中忍選抜試験編 前編
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『……』
カカシ「…………」
『……』
沈黙が落ちる。
気まずいわけでもないのに、どこか妙に間が持たない。
カカシ「今日は、誘ってくれないと思ったよ」
ぽつりと零すと、名前はきょとんとした顔でこちらを見る。
『え、だって、私が帰ってくるの待ってたんでしょ?』
一瞬、言葉に詰まる。俺が口にすることはあっても、ここまであっさり言い返されることは少ない。しかも、年の離れた相手に。思わず笑いそうになるのをなんとか堪えた。
『監視対象だとわかってるんですけど、みんなに追いつきたくて、つい時間を忘れちゃうんですよね。疲れが顔に滲み出てるので、修行に付き合ってもらってるお礼も兼ねて』
カカシ「くく…滲み出てる、か。はっきり言われると、面白いもんだね」
肩を揺らしながら笑うと、名前は少しだけ眉をひそめた。ああ、そっちの意味か。一瞬、別の意味で受け取った自分に、内心で苦笑する。ほんと調子が狂う。素直すぎるというか、遠慮がないというか。
『バカにされてます?』
カカシ「いや、いい意味での面白いだよ」
『……そうですか?』
カカシ「うん、気にしないで」
そう言って、軽く頭に手を乗せる。少し乱れた髪を撫でると、振り払われはしないが、じとっとした視線が返ってきた。
『もう少し早く帰りますね』
そう言った名前の方を見て、さっきの言葉を思い出す。〝みんなに追いつきたい〟。向上心の塊みたいな言葉を、あんな風にあっさり口にする。それを聞いてしまった以上、放っておく気にもなれない。まぁ、それも俺の役目か。
カカシ「いや、いいよ。好きなだけ修行しておいで」
考えるより先に言葉が出ていた。即答した俺に、なぜか名前はわずかに目を細める。
『……まさか、女性との時間を増やしたくて』
疑うような視線。
カカシ「うん。違うよ」
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アスマ「おい、聞いてんのか?」
カカシ「聞いてるよ。で、何?」
試験の待機場で、いつもの本を閉じながら、ようやく声の主へと視線を向ける。
アスマ「いや絶対聞いてねーだろ。部下が心配で心ここにあらずって顔してるぞ。……今年の第一試験官、森乃イビキだからか」
カカシ「よりにもよって、あのサディストか」
軽く肩をすくめながら答えると、アスマは呆れたように息をついた。
アスマ「そういやさ。お前んとこの〝お気に入り〟も推薦したって聞いたぞ。忍術覚え初めたの二か月前だろ? 来年でもよかったんじゃねーのか」
カカシ「名前のこと? 別にお気に入りじゃない。ただ、本人が〝出たい〟って言ったから出すだけ」
ここ数週間、ナルトたちのレベルに追いつくため、任務も修行もまとめて叩き込んできた。そのせいか、里では妙な噂まで立ち始めているらしい。
〝はたけカカシにお気に入りができた〟
本当に、勘弁してくれ。
アスマ「付き合い悪いと思ったら、毎日あの子と一緒とはな。そりゃ嫉妬する奴も出るわ」
紅「最近、妙に静かだった理由が分かったわね」
カカシ「うるさいな。俺を何だと思ってるんだよ」
アスマ・紅「すけこまし」
間髪入れずに重なった声に、一瞬だけ言葉を失う。
カカシ「……ひどくない?」
小さく息を吐きながら返すと、二人はどこか楽しげに肩をすくめた。否定するのも面倒だが、放っておけば話は勝手に広がっていく。とはいえ、否定しきれないのもそれはそれで面倒だ。けれど、このまま妙な噂が広まれば、俺に対する印象が大きく変わる。さすがに、それは看過できない。否定するところは、しっかり否定しておくべきだろう。
アスマ「冗談だって。で、本当に大丈夫なのか? 前は忍術すらまともじゃなかったろ」
その言葉に、ふと以前の光景が脳裏をよぎる。アスマ班に連れていった時のことだ。あの頃は緊張で技も出せず、会話もぎこちなく、今とは比べ物にならないほど不安定だった。けれど。
カカシ「若い子の成長は、侮れないよ」
そう答えると、アスマは一瞬だけ目を細めて、じっとこちらを見た。
アスマ「……ほらな。やっぱお気に入り」
完全に面白がっている顔だった。
