アイ・オープナー
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『この後、暇?』
今日も、1日空いていたので、邪魔にならない程度に彼女へ会いに病院へ足を運んでいた。あの出来事から、俺への接し方がほんの少し、少しだけ柔らかくなったのは気のせいではないだろう。今が推しどきかなと、変わらず続けていたところだった。一瞬、思考が止まる。
そんな一瞬の喜びは、彼女と顔を合わせるその瞬間まで続いた。我ながら、情けない。
『デート?何言ってるの、あなたとするわけないでしょ』
光の下であっさりと言い切られたその言葉は、思った以上に胸に刺さった。……ああ、そうだよね。彼女が俺を呼び出した理由は至極真っ当だった。護身術を教えてほしい。それだけ。
場所は第三演習場。目の前に立つ彼女はいつもと違う。動きやすそうなスポーティーな服で、髪もきちんとまとめていた。正直に言えば。少しいいように使われている気はする。けれど、この機会を何事もなかった顔で流せるほど、俺は出来た人間じゃない。
『何から始め……ちょっ……急にっ……!』
「実践あるのみ、だよ」
背後から、よくある襲われ方であろう抱きつき方をする。一応練習と言うことで実践的な形にはしておいてやる。まあ、付き合っているから、これくらいは許されるだろう。そう思った、次の瞬間。視界がぐるりと回った。
背中に伝わる地面の冷たさ、抜けるような青空。そして、その縁に映るしてやったり、という顔の彼女。何が起きたか理解するより先に俺はその姿に見惚れていた。
『舐めてる?言ったでしょ。父が忍だったって』
「……そーいえば、そうだったね」
立ち上がりながら、土埃を払う。
内心では、素直に感心していた。
「じゃあ、少し本気でいこうか」
ほんの少しだけ目の色を変えたが、彼女は怯むどころか真っ直ぐ構えた。やってみると、よく分かる。筋がいい。それに、彼女のこの動きはどこか懐かしい。記憶の奥をくすぐられるような、不思議な感覚だった。
『んーー……こ、れは……ギブ』
腕の中で苦しそうに息をする彼女。
名残惜しさを誤魔化しながら、拘束を解いた。
「これだけできれば、十分すごいよ。それにしても……根性あるね。半日ぶっ通しなんて」
『まだ……まだ、物足りないよ』
「ストイックだねー」
そう言いながら、彼女は地面に仰向けになった。
土の汚れも気にせず、ただ空を見上げている。その無防備さが妙に目につく。少し遅れて俺もその隣に腰を下ろした。触れそうで触れない距離。
「まあ、名前ちゃんの護身術なら、下忍、隙をつければ中忍くらいはどうにかなりそうだね。……でも一番大切なのは、助けを呼ぶこと」
『……知ってるわ』
「あのね、それ。嘘だってすぐ分かる」
視線を向けると、彼女はほんの少しだけ顔を背けた。
「名前ちゃんは根っからの頑固者だ。本当に。……だから、約束して、ちゃんと人を呼んで」
『頑固者って言い方、腹立つわね』
拗ねたような声音。
それでも、すぐに息を整えて続ける。
『約束はできないけど……努力はするわ。今日は、付き合ってくれてありがとう』
その一言が意外だった。
胸の奥に、柔らかいものが落ちる。
「……まあ、俺も」
一瞬、言葉を選ぶ。
「許可のもとで、君に触れられたからね。ありがたい話だったよ」
『…………』
空気が止まる。
さすがに、冗談が過ぎたかと思った、そのとき。
『ふふ……あははは』
小さな笑いが零れ、やがて無邪気な声になる。
『本当に、変な人』
その笑顔を見た瞬間、思考より先に身体が動いていた。彼女の手首を取る。布越しに伝わる、確かな温度。驚いた瞳がこちらを映し、すぐに細められる。抵抗はない。ただ、試すような視線。俺は、苦笑するしかなかった。
「……さすがだね」
『だから、舐めるなって言ってるでしょ』
「……本当に、君には敵わない」
降参するように両手を上げ、ゆっくりと離れる。俺が触れていたのは、彼女の手のひらだった。握ることも、引き寄せることもできる距離。けれど、そうしなかった。
触れた瞬間、分かってしまったからだ。簡単に手に入る相手じゃない。だからこそ、目が離せない。厄介で、面倒で。それでも、どうしようもなく惹かれてしまう相手だと。
