アイ・オープナー
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『……っ……』
彼が私の全身を撫で回す。触れるたび声にならない息が漏れた。自分のものじゃない感覚が、勝手に呼吸のリズムを狂わせる。胸が上下するたび、空気が重い。酸素が足りないわけじゃないのに、苦しい。
「名前ちゃん、素直になったらいいよ」
耳元で囁かれた声に、背筋がひくりと跳ねた。距離が近いだけで、体が反応するのが分かる。それが、何より気持ち悪い。
『はっ……っ……気安く……名前を呼ばないで』
息が上手く続かないけれど、声だけは震わせたくなかった。
「……いつまで強気でいられるかな」
『どうして……私に執着するのよ……女なんて、いっぱいいるでしょ』
後輩だってそうだ。この男は周囲からの評価も高く、望めばいくらでも相手はいるはずだ。わざわざこんな真似をしなくても。どうして私なのか。
「なぜ君かって?……そんなの決まってるだろ」
耳元で笑う気配。
「君だけなんだ。僕を拒絶するのは。僕に手に入らない女はいない。だから、手に入れる。それだけだよ」
ああ、狂ってる。そう思ったのに次の瞬間、不意に別の声が胸の奥に蘇った。〝最近は君のこと考えてるよ〟あの人も、私が手に入らないから執着しているだけなのかもしれない。執着の正体が見えた途端、胸の奥に渦巻いていた熱がすっと冷えた。
「体はこんなにも正直なのに」
『ンッ……っあ…』
彼の指先が触れたその瞬間、嫌でも思考が現実へと引き戻された。冷たいはずの指なのにそこだけが焼けるように熱い。
「ハァ…ハァ……どんどん溢れてくるよ、嬉しいなー。僕で感じてくれてるんだね」
『…はっ…下手くそよ…このクズ』
「君は…僕を煽る天才だね」
『ッ⁉︎』
彼の顔が足の間に潜り込み、ぬるっとした感触に体が小さく跳ねる。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ……そう思うのに体は言うことをきかない。気持ち悪いはずなのに、抗えない何かが内側からじわじわとせり上がってくる。
『アッ……ンン………アアッ‼︎』
声にならない音が喉の奥で擦れる。次の瞬間、体が大きく跳ねた。自分の意思とは関係なく反射的に。息が乱れる。吸っても、吐いても、足りない。視界が揺れて、焦点が合わない。荒くなった呼吸を抑え込もうと歯を食いしばった。
「……そんなに、気持ちよかったかい」
『はっ……はっ……ドーピングで一回、逝かせたくらいで……なに喜んでるのよ』
吐き捨てるように言ったつもりだった。けれど、息が追いつかない。喉がひりつき、声が途中で掠れる。言葉の端が震えているのを自分でもはっきりと自覚していた。
「大丈夫。これからが本番だよ」
くすり、と笑う気配。それだけで心臓が嫌な音を立てて跳ねる。視界の端で影が揺れ、それだけなのに反射的に肩が強張る。距離が詰まるのが分かり、下腹部に押し当てられたモノ。逃げなきゃ、と思うのに体が言うことをきかない。まるで、勝手に“覚悟”してしまっているみたいで、喉の奥がきゅっと詰まった。
息が、浅くなる。
肺に空気が入らない。
『……やめ……』
声は、途中で掠れた。逃げなきゃ。頭の中で、何度も、何度もそう繰り返している。なのに、指先に力が入らない。必死に膝へ力を込めたはずなのに、体は思ったほど動かず、シーツの上を情けなく滑るだけだった。自分の意思と身体の反応がまるで噛み合っていない。
違う。こんなの、私じゃない。焦りだけが先に膨らみ呼吸が浅くなる。視界の端がじわりと滲んだその瞬間、不意に記憶がよぎった。
〝自分から動かなきゃ、守れねーよ〟
〝ピンチの時は、人を呼ぶこと〟
胸の奥で、その言葉が微かに反響する。
あの声。
あの背中。
記憶の奥に焼きついた輪郭が、ぼんやりと重なる。
「さあ……楽しもうよ名前ちゃん。君は僕のものだ」
近づいてくる気配に、反射的に顔を背けた。けれど、逃げ場を失った熱は、行き場もなく体の内側に溜まり続ける。皮膚の下で、じわじわと広がっていく感覚。視界が滲み、輪郭が溶ける。時間の感覚が、少しずつ歪んでいった。
「誰にも渡さないよ……」
理性が、音を立てて削られていく。
それが、はっきりと分かった。
ダメだ。
そう思った瞬間、喉の奥から、掠れた声が弾けた。
『――――!!』
必死だった。何を叫んだのか、自分でも分からない。ただ、肺の奥に残っていた力を、全部吐き出した。それだけ。それだけは、はっきりと覚えている。
