風影奪還の章
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前方、空を滑るように飛ぶ粘土で形作られた鳥。その口の中には、かつて助けたいと願った彼がいる。
旅の途中だった。風の噂で耳にした我愛羅の風影就任。嬉しくて、信じられなくて、気づけば祝いの花束を抱えて砂の里へ向かっていた。望んでいたのはもっと穏やかな再会。風影として里に立つ我愛羅の姿を遠くから見て、ただ一言。
『おめでとう。さすが、我愛羅だね』
それだけを伝える、そんな未来。なのに、現実はあまりにも残酷だった。今、彼は敵に攫われ、私はその背を追っている。まさか、こんな形で再会することになるなんて。
カカシ「おい、聞いてるか?」
『うん。ちゃんと聞いてます』
そう答えながらも、視線は前方から逸らさない。カカシ先生は遠距離戦を得意とする相手への対処法を、落ち着いた声で説明し続けていた。耳を傾けながら、同時に私は意識を内側へと沈めていく。ざわつきかけた感情を押さえ込み、呼吸を整え、精神を必死に安定させる。今は冷静でいなければならない。強く握り締めた拳の内側で皮膚が食い込み、じんわりと血が滲む痛みすら、今は遠い。
カカシ「俺は、シカマル並みの頭と、遠距離専用の補助忍術を持ってる」
ナルト「なら条件満たしてんじゃん!」
カカシ「だから落ち着けって言ってるだろ」
『カカシ先生。ちなみに……どんな術ですか?私、得意とまでは言えませんけど、遠距離攻撃ならできます』
ナルト「えっ⁉︎ 名前、遠距離の術なんて聞いてないぞ⁉︎」
『ナルト達と離れてから、使えるようになったから』
カカシ「……本当に、驚かせてくれるな。遠近両用のオールマイティーなんて、そうそういない」
そう言いながら、カカシ先生はじっと私を見つめる。それは、瞬時に戦況を組み立て、私を戦力としてどう活かすかを計算している目だった。私は小さく息を吸い込み、親指に歯を当てた。
『口寄せの術』
次の瞬間、私の前に顕現したのは、守神である鳥の姿をしたチャクラの塊だった。輪郭は淡く揺らいでいるのに、その存在感は不思議なほどはっきりとしている。本来は名もない存在だが、呼ぶたびに不便だったため、私は半ば無意識に〝ピーちゃん〟と名付けていた。ピーちゃんは羽音ひとつ立てずに宙を舞い、ふわりと私の肩へ降り立つ。
『詳しく説明している時間はありませんが……攻撃方法は、弓矢による遠距離攻撃です』
カカシ「それは好都合だな。俺の術も、走りながらだと制御が不安だったところだ。援護を頼む」
私は頷き、前方へ意識を向ける。すると、隣から流れ込むチャクラの気配に思わず目を見開いた。カカシ先生の左目へ、凄まじい量のチャクラが集中している。背筋がぞくりと震えた。この術が、ただの忍術ではないことだけは分かる。
カカシ先生の準備が整うまで、敵にこちらの狙いを悟らせるわけにはいかない。降り注ぐ起爆粘土を次々とくないで弾き落とす。爆発音が響き、土煙が舞うなか、ナルトが痺れを切らしかけたその時、背後の空気が変わった。額当てがふわりと持ち上がり、露わになった左目。赤く染まった瞳の奥で、紋様がゆっくりと回転していた。
万華鏡写輪眼。
思わず息を呑む。彼の瞳はイタチのものとは少し違うけれど、その奥に潜む力は同じくらい底知れなかった。静かで鋭い視線。まるで標的のすべてを見透かしているかのような、その眼に目を奪われる。
『モデル、アルテミス』
肩に止まっていた〝ピーちゃん〟が私の声に応えるように震え、手の中で確かな重量を伴って弓の形を成した。指先に伝わる感触は冷たく、けれどしっかりと馴染む。
『いつでもいいですよ、カカシ先生』
カカシ「……ほんとに、頼りになっちゃって」
苦笑混じりの声。その言葉が終わるより早く、空間がぐにゃりと歪んだ。思わず目を見開く。何もないはずの場所が捻じれ、引き寄せられるように一点へ収束していく。
デイダラも危険を察したのだろう。粘土の鳥が空中で不自然に左右へ揺れ、必死に逃れようとしていた。私は静かに息を吸い弦を引き絞った。狙うのは本体じゃなく、その進路。放たれた矢は唸りを上げて風を裂き、一直線に空を貫いた。
デイダラ「……チッ。嫌な連携……なっ⁉︎」
その一瞬、万華鏡写輪眼の視線が、確かに標的を捉えた。空間が大きく歪み、デイダラの腕が抵抗する暇もなく削り取られ、別の次元へと消えていった。
カカシ「……っ」
カカシ先生の喉から押し殺した苦鳴が漏れ、身体がわずかによろめく。私は反射的に腕を伸ばし、その身体を支えた。肩は上下に揺れ、額には冷や汗が滲んでいる。無理をしていたことは、一目で分かった。
『私、強くなったんで。いつでも頼ってくださいね』
戦場には似つかわしくないと分かっていながら、私は小さく笑う。カカシ先生は一瞬きょとんと目を見開き、それから、ふっと力が抜けたように笑った。
カカシ「ほんとに……いろんな意味で、お前には敵わなくなりそうだよ」
『それ、褒め言葉として受け取っておきます』
カカシ「ああ、最高級のね」
苦しそうな顔をしながらも浮かべられたその笑みに、胸の奥が少しだけ温かくなる。私はそっと視線を前へ戻した。そこではナルトが必死に粘土の残骸を掻き分け、その中から我愛羅の身体を引きずり出していた。
胸が締め付けられる。どんな答えが待っているのかなんて、分かりきっている。あれほど静かなチャクラを、私は知っている。それでも、それでも行かなければならない。たとえ、どんな現実が待っていようとも。
『……我愛羅』
無意識に零れたその名は、風にさらわれるように消えていった。
