遙かなる再会の章
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サクラ「もー、ほんとムカつく!どうして、あんな言い方しかできないわけ!なんで、名前はそんな落ち着いていられるわけ⁉︎」
ばしゃ、と湯を跳ねさせながら拳を振るうサクラ。湯気に包まれた静かな空間に、その怒りだけが浮いている。どうやらサイの言葉は、温泉の癒し効果すら打ち消す威力のようだ。
あの日、シカマルと解散したあと第七班に招集が入った。集合場所へ向かうと、そこには、カカシ先生の代わりに、ヤマトと名乗る上忍が立っていた。そしてもう一人。第七班の欠けた人員として配属されたのが、あの時襲ってきた男、サイだった。その事実を知ったとき、ナルトと同じく言葉を失ったのを覚えている。
こうして私たちは、新しい編成の第七班として天地橋へ向かうことになり、今はヤマト隊長の計らいで温泉のある宿に泊まることになった。けれど、最初の出会いからして、決して良いとは言えなかった。それに加えてサイは相変わらずの調子。サクラの怒り具合を見れば、とてもじゃないが穏やかな空気とは言い難い。これで親睦が深まるかどうか、正直なところかなり怪しい。
『なんでか……』
指先で湯面をなぞると、ゆらりと小さな波紋が広がった。それがゆっくりと溶けていくのを、ぼんやりと眺める。正直、あの言葉に悪意が込められていたなら、きっと腹が立っていたと思う。サスケを助けたいと思っている私たちの班には、彼みたいな人間は不必要だ、そう思ってしまうから。でも……。
『あの人、悪気ないでしょ』
サクラ「だからって!」
『言葉は悪いけど……忍らしい考え方だと思う。大蛇丸の元へ行ったサスケを、里にとって危険因子だと思うのは当然のことだよ』
紙の資料だけでサスケを知る里の人間なら、きっと同じ結論に辿り着く。湯に映る自分の顔は、思ったより穏やかだった。それに、あの人は。
『……忍の闇』
ぽつりと落ちた言葉に、サクラが眉をひそめる。
サクラ「え? ……なんて?」
『あ、ううん……きっと今まで、人とちゃんと向き合ったことがないんだよ』
感情は不必要だと、そう教わってきたのだろう。距離の取り方を知らない、不器用な在り方。それが正しいのかは分からない。けれど、感情はそう簡単に捨てきれるものじゃないと思う。だからこそ。
『サクラ、私たちはいつも通りにぶつかればいいと思う。きっと……そこまで悪い人じゃないから』
ナルトには伝えなくても、彼なら真正面から行くだろう。もちろん、サクラも私も。しばらく黙っていたサクラは、やがて大きく息を吐いた。
サクラ「……あんた、本当にお人好しね」
湯気がふわりと視界を曇らせるその奥で、自分の胸の奥をそっと探る。たとえ、彼が一年前に私を暗殺しにきていたとしても、〝理解したい〟と、そう思った。それが今の私。
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『何も感じないって言う割には、抽象画を描くんだね』
片付けをしていた背中にそっと近づき、指先で一枚紙を拾う。墨の匂いが、かすかに鼻をかすめた。振り向いた彼はいつもの貼り付けた笑みで答える。
サイ「…ずっと、僕のことを見ていましたね。もしかして僕に好意があるんですか」
『……まぁ、そうだね。……一度殺されかけるとさ。なんで狙われたのか、また狙われるのか、どんな敵なのか……知りたくなっちゃうかも』
紙を少し横へずらし彼の顔を覗き込む。するとそこにあったのは、笑顔じゃなかった。無。いや、違う、何かを観察している目だった。
サイ「……なんだ、バレていたんですか。いつ僕だと?」
声色は変わらないけれど、わずかに低い。
『木ノ葉で襲ってきた時だよ』
サイ「……知っていて、あなたは報告せず、同じ任務に就いたんですね。なぜですか」
『だって、サスケを助けたいから。それにはあなたの力が必要だった』
数秒の沈黙。サイの視線が私を測るように細くなる。だが、特に私が攻撃の意思を見せないと判断したのか、やがて彼は何事もなかったかのように片付けを再開した。紙を重ねる音がやけに静かに響く。
サイ「……あなたは変わった人ですね。彼を助けるために、誰にも言わず自分を殺しにきた相手と共に過ごす。到底、合理的とは言えない」
その言葉には非難も皮肉もない。ただ、事実を述べているだけ。私は肩をすくめた。
『合理的…か。あなたが加わったことで、サスケに届くかもしれない。私的には実に合理的だと思うけど』
にっこりと微笑むその瞬間、サイの動きがほんのわずかに止まった。本当に一瞬。錯覚かもしれないほどの間だったけれど、確かに〝想定外〟という空白が生まれた。次の瞬間、手首を掴まれる。ぐい、と引かれ背中に冷たい感触。視界に影が落ち、押し倒されたのだと理解する。見上げると無機質な瞳が私を捉えていた。
サイ「…もし、またあなたの暗殺任務が解かれていないとしても、あなたはそんな事を言えますか」
吐息が触れそうなほど、距離が近い。試す声、揺さぶるための問い。私は瞬きひとつせず見返す。
『言えるよ。だって私、あなたより強いから』
強がりではなく、事実。視線は逸らさない。彼の瞳の奥に、少し微笑む自分の顔が映る。数秒の沈黙。サイの指先にわずかな力が入った。
サイ「……そのようですね」
低く、静かな認定。やがて彼は私の上から身を引き、温度が離れていく。何事もなかったかのように背を向け、集合場所へ向かおうと歩き出すその背中に、声を投げた。
『一つだけ。あなたの刃が私に向うと、私は何も思わない。けど、それが私の大切な人に向けられた時は、容赦はしないから』
声にほんの少しだけ殺気が滲んだ自覚はある。だからこそ隠さない。足音が止まり、ゆっくりとサイが振り返る。
サイ「あなたは、やはり危険ですね」
敵意ではない、分析でもない。私の瞳をしっかり見つめる目は、どこか興味に近いものだった。
『あと、忘れ物』
サイ「ありがとうございます」
さっき手に取った絵を受け取った頃には、もうあの貼り付けた笑みに戻っていた。完璧な仮面に何事もなかったかのような声。
『ナルトと仲良くね』
サイ「…それは彼次第じゃないでしょうか」
感情の読めない声音。けれど、その瞳の奥にはほんのわずかに思考の影が落ちている。
『じゃあ、あなた次第でもあるよ』
そう返すと、一瞬だけ沈黙が落ちた。サイは何も言わず踵を返す。足音が遠ざかり、残るのは墨の匂いと静かな余韻。何も感じないと言う彼。けれど、時折見せる揺らぎと、彼の描いていた抽象画。形にならないものを、形にしようとする手は対照的すぎる。だから面白い。
『さて、どう引っ張り出そうか』
無機質な仮面の奥にある本当の色。感情を知らないと言うなら、教えてあげるのも悪くない。
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