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翌日の夜勤開始前。今日担当する患者のカルテに目を通していた私は、ある名前を見た瞬間、心臓が強く跳ねた。
〝はたけ カカシ〟
視線が文字の上で止まる。なぜ動揺したのか、その理由ははっきりしていた。昨夜、酒をぶっかけてしまった相手。思い出しただけで背中にじわりと嫌な汗が滲む。恐る恐る、カルテの内容を覗き込んだ。
『軽傷、チャクラ切れ』
……よかった。と、思わず胸を撫で下ろす。もし“重傷”なんて書かれていたら、罪悪感で今日一日、まともに仕事ができなかったかもしれない。それでも、安堵と同時に昨晩の光景が否応なく蘇る。濡れた髪、驚いた目、静まり返った空気。自業自得だと分かっているのに、心の奥が落ち着かない。
昨日の夜、私はひどく苛立っていた。仕事中、医療忍者から尻を触られるという最低なセクハラを受けたばかりだった。あんなことをされれば誰だって怒りたくもなる。胸の奥に溜まった苛立ちを抱えたまま、店にいた時だ。追い討ちをかけるように、あの銀髪の男、はたけカカシが声をかけてきた。
最初は断った。それでも、距離を詰めてきて、軽い調子で肩に触れようとした。その瞬間だった。抑えていたものが音を立てて崩れた。理性も、判断も、全部置き去りにして、ただ感情だけが前に出る。気づけば、手に持っていた酒を振り上げていた。最悪だ。あとになって、ほんの少しだけ反省した。常識的に考えれば、やりすぎだったと思う。
でも、理由はひとつじゃない。私は忍が嫌いだ。父は立派な忍だった。誇り高く、誰より強く、誰より優しかった。けれど、忍の世界に呑まれ、最後は帰ってこなかった。父を尊敬していた気持ちと、忍という世界に奪われた痛みが、今でも胸の奥で絡まったままほどけない。
そしてもう一つ。はたけカカシ。会う前から噂で耳にしていた。優秀な忍。その一方で、女関係にはだらしなく、手が早いクズ。それが、私の中の彼の印象だった。バーで見たときも、病室で見たときも、その認識が揺らぐことはなかった。むしろ確信に近づいたくらいだ。
だからこそ、昨日はあんな行動に出てしまった。彼ひとりが原因じゃない。いろんなことが積み重なって、あの瞬間、許容できなくなったのだ。
そんな私がなぜ、忍が集まるあのバーへ行くのかというと、理由は単純。あそこは酒も料理も美味しい。仕事で嫌なことがあった日も、嬉しいことがあった日も、あそこは私の“小さなご褒美”だった。
だからこそ、昨日の件で出禁になってしまったのではないかという不安が、今も心を重くしている。もう、あの店に行けないのだろうか。そんなことを考えているうちに、はたけカカシがいる病室の前へ着いた。扉の向こうから複数人の話し声が、賑やかに漏れてくる。
……また、忍か。
小さく息を吐き、気持ちを切り替える。無意識のうちに胸の前で指先を揃えた。仕事のスイッチを入れるためのいつもの癖。
もう一度、深く息を吸い込む。
そして、私は扉へと手を伸ばした。
