風影奪還の章
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前方、空を滑るように飛ぶ粘土で形作られた鳥。その口の中には、かつて助けたいと願った彼がいる。
旅の途中、風の噂で耳にした我愛羅の風影就任。祝いの花束を抱え、砂の里を訪れている最中の出来事だった。まさか、こんな形で再会することになるなんて。望んでいたのはもっと穏やかな再会だった。風影として里に立つ我愛羅の姿を遠くから見て、ただ一言。
『おめでとう。さすが、我愛羅だね』
それだけを伝える、そんな未来。それなのに今、彼は敵に攫われ私はその背を追っている。……それでも。大丈夫、呼吸は乱れていない、心もちゃんと落ち着いている。三年前の私とは違う。
カカシ「おい、聞いてるか?」
『うん。ちゃんと聞いてます』
そう答えながら、視線は前方から逸らさない。カカシ先生は、遠距離戦を得意とする相手への対処法を、いつもと変わらない口調で淡々と説明していく。
その声を聞きながら、私は意識を内側へと沈めていった。ざわつきかけた感情を押さえ込み、呼吸を整え、精神を必死に安定させる。今は冷静でいなければならない。強く握り締めた拳の内側で皮膚が食い込み、じんわりと血が滲む痛みすら、今は遠い。
カカシ「俺は、シカマル並みの頭と、遠距離専用の補助忍術を持ってる」
ナルト「なら条件満たしてんじゃん!」
カカシ「だから落ち着けって言ってるだろ」
軽口を叩き合う二人を横目に見ながら、私は静かに一歩前へ出た。
『カカシ先生。ちなみに……どんな術ですか?私、得意とまでは言えませんけど、遠距離攻撃ならできます』
ナルト「えっ⁉︎ 名前、遠距離の術なんて聞いてないぞ⁉︎」
『ナルト達と離れてから、使えるようになったから』
カカシ「……本当に、驚かせてくれるな。遠近両用のオールマイティーなんて、そうそういない」
そう言いながら、カカシ先生はじっと私を見た。眉間にはうっすらと皺が寄っているけれど、その視線にあったのは警戒ではない。瞬時に戦況を組み立てる忍としての冷静な計算。使えるかどうかを見極める目だった。私は親指に歯を当て、浅く息を吸った。
『口寄せの術』
次の瞬間、私の前に顕現したのは守神である鳥の形をしたチャクラの塊。輪郭は淡く揺らぎながらも、その存在感ははっきりとしている。名もなき存在だが、呼びかけるには不便で私は半ば無意識に〝ピーちゃん〟と名付けていた。
それは羽音も立てず宙を舞い、ふわりと私の肩へ降り立つ。その瞬間、ナルトとカカシ先生、二人の視線が自然とそこへ吸い寄せられたのが分かった。
『詳しく説明している時間はありませんが……攻撃方法は、弓矢による遠距離攻撃です』
簡潔に告げる。余計な言葉はいらない。今は使えるかどうか、それだけだ。
カカシ「それは好都合だな」
一瞬の思考の後、カカシ先生は即座に結論を出した。
カカシ「俺の術も、走りながらだと制御が不安だったところだ。援護を頼む」
その声には迷いがなかった。私は短く頷き、すぐに視線を前へ戻す。次の瞬間、カカシ先生は左目へとチャクラを集中させた。空気が、ぴんと張り詰め、肌に触れる感覚が変わり周囲の音がわずかに遠のいた。
カカシ先生の準備ができるまで、敵にこちらの狙いを悟らせないよう、降り注ぐ起爆粘土を、私は迷いなくくないで弾き落とす。衝撃と粉塵が舞う、その瞬間だった。背後の空気がはっきりと変わった。ぞくり、と背筋をなぞる冷たい感覚。振り返らなくても分かった。カカシ先生のチャクラが、今までとは明らかに違う〝質〟へと切り替わったのだ。
次の瞬間、額当てがはらりと持ち上がる。露わになった左目。赤く染まる瞳孔、その奥で歪むように回転する紋様。
万華鏡写輪眼。
彼…イタチとは違うけれど、同じくらい底が知れない。静かで、鋭く、すべてを見通すようなその眼に、思わず息を呑む。……けれど、立ち止まって見惚れている暇はない。
『モデル、アルテミス』
肩に止まっていた〝ピーちゃん〟が、私のチャクラに呼応するように震えた。次の瞬間、鳥の輪郭が淡く揺らぎ、溶けるように崩れていく。収束し、凝縮され私の手の中で、確かな重量を伴って形を成した。
弓。
指先に伝わる感触は冷たく、けれどしっかりと馴染む。呼吸が自然と整った。
『いつでもいいですよ、カカシ先生』
カカシ「……ほんとに、頼りになっちゃって」
その言葉が終わるより早く、空間が軋んだ。視界の一角が不自然に歪む。引き延ばされ、ねじれ、そこに“穴”が開きかけている、異様な感覚。
デイダラもそれを察したのだろう。粘土の鳥が空中で不自然に左右へ揺れる。逃げ場を探すように、高度を変え進路を乱す。私は静かに息を吸い弦を引き絞った。狙うのは本体じゃなく、その進路。放たれた矢は唸りを上げて風を裂き、一直線に空を貫いた。
デイダラ「……チッ。嫌な連携だぜ」
万華鏡の視線が確かに敵を捉えた。次の瞬間、空間が大きく歪む。引き裂かれるような感覚とともに、デイダラの腕が抵抗する暇もなく削り取られ、別の次元へと消えていった。
カカシ「……っ」
隣で、カカシ先生の喉から苦痛を押し殺した声が漏れる。身体がわずかに揺らいだのを見て、私は反射的に腕を伸ばし、その体を支えた。あとは……ナルト。頼んだよ。
ナルト「螺旋丸!!」
叫びと同時に渦を巻くチャクラが叩き込まれ、ナルトの一撃は正確に起爆粘土を捉えた。
『大丈夫ですか』
カカシ「……なんとかな」
そう答える彼の肩は大きく上下に揺れ、額には冷や汗が滲んでいる。無理を押していたことは、一目で分かった。
『私、強くなったんで。いつでも頼ってくださいね』
戦場には似つかわしくないと分かっていながら、私は小さく笑う。カカシ先生は一瞬きょとんと目を見開き、それから、ふっと力が抜けたようにアハハと声を立てて笑った。
カカシ「ほんとに……いろんな意味で、お前には敵わなくなりそうだよ」
その言葉が、胸の奥に静かに染み込んでくる。私はそっと視線を前へ戻した。そこではナルトが、粘土の残骸の中から我愛羅を引きずり出している。
どんな答えが待っているのかなんて、分かりきっている。それでも、行かなければならない。取り戻すために。たとえ、どんな現実が待っていようとも。
我愛羅……。
