中忍選抜試験編 前編
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『サスケ、……ちょっと好きかも』
それは、あまりにも唐突な一言だった。簡単な任務が予想以上に早く終わり、余った時間で連携強化のための鈴取りを終えた、その直後のこと。ぽつりと落とされたその言葉に時間が一瞬止まる。
サスケ「……はっ?」
ナルト・サクラ「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
場の空気が一瞬で凍りついた。あのカカシでさえ、本から顔を上げて二度瞬きをした。
サクラ「ちょ、ちょっと何言ってるのよ!?」
『さっきの鈴取りで、サスケと息がぴったり合った気がしたの。線と線がスーッと繋がる感じで……すごくよかったんだ』
サクラ「そ、そう……鈴取りね……」
その一言で、張り詰めていた空気が一気に緩み、分かりやすいほどに全員の肩から力が抜けた。けど、俺の中に残ったのは別の感情だった。ほんの一瞬だけ、胸の奥に引っかかるような違和感。残念だなんて、そんなふうに思った自分に気づいて無性に苛立つ。
何を期待していたんだ。
カカシ「確かに、あの時の動きは良かった。もっと練習すれば、さらに良くなるな」
『よし! じゃあ今から練習しよう!』
サクラ「だ、だめよ!? サスケ君と二人きりなんて!」
『じゃあ、サクラも一緒にやろうよ!』
ナルト「なら俺も混ぜろってばよ!」
『フフッ、みんなで強くなろう!』
サスケ「なっ……勝手に決めんな!」
カカシ「青春してんなぁ〜」
次の瞬間、ぐいっと手を掴まれ、そのまま引っ張られるように走り出す。嫌がる俺の手をがっちり掴んで、逃がす気なんて最初からないらしい。正直、うざい。ペースは乱されるし、急に引っ張るな。それでも。振り払うことはしなかった。
嫌でも付き合わされた、なんて思いながらも。
どうせやるなら、せめてこの術を成功させて奴を倒す。
サスケ「へばんなよ‼︎」
『分かってる‼︎』
視界の端に今にも限界が来そうな名前の姿が映り、思わず声を張り上げた。あと少し、あと少しであいつに届きそうなんだ。
戦いの中で、名前が見ている景色がそのまま俺の目に流れ込んでくるような感覚があった。言葉はいらない、目で意思を伝え呼吸を合わせ、俺たちは次の一手に全神経を叩き込んだ。
オロチマル「あなたは邪魔よ‼︎」
『カハッ‼︎』
一瞬の隙だった。名前の首が掴まれ、そのまま木へと叩きつけられる。その衝撃で影分身が消え、白い煙が舞い上がる。視界が遮られ二人の姿が見えなくなる。
サスケ「……名前!」
叫んだ直後、煙の中心がゆらりと持ち上がる。
そこから飛び出してきたのは。
サスケ「フッ……お前は本当に、期待を裏切らねぇな」
目が合い、その一瞬ですべてを理解する。手裏剣を放ち、ワイヤーで女を木へ縛りつけ、同時に印を結び息を大きく吸い込む。
サスケ「火遁・龍火の術!!」
『火遁・蒼龍火の術!!』
放たれた炎はワイヤーを伝い、赤と青が絡み合いながら唸りを上げ、一直線に女を包み込んだ。
オロチマル「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
響き渡る断末魔。それを最後にゆっくりと写輪眼を解いた。視線を名前へ向けると、咳き込みながらも、なぜかピースサインを向けてくる。ふざけてんのか。一瞬そう思ったが、その目は笑ってるのに真剣だった。
額から血を流し、ふらつきながらこちらへ向かってくる名前。俺のチャクラも限界が近いし、この戦闘の音で新手が来たらまずい。早くここから離れなければ、そう思ったその時だった。身体が、ぴたりと止まり、指先一つ動かせない。
サスケ「くっ……体が……金縛りか」
オロチマル「素晴らしい。その年で写輪眼をここまで……」
サスケ「⁉︎…なんで…直撃した…はず」
オロチマル「心配しなくとも、ちゃんと当たっているわ。ただ意味があるのか、ないのかの違いよ」
サスケ「クソ野郎がっ」
オロチマル「あなたはまだ強くなれる。私の名は大蛇丸よ。もし君が強さを求め、私に会いたいと思うのなら、この試験を必死で駆け上がることね」
ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。炎に焼かれ崩れたマスクの隙間から、ひとつの目がじっと俺を見据えていた。その視線が絡みついた瞬間、背筋にぞわりと悪寒が走る。
『サスケに……近づくな!』
その声と同時に、横から名前が割り込むように俺の前へと立った。小さいはずの背中がやけに大きく見える。
オロチマル「辛そうね。でも今はあなたよりサスケ君よ……そういえば、腕のお返しがまだだったわね」
不気味な笑みを浮かべながら、大蛇丸と名乗った女は、振り下ろされた名前の拳を軽々と受け止め、そのまま無造作に放り投げた。突風のような衝撃に視界が大きく歪む。
サスケ「名前‼︎」
目が合った。ほんの一瞬だったはずなのに、やけに長く感じた。なのに手も足も動かない。どうにもならない現実が全身を締め付け、苛立ちだけが逃げ場を失ったように膨れ上がっていく。
オロチマル「これで邪魔者はいなくなったわ」
サスケ「てめぇ……ッ……‼︎……急に、くるし……」
次の瞬間、大蛇丸の首が伸び、牙が俺の首へと突き立てられた。焼けつくような痛みが走り、視界が揺れる。意識が削られていく。喉が締まり、うまく息ができない。それだけじゃない。体の内側を何かが這い回るような異様な感覚に、吐き気が込み上げた。
サクラ「サスケ君!?」
オロチマル「サスケ君は必ず私を求める……力を求めてね」
サクラ「アンタ! サスケ君に何したのよ!?」
言葉を理解する余裕なんてもうない。音も景色も遠ざかっていく中で、ただ誰かの手を握っていた気がした。温もりだけがかすかに残る。
名前。
その名前だけが最後まで頭に残り、意識はそのまま闇に沈んでいった。
