し殺意がぶつかる。逃げ場はない。この橋は完全に戦場と化した__________
______
____
「くっ!」
土遁・追牙の術。土がうねりを上げ、地の奥から現れた無数の牙が、再不斬の足元へと噛みつく。苦痛の声が霧を震わせる。巨体の動きを完全に封じ、勝機がはっきりと形を持ったその瞬間、視界の端で狐の面の女が揺らいだ。
『……っ』
短い、押し殺したような声。次いで頭を抱えるようにして、わずかに前屈みになる。一瞬、意識がそちらへ引き寄せられる。だが、女に殺気はない。攻撃の兆しも動きもない。迷っている暇はなかった。意識を切り替え、掌に雷を集める。チャクラが一点に集中し、鋭い音を立てて空気を裂く。
雷切。
これで終わらせる。踏み込もうとしたその刹那、白が割り込んだ。雷切の軌道に迷いなく飛び込み、その心臓を貫かれる。躊躇も恐怖もない動きだった。
「……っ!」
倒れゆく身体を受け止めたその直後、再不斬が咆哮を上げ、白もろとも斬りかかってくる。距離を取り、間合いを外す。その行動をきっかけに、俺の中で何かが切れた。あとは、流れるような攻防だった。霧の中を駆け、刃をかわし、隙を作る。時間はほとんど経っていない。クナイを放ち、鋭い音とともに再不斬の両腕を貫いた。
「両腕を封じた。もう、これで印も結べな……」
背後。
気配がなく喉元に冷たい感触。反射的に弾く選択肢もあったが、俺はそうしなかった。手首を掴み力の流れを殺す。この背後の取り方、距離、間を、俺は過去に何度も経験した。
『再不斬さん。すみません、遅れて』
近すぎる距離で声が落ちる。俺に掴まれていることすら、気にしていない。その落ち着き、その声色、間違えるはずがなかった。
『どうも、この人を見てたら頭痛が酷くて。出遅れました』
淡々とした口調。この場には不釣り合いなほど、落ち着き払った声だった。
『……まだ、生きてます?』
確認するような一言。そこに情はなく、ただ状況を把握するためだけの問い。胸の奥で何かが静かに崩れる。否定し続けてきた違和感が、形を持って立ち上がる。俺は知っている、この声を。
「おせーぞ」
再不斬が苛立ちをそのままぶつけるが、女はそれすら意に介さない。
『両腕にクナイ刺すとか……』
小さく息を吐く音。
『相変わらず、容赦ないですね』
その言葉と同時に、俺に掴まれていない反対の手が、ゆっくりと動いた。躊躇はなく、覚悟を決めた様子でもない。ただ必要だから外す、そんな動き。狐の面が霧の中で静かに外される。
……いや。そんなはずがない。喉がひくりと鳴る。息の仕方を一瞬忘れた。そこにいたのは、記憶の奥底に幾重にも封じ込めたはずの姿。何度も、思い出しては押し戻した顔。
『カカシ先輩』
呼ばれた瞬間、時間が止まった。何度も聞いた声、抑えた声色、淡々としているのに、どこか優しい口調。忘れるはずがなかった。彼女が、そこにいた。霧も、戦場も、刃の音も、一瞬ですべてが遠ざかる。現実だけが遅れて胸に落ちてきた。
彼女は、生きていた。
