アイ・オープナー
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任務でチャクラを使いすぎ、そのまま倒れて入院。そんな間抜けな夜、頭がまだ重いままゆっくりと上体を起こした、その時だった。
「よう、お前がぶっ倒れるなんて珍しいな」
「本当に。しかも昨日の話、笑いすぎてお腹痛いんだけど」
賑やかな声が、遠慮なく病室に流れ込んでくる。顔を見るまでもない。声だけで分かるし、何を言いに来たのかも、嫌というほど察しがついた。
「あのカカシが、初対面の女に酒ぶっかけられてんのよ」
「そんな目の肥えた子がいたのね。ちょっと興味あるわ」
笑いを噛み殺すような声に、さらにもう一人が加わる。紅まで楽しそうに肩を寄せてくるのを見て、思わず小さく息を吐いた。人の不幸は蜜の味、ってやつだろうか。チャクラ切れで倒れたことより、よほどタチが悪い。
「……ここ、病院だからね。少し静かにしたら?」
そう言った、ちょうどその時だった。コンコン、と控えめなノック音が病室に響く。
「失礼します」
入ってきたのは看護師だった。眼鏡に、きっちりとまとめられた髪。派手さとは無縁なのに、背筋の伸びた立ち姿と、落ち着いた雰囲気がやけに目を引く。
「病室ではお静かにお願いします」
静かで、それでいて芯のある声。たった一言で空気がすっと引き締まった。アスマと紅は顔を見合わせ、肩をすくめる。
「…すみません。じゃあ、また来るわ」
「お大事にな」
小声でひそひそと笑い合いながら、二人は病室を出ていった。扉が閉まり、音が遠ざかる。途端に病室は嘘みたいに静かになった。今日は、この子か……。胸の奥が、ごくわずかにざわめいた。彼女が初めて担当についた日のことを、ふと思い出す。あれは、何気ない一言だった。いつもと同じ調子で、ただ声をかけただけ。
「ここ、最近忙しそうだね。ちゃんと休めてる?」
挨拶のつもりだった。それ以上でも、それ以下でもない。けれど、返ってきたのは驚くほど温度のない言葉だった。
『プライベートは、あなたに関係ありませんよね』
一瞬、言葉に詰まった。あの一言はさすがに堪えた。それ以来、彼女が担当だと分かると胸の奥がざらつく。冷たいとか、無愛想というより、本当に、必要なことしか言わない人。
処置のために距離が近づいても、表情は微動だにしない。手際は正確で、無駄がなく、視線も淡々としている。その空気がどうにも居たたまれなくて。気づけば、こちらから口を開いていた。
「……ごめんね。迷惑かけて」
『いえ』
返事は短い。柔らかさも、棘もない。ただ事実だけを返す声音。沈黙が落ちる。消毒液の匂いと、器具が触れ合う小さな音だけが、病室に響いていた。ふと、視線が手元に吸い寄せられた。
彼女の指先は驚くほど丁寧だ。ゆっくりで、迷いがなく、確実。他の看護師たちが雑談に気を取られ、手元が雑になることがあっても、この子は一秒たりとも集中を切らさない。そんなことを考えているうちに、思わず声が漏れていた。
「……丁寧だね」
その瞬間、彼女の指先がぴたりと止まる。
…あ。また、余計なことを言ったか。そう思ったが、返ってきたのは予想とは違う言葉だった。
『……当たり前ですよ』
そっけない返事。感情の起伏もない、いつもの声音。なのに、うつむいた拍子に揺れた髪の隙間から覗いた耳が、かすかに赤い。普段の態度との、あまりにも小さな、けれど確かな違い。それに気づいた瞬間、胸の奥が、じん、と熱を帯びた。
処置が終わるまで、再び静かな時間が流れた。けれど、さっきまでの張りつめた空気が、ほんの少しだけ和らいだ気がするのは、気のせいだろうか。
『では、失礼します』
そう言って、扉へ向かいかけた彼女がふと足を止めた。
『風邪じゃなくて、よかったです』
振り返ることもなく、それだけを残して静かに去っていく。彼女の方から、ああして言葉を投げてくるのは珍しい。どういう意味だろう、と考えた瞬間、昨日の光景が唐突に脳裏をよぎった。
……そういえば。酒、かけられたんだった。
あの時、彼女も同じ店にいた。つまり、見られていたということか。よりによって、あの子に……。思わず顔を両手で覆いたくなる。けれど、最後に目に焼きついた、かすかに赤い耳がどうしても頭から離れない。
ゆっくりと目を閉じる。
胸の奥に残った、あのじんわりとした熱だけが、
静かに、確かに、広がっていった。
