遙かなる再会の章
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サクラ「ほんとに……私はそんなに弱い女に見えたのかしら」
『いや……そうじゃないけど……ごめん』
思わず視線を逸らしながら、小さく返すしかなかった。ナルトとヤマト隊長の手当が終わった後、サクラは迷いなく私の元へ来た。逃げ場なんて最初からなかった。覚悟を決めて、サイに少し離れた場所に下ろしてもらう。正面に座るサクラの視線から逃げることはできない。
『……』
ゆっくりと布を緩め、胸元まで露わになる肌。そこに残る無数の痕。サクラはそれを視界に入れた瞬間、わずかに息が詰待った気がした。思わず目を逸らしてしまった。
サクラ「……」
何も言わず手当が始まるけれど、その手つきはいつもより少しだけ強くて、怒っているのが嫌でも伝わってきた。何か言わなきゃと思うのに言葉が出てこない。そんな中、沈黙を破ったのはサクラだった。
サクラ「ほんと、信じられない」
ぽつりと落ちた言葉を皮切りに、それは止まることのない文句へと変わっていく。
サクラ「ほんとに、酷くやられたわね」
『いや、傷はサスケじゃなくて……』
サクラ「サスケ君よ……こんなにたくさん……」
強く遮られる。サクラは視線を逸らさず、まっすぐにその痕を見ていた。
サクラ「……ほんとに、こんなことサスケ君らしくないのに……っ」
その声がわずかに震えていた。怒りだけじゃない。どこか、認めたくないような色が混じっていた。ふと手が止まり、ほんの一瞬だけ触れ方が優しくなる。
『……サクラ?』
サクラ「ほんっと、馬鹿なんだから」
すぐにそっぽを向いて、何事もなかったかのように手当を再開するけれど、吐き捨てるようなその一言は怒っているはずなのに、やけに柔らかかった。
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無事と言っていいのか分からないが、誰一人欠けることなく木の葉へ帰還した。それでも無事という言葉がどこか軽く感じる。火影様への報告は、ひどく重苦しいものだった。
大蛇丸のアジトを一つ潰したこと。クローンの処理が済んだこと。成果が無いわけではないが、頭から離れないのはただ一つ、サスケとの圧倒的な差。思い出すだけで胸の奥がわずかにざわつく。
届かなかった声、触れられなかった背中。あの場にいた全員がそれを痛いほど理解していた。大蛇丸にサスケの体が乗っ取られるまで、残された時間はおよそ半年。短い、それはあまりにも短すぎる。ふと、シカマルが言っていた言葉が頭をよぎる。
シカマル「無茶はすんなよ」
『……無茶、か』
小さく呟く。そんなことを言っていられる状況じゃない。無茶をしなければサスケには届かない。今以上にもっと強くならなくちゃ。そう心に誓ったはずだったのだが。
『ねー、サイ……あなたここで何してるの。それと、なんで私のベットに入り込もうとしてるの。あなたのベットはそっちだよ』
木の葉病院の病室。任務の報告を終えたあと、私たちはそのまま数日間の入院を言い渡された。本来なら男女の病室は分けられるはずだけど、今、里ではウイルス性の風邪が流行していて、病室には限りがあるらしい。『気にしない』と言ったのは他でもない私だ。ナルトやサイと同室でも問題ない。話し相手もいるし、ちょうどいい。そう思っていたのだが。
サイ「いえ、特に問題はないと思いまして」
『あるよ』
即答する。何をどう考えたらそうなるのか、本気で分からない。
サイ「あの時の名前さんとサクラさんの関係…女の友情と言うんでしょうか。それに近づきたいと思ったんです。同じ任務をこなした仲ですし、距離を縮めるには――」
『縮め方がおかしい』
サイ「それに、あなたは先程まで弱っていて、僕の腕の中にいたじゃないですか」
淡々とした声。確かに彼の言う通りだった。今回の任務で、かなり消耗の激しい術を使い、さらには魂写でイザナミの力を使用しナルトの九尾化を抑えた影響は大きかった。それに加えてサスケに飲まされた薬のこともあり、自力で歩くのは困難な状態だった。
帰り道、ナルトに背負ってもらう予定だったのに、彼は「僕が運びます」の一点張りで、しょうがなく彼にお願いする事にした。終始ニコニコしていたような気もする。彼にしては用意周到だ。
サイ「看病という意味でも、近くにいた方が効率的かと」
『効率とかの問題じゃないからね。それに看病は看護師さんがしてくれるから』
はぁ、とため息をつく。横を見ると、ナルトは呆れた顔でこちらを見ていた。つまり、この状況を止める気はないらしい。布団をぐっと引き寄せる。
『……ちょっと、サイ。出てって』
サイ「断ります」
『なんで』
サイ「首にたくさんキスマークを付けた名前さんをみてると…。なんだか、勝手に体が動いてしまうので。男の本能というやつでしょうか」
さらりと言ってのける彼に呆れてしまう。素直すぎるセクハラ発言だ。彼に悪気がないことがわかるからこそタチが悪い。
『そういうことは思っても口にしないで。色々アウトだから』
サイ「何故ですか?仲を深めたい相手には正直に伝えるのが1番だと本で読みました。口にしないほうが、合理的ではないのでは?」
その一言に、ふと以前のやり取りを思い出す。彼の感情を引き出してみる、そう考えていたはずなのに。前言撤回。思っていた以上に面倒なことになりそうだった。話が通じない、心の底からそう思った。
『使い方が違っ……て、ちょ、』
私の言葉なんて意に介さず、サイはさらに距離を詰めてくる。思わず身を引き、押し返そうとしたその瞬間、ドンッ!!と、扉が蹴り破られるような音。あまりの勢いに、部屋にいた三人の肩が同時に跳ねた。反射的に視線を向けると、そこに立っていたのは。
サクラ「サ〜イ〜、私の管轄下で……いい度胸じゃない」
低く、底冷えするような声。ゆっくりと歩み寄るその姿に思わず背筋が凍る。サクラのこの顔は久しぶりに見た気がした。
サクラ「表へ出な!!しゃんなろーーーー!!!」
サイ「……?」
状況を理解していない顔のまま襟首を掴まれ、そのまま引き剥がされる。ほとんど拘束に近い勢いで押さえつけられていた。目に見えるほどの怒気、本当に頭から湯気が出ているんじゃないかと思うくらいだ。
サクラ「じっとしてなさい!!」
『……助かった……』
ぽつりと漏れた本音は、心の底からの安堵だった。サクラには本当に、いろんな場面で助けられてばかりだ。彼女が友達で良かったと改めて思う。ちらりと横を見ると、ナルトは苦笑いを浮かべている。うん、しばらくこの部屋は騒がしいままだろう。
