遙かなる再会の章
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カカシ「サイだったかな? 男女の距離の縮め方が分からないなら、この本を読んだらいいよ」
そう言って、愛用のイチャイチャパラダイスを差し出すと「ありがとうございます」と素直に手に取った。この病室に入った直後こそ、わずかに緊張の色。いや、観察するような視線を向けられていた気がしたが、今回の任務の報告を終え、本を渡す頃にはその警戒もいくらか解けていた。少なくとも、思っていたほど警戒する必要はなさそうだ。
そして、再び皆でサスケを連れ戻す意思を確かめ合ったあと、ふと名前へと視線を向けた。それにしても、本当に敵味方関係なく人を引き寄せる子だ。そう思うと同時に、どこか底知れない恐ろしさも感じる。
今回の任務で、サスケが名前を襲ったとも聞いている。首元や袖の隙間から覗く肌に、隠しきれない赤い痕が残っていた。それが妙に生々しく目に入る。視線を外すべきだと分かっていながら、ほんの一瞬、目が留まった。
カカシ「それと、名前。身体は大丈夫なんだよな?ちょっと付き合って」
できるだけ軽い調子で声をかける。余計な警戒をさせないように。手招きすると、彼女は首を傾げながらも素直についてきた。廊下を歩きながら、さりげなく周囲を確認する。人目を避けるように進み、そのまま屋上へ向かう。扉を開けると、案の定そこには誰もおらず、風が抜ける音だけが静かに響いていた。柵に背を預けながら振り返ると、少し遅れて彼女が足を止める。
『人気がないところでしか話せない内容ってことですね』
カカシ「そーゆこと。察しがよくて助かるよ。要件は二つだ。まず一つ。ヤマトから聞いた、お前の新技について。お前自身の言葉で説明してもらおうと思ってな」
〝魂写〟自分の体に他の魂を写す術。それでナルトの尾獣化を抑え込んだと聞いた。尾獣を制御できる人間は限られている。初代火影の木遁を使えるヤマトの抑制力。だが、それと同等、あるいはそれ以上のことを、別の方法で名前にもできるのなら、ナルトの抑止力。それだけじゃない。木ノ葉にとっても、無視できない戦力になる。そう考えていた。
『…イザナミの力は、そう何度も連発できるものじゃないです』
返ってきたのは、思っていたよりも冷静な声だった。
『彼女は強すぎて、今の私のキャパシティを簡単に超えてくるので……使用後は無防備になることが多い。リスクが高すぎる術です』
カカシ「それでも、九尾の力を抑え込むくらいの力はあるんだろ」
『あれは、抑え込むと言うより……純粋に、力でねじ伏せに行った。と言った方がしっくりきますね』
それも十分すごいことだ、と内心でそう呟きながらも、〝大きすぎる力には、それ相応の代償が伴う〟という現実を改めて突きつけられる。
『あと、連発できない理由がもう一つあります。彼女が「出せ」と言った時しか、使えません』
術者の意思じゃなく、術そのものに意思がある。また厄介な術でもありそうだなと、乾いた笑いが漏れた。けれど思考は止めない。
カカシ「それと、九尾に対して〝久しい〟と言っていたそうだな。どのくらい前に生きていた人なんだ」
その問いに対して、名前はわずかに視線を逸らしたて、口を開きかけて閉じる。沈黙のあと小さく諦めたような声で話し始めた。
『…分かったから。メチャクチャにしないで下さいね』
カカシ「……なにを」
まるでここに別の誰かがいるような口ぶりだった。問い返すより先に空気が変わる。
『魂写 イザナミ』
片手で印を結んだその瞬間、名前の身体がわずかに光を帯びた。強い光じゃないけど、確かに“何かが切り替わる”気配がする。チャクラの質が変わる。ゆっくりと持ち上がる顔。開かれた瞳はほんのわずかに、色が違って見えた。
カカシ「イザナミ……でいいのかな」
慎重に呼びかける。目の前に立っているのは名前のはずなのに、纏う空気がまるで違う。無意識に距離と間合いを測っていた。
『父親に似て察しのいい男だ。それに加えて、私に対して生意気な口の態度。本当にいい男達だな』
軽く笑うような声音。だがその一言で背筋に薄く緊張が走る。父さんを小馬鹿にした態度。一体どの時代の人間だ。喉元まで出かかった言葉を飲み込み、代わりに息を整える。生意気な口と言われた手前、余計なことを言って相手を怒らせたくはない。女性に年齢に関することを聞くのはタブーだ。それに、他にも聞き出したいことは山ほどある。
カカシ「それは失敬。まだあなたの事をよく知らなかったものでね」
肩をすくめて見せる。できるだけいつも通りの調子で。
カカシ「で、こうして出てきていただけたってことは……いろいろ話してくれる、ってことでいいのかな」
『嫌だね』
即答だった。わずかな間もない。
『私はただ、サクモの息子であるお前を、直接この目で見たかっただけだ』
カカシ「……へ?」
思わず間の抜けた声が漏れた。自分でも分かるくらいらしくない反応だったが、それだけその言葉は予想外だった。けれど、同時に向けられた視線は冗談などではなく、まっすぐで迷いのない本気のものだとすぐに分かる。どうしたものかと考え、一瞬だけ視線を下げたその時だった。
『それにしても……やっぱりいい男だな。マスクをしているのが勿体無い』
声は前ではなく、後ろから聞こえた。反応するよりも早く、すっと背後から伸びてきた手がマスクに触れ、そのままゆっくりと引き下ろされる。
カカシ「っ……」
遅れた、と理解した時にはもう遅い。ゆっくりと顔だけ振り返ると、さっきまで前にいたはずの彼女が、いつの間にか背後に回り、手すりに腰掛けてこちらを見ていた。その表情にはどこか愉しんでいるような余裕すら浮かんでいる。まさか、ここまで簡単に背後を取られるとは。気配も、殺気も、チャクラの乱れすら感じ取れなかった。完全に背中を取られていたのだと理解した瞬間、頬を一筋の汗が伝った。
『けど、サクモよりは下か……やつならこんな簡単に背後は取られていない。仲間だからと言って気を抜きすぎだな……いや、名前……だからか?』
そう言った彼女は意味深な笑みを浮かべ、こちらを試すように見つめてくる。
カカシ「……まだ万全な状態じゃないものでね。ご期待に添えず申し訳ない」
『ハハハ、安心しろ。期待なんてしていないからな。ただ……これからのお前の行動には大いに期待している』
愉快そうに笑いながらも、その視線だけは真っ直ぐにこちらを捉えたままだった。
カカシ「それはどう――」
問い返そうとした言葉は、途中で遮られる。
『これから、世は少し荒れるだろう。その時、この子を導くのはお前だ。それが、この子を世に出したお前の務めだ』
先ほどまでの軽さは消え、声音には重みだけが残っていた。その言葉は断定的で、逃げ場を与えない。〝世に出した〟その言い方にわずかに引っかかりを覚えながら、俺は彼女を見据えた。
