中忍選抜試験編 前編
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サスケの声も伸ばされた腕も、私には届かなかった。みんな無事でいて、そう願うことしかできなかった。
吹き飛ばされる勢いが弱まったのを感じ、目の前の木へ必死に手を伸ばすけれど、もうチャクラは残っていない。指先が樹皮をかすめるだけで支えきれず、そのまま地面へと叩きつけられた。
同時に複数の視線を感じた。ゆっくりと顔を上げると、そこには砂隠れと雨隠れの忍が向かい合っている。張り詰めた空気が肌を刺し、ひどく冷たい。胸の鼓動が耳の奥でうるさく響く。仲間の心配をしている余裕なんて、今の私にはもうなかった。
『アハハ……最悪』
カンクロー「次から次へと……」
ガアラ「関係ない。目が合った奴は、皆殺しだ」
淡々とした声の持ち主は、一次試験で見た赤髪の少年だった。額の〝愛〟の文字よりも、冷え切った瞳の方が強く印象に残っている。でも、その奥にほんの一瞬だけ、〝助けて〟と揺れる光を見た気がした。話せる機会があれば、そう思っていたけれど、そんな余裕もどこにもなかった。
戦闘が始まった瞬間、空気が変わる。雨隠れの忍が仕込み傘を振り上げ、無数の千本を放った。鋭い針が砂の忍へと襲いかかるが、彼は微動だにしなかった。次の瞬間、砂が彼の周囲で一斉に舞い上がり、千本を完全に弾き返す。その動きは、まるで意思を持った生き物のようだった。
怒りに任せ、雨隠れの忍がさらに攻撃を重ねるけれど、砂の防御は一切の隙を見せない。
ガアラ「千本の雨か…俺は、血の雨を見せてやろう」
その言葉と同時に砂が動いた。地面から這い上がるように広がり、一瞬で相手を拘束する。抵抗する間もなく絡め取られ、逃げ場なんてどこにもなかった。
「くそっ!くそっ!なんなんだよこの砂⁉︎」
ガアラ「砂縛柩・砂瀑送葬‼︎」
圧倒的な力だった。砂が締め上げ、雨隠れの忍の身体は音を立てて砕け散る。土煙の中、頬をかすめるように降ってきた赤い雨。
ガアラ「なぜ逃げない」
その声に、私はゆっくりと彼を見る。逃げようと思えばできたはずだったのに、体は動かなかった。どうしても、彼を放っておけなかった。背後ではすでに、残った雨隠れの忍二人が砂に拘束され苦しんでいる。もう彼に人を殺させたくない。
ガアラ「そいつらは、お前に関係ないだろ? 何で守る?」
『関係ない。でも……あなたに、これ以上、人を殺してほしくないの』
ガアラ「……なんだと?」
『あなた、気づいてる? 人を殺すとき……すごく、悲しそうな顔してる』
その言葉に彼は笑った。
冷たく、それでいてどこか怒りを滲ませた笑みだった。
ガアラ「訳がわからない……初めて会ったときから、お前は気に食わなかった。今、わかった。その目だ。その“お前の目”が……俺を苛立たせる」
彼が私を指差したその瞬間、砂がざわりと動き、私の周囲を囲い込んだ。
ガアラ「殺させたくないと言ったな? じゃあ、守ってみろ」
次の瞬間、一気に迫る砂に私は反射的に飛び上がることしかできなかった。だが、着地の隙を突かれ、砂の塊が横から叩きつけられる。腕で防いだはずなのに、衝撃はそのまま身体を吹き飛ばした。額の傷から流れた血が視界を滲ませ、肋骨にひびが入ったのか、呼吸のたびに胸が軋んだ。
『ハァ……ハァ…ハァ…』
ガアラ「……こんなものか。興醒めだな」
その冷たい一言が、容赦なく突き刺さる。
『っ……‼︎ やめてぇぇぇえ‼︎』
彼の腕が私の背後へと向き、願う間もなく鈍い音が響いた。赤い飛沫が視界に散り、頬に温かさが触れる。胸の奥がざわつき、鼓動が一気に速まる。視界がじわりと滲んでいく。
何もかもが、赤く染まっていくみたいに。
赤い……赤い……赤い……。
『だめ……そんなの……嘘……』
ガアラ「弱ければ、死ぬ。次は……お前だ」
赤。血。赤、赤、赤……死。
『私は……あなたを……たすけたい……』
心の中で必死に繰り返すのに声にはならない。彼の瞳から光が消えていくのを見て、今の私じゃ届かないと理解したその瞬間。
バンッ。
心の奥で扉が開く音がしたのと同時に、頭の中がふわりと軽くなる。さっきまでの重さが嘘みたいに消えて、代わりに妙な高揚感がじわじわと広がっていく。楽しい、なんて思うはずがないのに、まるで〝私じゃない誰か〟が、この状況を面白がっているみたいだった。
『真っ赤だねぇ〜〜』
零れたその声が自分のものなのか、それとも心の奥にいた〝誰か〟の声なのかわからない。私は一体、どうなってしまったのだろう。
