アイ・オープナー
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それは、さすがに忘れようがない強烈な出会いだった。
ポタ……ポタ……と、髪先から重たい酒が滴り落ちる。頬を伝い首筋へと滑り落ちる感触がやけに生々しい。甘ったるく、鼻の奥に絡みつくような匂いに、思わず息を吐いた。
『触んないで!』
真正面から叩きつけられた声は、鋭く、刺すようだった。酒をかけてきた張本人、目の前の女はこちらを睨み上げている。濡れたまつげの隙間から覗く瞳は、ぎらつき震えている。ただの怒りじゃない。まさに獣のように、警戒と必死さと…少しだけ傷の匂いが混じっていた。
その時の俺は、なぜか言葉より先に“直感”だけが働いた。濡れた前髪の隙間から、再び彼女を見下ろす。視線が絡んだ、その一瞬。
あぁ、たぶん。
この女とは、しばらく関わることになる。
根拠なんてどこにもない。
ただ、胸の奥がざわついた。それだけだった_____
ナルトは自来也様と修行の旅に出た。サクラは綱手様のもとで、医療忍者としての道を選び、サスケは…もう、言うまでもない。実質、俺の班は解散状態だ。そのせいで、単独で招集される任務が増えた。今日はゲンマとのツーマンセル。無難で、淡々とした仕事だったはずなのに、終わってみれば、神経だけがじわじわとすり減っている。報告を済ませ建物を出る。すべてが終わり、ようやく肩の力を抜いた、その瞬間だった。
「よぉカカシ。今日、ちょっと面白ぇ噂があってな」
聞き慣れた低い声に足を止める。振り向かなくても誰だか分かった。はいはい、と心の中だけで相槌を打つ。アスマが“面白ぇ”と言い出す時は、大抵ろくな話じゃない。
「へぇ、今度はどんな女の噂?」
軽く返すと、予想通りアスマは口元を歪めて笑った。
「〝薔薇姫〟って呼ばれてる女”。知らねぇか?」
「んー?記憶にないね」
本当に覚えがなかった。
それなのに、アスマはすぐにニヤついてくる。
「手が早いお前が知らないのは意外だな。知らずに食ってんじゃねぇか?」
「…やめてよ、そういうの。心当たりが多いみたいに聞こえるでしょ?」
軽く笑って誤魔化す。否定するほど潔白でもないし、肯定するほど正直でもない。
「今日ちょうど現れる日らしい。会えるかは運次第だが…行ってみようぜ?」
「ま、暇だし。こういう遊びに付き合うのは嫌いじゃないよ」
そうして向かったバーは、任務帰りの忍がよく立ち寄る場所だった。軽く飲んで、軽く遊んで、軽く流す。俺にとってはそれだけの場所だ。しばらく待っても噂の〝薔薇姫〟と呼ばれる女は現れない。グラスを傾けながら、アスマがわずかに肩を落とした。
「……今日は外れかもな」
「ほらね。噂の女なんて、大抵は男が勝手に盛った話だよ」
そう言いかけた、その瞬間だった…カラン、と乾いた音を立てて扉が開く。夜の空気をまとった黒い影が、静かに店内へと流れ込んできた。最初に目に入ったのは、黒。艶のある黒髪のロングヘアが、歩くたびにさらりと揺れる。身体のラインを際立たせる黒い服、細い腰、長い脚。
あぁ、噂は本当だったらしい。思わず苦笑が漏れる。美人、という言葉では足りない。綺麗すぎる。男連中が勝手に“姫”なんて名前をつけるのも、無理はない。隣でアスマが肩肘で俺をつついた。
「どうだ? お前のタイプだろ」
「さぁ? タイプとか、あんまり気にしないんだよね……綺麗なら、誰でもいいってだけで」
その言葉に、アスマは呆れたように息を吐き、苦笑した。
だが、この時の俺はまだ知らない。
彼女が〝薔薇姫〟と呼ばれる由来を。そして、その女が数分後、何の前触れもなく俺に酒をぶちまけてくることを。
さらに言えば、そこから先がひどく厄介で、どうしようもなく忘れられない始まりになることも。
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