風影奪還の章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それからの日々は、イタチの厳しい修行に明け暮れた。暁の任務で彼が姿を消すことはあっても、戻ってきた途端、修行は何事もなかったかのように再開される。容赦はなく、気を抜く隙など一瞬たりとも与えられなかった。
この森はかつて私の一族が暮らしていた場所だ。今もなお強い結界が残っているおかげで、暁に察知されることはなかった。本当は彼らを野放しにしておきたくなんてなかったけれど、今の私では歯が立たない。
まずは強くなること。イタチのもとで力を磨くこと。それだけが私に残された唯一の選択だった……のだが一つだけどうしても無視できない問題があった。
『ま、待って!』
その声にイタチの動きがぴたりと止まった。私を見下ろす視線が、静かにこちらへ落ちてくる。
イタチ「……どうした」
本当に理由が分からない、とでも言いたげな表情。その無自覚さに思わず言葉が詰まる。私は慌てて服元を押さえ、乱れた呼吸を整えながら訴えた。
『昨日も……ううん、ここ四日ずっと。朝から晩まで修行して……夜も……ほとんど眠れてない。正直、身体がもたない……』
言い終えると同時に情けない沈黙が落ちる。イタチは数秒だけ瞬きをし、わずかに首を傾けた。
イタチ「……何か問題があるのか」
『だから、それが問題だって……っ』
言葉を重ねようとしたその瞬間、イタチの指先がそっと私の顎をすくい上げた。不意に視線が絡み息を呑む。距離が一気に縮まり彼の気配がすぐそこまで迫る。唇が触れるほんの寸前、低く落ち着いた声が耳元に落ちた。
イタチ「誤解するな。お前を壊すつもりはない」
今度は抵抗する余裕すらなかった。触れられた瞬間、息を奪われる。動きはあまりにも静かで、無駄がなくて、完璧で、抗うという選択肢そのものが最初から用意されていなかったかのようだった。
唇が離れても、胸の奥に残る熱は消えない。じわじわと体の内側にこもっていく感覚に、思わず指先が震える。ほんの少し距離が空いたその刹那、彼はいつもと変わらない淡々とした声で告げた。
イタチ「……愛している」
その言葉は熱よりも深く、静かに体の芯へ落ちてくる。表情はほとんど変わらないのに、瞳だけがわずかに揺れていて、それが何よりも雄弁だった。
胸がきゅっと締めつけられ息が詰まる。言葉が追いつかず、ようやく絞り出した声はひどく弱々しい。
『…そんなの…ずるい。そんなふうに言われたら……逆らえない』
イタチはほんの一瞬だけ笑った。気づかなければ見逃してしまうほどかすかな笑み。
イタチ「…あぁ。お前の弱点はすべて理解している」
その声音に欲や支配の色はなく、あるのはただ、深く静かで逃げ場のない愛情の重さだけ。私はそのまま彼にそっと引き寄せられる。耳元に落とされる低い囁きに、身体の力が抜けていき意識がゆっくりと溶けていった。
________ って、なんて事まで思い出すのよ…私。
頬に熱が集まり思わず顔を背ける。隣を走るカカシ先生は、理由が分からないといった様子でわずかに首を傾げた。
『スパルタな先生に修行を見てもらってました』
イタチの名を口にできるはずもないので、私はナルトたちとはぐれたあとの、もう一つの事実だけを選んで話す。実際、修行に付き合ってくれたのは彼のほかにもう一人いる。「誰とだ?」と聞かれたので説明を続けた。
『私の一族の人です。正確には……祖先、ですね』
そう答えながら、脳裏にあの森の光景がよみがえる。イタチと修行していたあの場所は、もともと私の一族の拠点。
森の奥には小さな祠があり、そこには一族の先祖の意識だけが残されている。肉体はなくとも思考と記憶だけが形を保ち、後の世に力を託すために存在しているのだという。
私はその意識と対話を重ねながら、修行を続けていた。祖先…イザナミの話では、同じような拠点は全国各地に点在しており、それぞれに異なる先祖の意識が眠っているらしい。そこを巡り、与えられた課題を乗り越えることで、段階的に力が引き上げられていく。どうやら、そういう仕組みらしかった。
すべてを説明し終えると、カカシ先生はしばらく無言になり、眉間を押さえたまま考え込んでいた。
カカシ「……まぁ、お前の一族については、自来也様から相当特殊だとは聞いてる。だから、そこまで驚きはしないけど……」
一拍置いて、ちらりと横目で私を見る。
カカシ「それで?本当に大丈夫なのか、それは」
『大丈夫です。とりあえず……20%くらいなら、力を安定して使えるようになりました』
そう答えた瞬間、彼の表情がはっきりと曇った。
カカシ「……それは、安心していい方の数字なのか?」
『たぶん……大丈夫、です』
カカシ「おいおい。たぶんが一番信用ならないんだけど」
深く息を吐きながらも、その声色は完全な叱責ではない。呆れが半分、心配が半分、そんな不器用な優しさが滲んでいた。その反応に、私はただ苦笑するしかなかった。
