遙かなる再会の章
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ヤマト「大蛇丸に狙われている君が、ここから単独行動で任務を遂行する猶予時間は1時間だ」
低く、淡々とした声。
『ヤマト隊長、無茶言わないでくださいよ。私の相手、誰かわかってるんですか』
ヤマト「わかってるよ。君の任務は極秘任務だ。相手が誰かということも、ここが大蛇丸のアジトに近いということもね。1時間と決めたのも火影様だよ」
それで会話は終わった。そして今、ヤマト隊長とのやり取りを思い出しながら、ゆっくりと息を吐く。みんなと宿で別れ、得た情報をもとに辿り着いたこの空間へ、単独で踏み込んだ。目の前にいるのは、数年前の姿のままの私が五体。それは、無表情のままこちらを見ている。
『さて、1時間で終わるかな』
軽く首を鳴らしながら、五体のうち一体へと視線を向ける。中央に立つその一体だけが、明らかに違っていた。重いチャクラが空気を押し、じわりと肌にまとわりつく。今まで処理してきたクローンとは別格で、確実に“私”に近づいている。
私の極秘任務。それは大蛇丸、正確には薬師カブトが造った〝私のクローン〟の処理だ。研究施設が爆発したと風の噂で聞いたのは1年ほど前。その混乱に紛れて失敗作が外へ流れたらしい。中途半端な実験体の後始末を、あの二人がするはずもない。だからこそ私が尻拭いをする羽目になった。自分自身の、なり損ないを。
先に動いたのはクローンだった。五体が同時に動き出し、床を蹴る音が重なって空気が震える。左右、正面、背後、一瞬で距離が詰まり完全に包囲された。反射的に力を引き出しクナイを抜くと、金属音が狭い空間に鋭く弾けた。その中で、中央の個体だけが攻撃に転じない。
「……オマエ……イル……ホ……シイ……ホシイ」
掠れた声が、空気を引き裂くように落ちる。喉の使い方をまだ覚えきれていない、不完全な発音。それでも、その目だけははっきりと私を捉えていた。
『お話もできるようになったんだ』
「ホシイ……オマエ……」
中央の個体がもう一度繰り返す。〝欲しい〟それは命令でも反射でもない、明確な意思だった。ぞくりと、背筋を冷たいものが這い上がる。
『本当にあの人、嫌いだ』
思わず吐き捨てる。脳裏に浮かぶのは、薄く笑う薬師カブトの顔。あの僅かな血だけで、ここまで進化させるなんて。執着と研究欲の塊だ。それに加え、たとえ昔の身体だとしても、このまま各里で問題を起こせば争いに発展しかねない。これはもう、里の問題にもなりうる重大な案件だった。
『造ったものは最後まで責任持って欲しいわ』
そう吐き捨てた直後だった。ドンッ!!と、鼓膜を叩く爆音が空気を裂き、次の瞬間、地面が弾けた。突風が吹き荒れ、視界が白く揺れる。咄嗟に近くの木へと跳び、チャクラを流して吸着するが、それだけでは足りない。クナイを幹に突き立て、無理やり体勢を固定する。砂塵が舞い枝が軋む。その荒れ狂う風の中に、明らかに異質なものが混じっていた。禍々しいチャクラ。
『……ナルト……』
胸の奥が、嫌な音を立てる。この気配を知らないはずがない。昔、自来也さんとの修行中、谷へ落ちた時に感じたあの力。けれど、今感じているものはそれとはまるで違った。比べものにならないほど暗く、重く、荒れ狂っている。あの時は、ナルトが自分の意思で引き出した力だったけれど、今は違う。そこに制御の気配はない。
暴走。
その二文字が、はっきりと脳裏に浮かんだ。
『ごめん、少し遊んであげたかったけど……ちょっと急用ができちゃった。本気出すね』
意味なんて分からないだろう。それでも、目の前の彼女に向けて告げる。本当は綱手さんに分析結果を必ず報告しろと言われている。けれど、この状況でまともな資料なんて作れる気がしない。どうせ後でどやされる。脳裏に拳骨が浮かび、小さく息を吐いた。なら、せめて。殲滅済みという結果だけは完璧に出す。体内のチャクラを一気に引き上げる。今、出せる限界まで。血管が軋み、肺が焼けるように熱い。
『口寄せ、モデル〝ゼウス〟……10分……いや、5分で終わらせる』
地面に手をつき、印を切る。指先から流れ込むチャクラが大地を震わせ、バチバチと空気が裂ける音が走る。静電気が肌を刺したその瞬間、頭上を覆う雷雲がうねった。まるで呼応するように渦を巻き、重く沈み込んでいく。
『ハァ……ハァ……七分か……まだ修行が足りないな……』
頬の汗を拭いながら辺りを見渡す。焼け焦げた匂いが一面に立ち込め、再生不可能なほどのダメージを負ったクローンたちが地面に無造作に転がっていた。確認しようと身をかがめた、その時。
ドンッ‼︎ ドカーーン‼︎
衝突音と爆発音が、何度も向こう側から響いてくる。どうやら、あちらも戦いが本格化しているらしい。急がなければ。踵で地面を蹴り、そのまま一直線に音のする方へと駆け出す。近づくにつれて、空気が変わっていく。重い、まとわりつくような禍々しいチャクラ。木々の間を抜けた瞬間、視界が開けた。
そこにいたのは、赤黒いチャクラに包まれたナルトだった。背後で尾が揺れる。一つ、二つ、三つ、そして四つ。地面は抉れ、木々は折れ、周囲は無惨な光景に変わり果てている。その惨状に思わず息を呑んだ、その瞬間。
ナルト「ガァァァァァッ!!」
咆哮とともに、巨大な腕のようなチャクラが振り下ろされる。その一撃で小さな身体が弾き飛ばされた。
『サクラ!!』
地面に叩きつけられたサクラの体が、砂埃を上げながら転がる。それでも四尾のナルトは止まらない。赤黒いチャクラが渦を巻き、再び巨大な腕が振り上げられる。
間に合え。
地面を強く蹴り、振り下ろされる軌道へと強引に身体を割り込ませた。クナイを構えたまま、真正面から受け止める。衝撃が腕を突き抜け、地面が割れ、足が沈む。それでも、私は退かない。
『……ナルト』
低く呼ぶ。クナイにチャクラを纏わせておいて正解だった。生身だったら、とっくに折られていたはずだ。圧し掛かる力に腕が軋み、苦しさに顔を歪めながらも、負けじと口角を上げる。
『それは……っ……やり過ぎなんじゃない』
赤黒いチャクラの奥。理性の消えた瞳が、ゆっくりとこちらを向く。そして私を捉えた瞬間、新しい獲物でも見つけたかのように、ニタリと口角が吊り上がった。今の彼には、私の声はまったく届いていない。
ヤマト「 名前⁉︎」
『ヤマト隊長! 私が時間を稼ぐから、急いでよ‼︎』
叫びながら、さらに力を引き出す。さっき使ったものとは違う、もう一つの力を。胸の奥に沈めていたそれを、静かに解放する。
『秘術・魂写し〝イザナミ〟』
片手で印を結んだその瞬間、私の瞳の青が淡く輝いた。次第にその光は強さを増し、やがて神々しい輝きへと変わっていく。光は瞳から体内へと流れ込み、血管をなぞるように全身へと広がった。肩へ、腕へ、指先へ。背中から脚へと駆け抜け、やがて末端まで満ちていく。
満ちた。
力が完全に巡ったその瞬間、自然と口元が弧を描く。地面を蹴り一気に距離を詰め、そのまま四尾のナルトへ真正面から突っ込んだ。赤黒いチャクラが渦巻く中へ迷いなく飛び込み、勢いのまま彼へと抱きつく。
ナルト「ガァァァァァァア‼︎」
咆哮が大地を震わせ、荒れ狂うチャクラが周囲の空気を焼き裂く。それでも、腕の力は緩めない。さらに強く締め付ける。
『久しいなぁぁぁぁぁあ‼︎』
その声は、私のものではなかった。
『この力……随分、捻くれもんに育ったじゃないか! 九尾‼︎』
それはイザナミの声。この術は、イザナミの魂を一時的に私の体へ移すもの。私の肉体を器に、彼女がその力を振るう。周囲で仲間たちが息を呑む気配が伝わるけれど、そんなものに意識を割く余裕はない。何故なら、ナルトの体から溢れ出す灼熱のチャクラが、密着したままの私の体を焼いていく。腕も、肩も、皮膚が焼け爛れていく感覚。それでもイザナミは、口角を下げない。
『アッハハハハハ‼︎‼︎』
狂気じみた笑い声が、私の喉から弾けた。
『力比べと行こうじゃないかぁぁぁぁあ‼︎ 九尾‼︎』
次の瞬間、私の体から膨大なチャクラが噴き上がる。イザナミはこの肉体で引き出せる限界を、一気に解放した。暴走する九尾のチャクラと、イザナミの神々しいチャクラが真正面から激突する。大気が震え、地面が軋む。チャクラとチャクラの、純粋な力のぶつかり合いが始まった。
