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2週間に一度。
気づけばそれが当たり前になっていた。
三軒目。しかも、よりにもよって脂こってりの二郎系ラーメン。俺の胃はもう限界を訴えているっていうのに、向かいの席では、名前さんが何の迷いもなく箸を進めていた。湯気に包まれて、眼鏡が完全に曇っている。それでも構わず、もやしも麺も、にんにくも全部まとめて豪快に口に運ぶ。
……マジかよ。俺はというと、あっさりラーメンを前に、ほとんど箸が止まっていた。胃が重いってのもあるが、それ以上に、目の前の光景だけで妙に腹が膨れる。
「……よく入るな」
『ここのは別腹なのよ』
何が別だ。そう思いながらも、否定する気は起きなかった。うまそうに食う人間を見るのは、案外悪くない。それに好意がある人なら尚更だ。二週間に一度の飯は、だいたいこんな感じだ。仕事の話、任務の愚痴、里のどうでもいい噂。たわいもない話ばかりで、深いところには踏み込まない。少なくとも最初は。
『あの人さ、本当に信じられないんだけど』
来たな、と内心で思う。
『人の神経逆撫でする天才だと思わない?自覚ないのが一番タチ悪いのよ』
箸を止めずに、淡々と吐き捨てる。
「……誰の話だよ」
分かっていて聞く。
いや、分かっているからこそ確認した。
『決まってるでしょ。はたけカカシ』
やっぱりな。ここ最近、彼女の口から出てくる愚痴は、ほぼそれ一色だった。最初は軽口だった。次は不満。今は感情の置き場を探している感じ。…面倒くせぇ。そんな言葉が浮かびかけたところで、別の記憶が脳裏に引っかかった。
「よ、色男」
「やめてくださいってば」
任務終了後、火影様に報告も終わり帰るところだった。軽口を叩きながら、やけに真面目な顔でアスマは言った。
「お前に忠告しておこうと思ってな」
「なにをすっか?」
「カカシが看護師って気づいたぞ。奪われんなよ」
一瞬、意味が飲み込めなかった。
次の瞬間、ああ、と妙に腑に落ちた。
「はー……彼女、嫌がってるんすよ。アスマがカカシさん止めてやったらどーすっか」
冗談半分、逃げ半分でそう返した俺にアスマは煙を吐きながら肩をすくめた。
「そら無理だ、多分」
即答だった。珍しく茶化しもない。
「本気で狙いにいってる。ここまで執着するのは初めてだ。まあ、頑張ってくれ。たまにはあいつの負けた顔が見てみたいからな」
「…まあ……めんどくせぇって言ってられない時もありますね」
自分でも意外なほど、素直な言葉が出た。その瞬間、アスマが一瞬だけ目を見開いたのを、俺は見逃さなかった_______
「めんどくさい人に目つけられましたね」
それだけ返すと『ちゃんと相談に乗って』と不満げに睨まれので、仕方なく相槌を打ちながら最後まで話を聞く。一応、頭は回した。どう立ち回るのが一番穏便かどこで線を引くべきか。けど、正直なところ決定打はない。相手が悪すぎる。理屈だけでどうにかなる相手じゃない。
店を出ると夜風が肌に当たった。脂の匂いがまだ服に残っている気がして、無意識に肩を回す。
『あー……眼鏡、まだ曇ってる』
街灯の下で見ると、レンズの端がうっすら白いままだった。
「そのままでも見えてるだろ」
『見えてるけど、気持ち悪いの…あっ』
その声に視線を向ければ、眼鏡のツルが髪に引っかかっていた。細い髪が絡んで、動かせば動かすほど余計に外れなくなる。
『……あれ』
困ったように眉を寄せる。その仕草が妙に無防備で、俺は反射的に口を開いていた。
「……動かないでください」
『え?』
「俺がやります」
そう言って彼女の前に立つ。気づけば、吐息がかかるほど近かった。近すぎると自覚した瞬間、心臓が一拍、変な音を立てる。眼鏡に絡んだ髪をほどくために指を伸ばす。触れないように、慎重に。なのに、彼女の体温だけがやけに伝わってくる。
甘い匂いがする。シャンプーか、柔軟剤か、それとも……いや、考えるな。頭でははっきり分かっているはずなのに、どうしても視線が逸れなかった。伏せられたまつ毛。その奥にある表情を、無意識に追ってしまう。近くで見ると、どんなに野暮ったい格好をしていても、誤魔化しきれないものがある。胸の奥がざわつき、理由を探す前に息をひとつ飲み込んだ。
『……なに?…え、もしかして…のりついてる?』
冗談めいた口調。いつもの軽さ。
「……いや、可愛いなって」
言葉がするりと出た。自分で言っておいて、逃げ場がなくなる。それでも視線は逸らさなかった。一瞬、空気が止まる。彼女の喉が小さく動く。冗談として流すには少しだけ間が長かった。
『……なにそれ。一応、シカマル君より年上だよ? 可愛いって歳でもないでしょ』
そう言いながら視線を逸らす。
けれど、耳がほんのり赤い。
「冗談じゃないっすよ」
絡んでいた髪を外し、眼鏡がするりと解放される。それを彼女に返すと、彼女は慌てたように受け取りかけ直した。
『年上をからかわないの。シカマル君の場合は…タチが悪いから』
「なんすか、タチが悪いって」
『……本心で言ってるのがわかるから』
そう言って歩き出す背中は、いつもと変わらない。けれど、歩幅がほんの少しだけ速いのを、俺は見逃さなかった。……少しは、意識してくれただろうか。
そんなことを考える自分に内心で苦笑する。二週間に一度、並んで飯を食って、たわいもない話をして、愚痴を聞いて。その距離がいつの間にか〝足りない〟と思い始めている。
追うつもりはない。急ぐ気もない。けれどこのまま、ただの〝飯友達〟で終わる気もどうやら無いらしい。二週間に一度じゃもう足りない。
